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第5章:職人気質の鍛冶屋NPC攻略!

 VRMMORPG《Twilight Fantasia》の世界で、シフォン(Ciffon)は「あざとかわいい」戦略を存分に活かし、着々と“推しメン”を増やしていた。

 すでに無骨な戦士グラント、クールなアサシンのカイ、寂しがり屋ヒーラーのエルネスト、そしてカリスマギルドマスターのレオンハルトまでもが、シフォンの魅了に屈し、彼女を支えてくれる存在となった。


 そんなある日、シフォンは次なるターゲットに思いを馳せていた。

(私の戦略は順調そのものね。強い戦士、機敏なアサシン、心優しいヒーラー、ギルドマスター……いろんなタイプが揃ったけど、そろそろ装備面を強化したいわ。可愛い武器や防具をもっと集めたいの。そうなるとやっぱり職人気質な鍛冶屋NPCに懐柔して、特別な装備を作ってもらうのがベストね!)


 NPCはプレイヤーキャラほど話術が通じない面もあるが、このゲームは高度なAIを搭載していて、プレイヤーとの交流で好感度が変動するタイプのNPCも存在する。特に鍛冶屋などの生産系NPCは、信頼を得れば特別なアイテムを作ってくれることがあるらしいと、ベータ時代に小耳にはさんでいた。


「うふふ、今日のターゲットは鍛冶屋さん♪」

 シフォンはウサギ耳アクセを揺らしながら、プレリュードタウンの商業地区へ足を向ける。ここには多くの商人NPCや職人NPCが店を構えている。


 石造りの小さな工房。扉の上には古ぼけた鉄製の看板が吊るされ、そこには無骨なハンマーのマークが刻まれている。店内からは金属を叩くカンカンという音が微かに響いてくる。

 ここだ。確かこのNPCは、頑固で不器用な職人気質で、プレイヤーに対してあまり愛想がないと噂されている。どんなにお願いしても「今忙しい」「俺の武器がわかるのか?」と素っ気なく返されることも多いとか。


「よーし、入ってみよう!」

 シフォンは決意を固め、扉を押して中へ。


 店内は狭く、煤けた壁に様々な武器や防具が掛けられている。光沢のある新品というより、実用一点張りといった雰囲気の物ばかりだ。店内には鍛冶台があり、NPCの鍛冶屋が背を向けて金属板を叩いている。

 大柄な男のNPCで、名前は「ロジャー(Roger)」。灰色の作業着に分厚い革の前掛けをし、逞しい腕でハンマーを振り下ろす。筋骨隆々だが無口で、プレイヤーが来てもすぐには振り向かないことで有名だ。


 シフォンはツカツカと近づくと、あざとく小首をかしげて「すみませ~ん♪」と甘い声で呼びかける。

 しかしロジャーはそっけなく「……待て、今忙しい」と一言。顔も見せない。


(ふふ、素直に取り合ってくれないところが職人気質っぽくていいわね)


「ごめんなさい、急いでないからゆっくりでいいよ♪」

 シフォンはすぐに謝り、無理に急かさない。こういう相手には、まず低姿勢と敬意を示すことが大事だ。


 しばらくしてロジャーはハンマーを置き、ようやくこちらを振り返った。

 険しい眉、無骨な髭、NPCとは思えないほどリアリティある表情。低い声で「で、何の用だ」と問う。


「えへへ、初めまして! 私、シフォンっていいます♪」

 いつものように柔らかな笑顔と甘い声で挨拶。ウサギ耳アクセを揺らし、愛らしさを強調する。

「ここ、すごくいいお店だね! 入った瞬間、金属の素敵な匂いがして、わぁ、本格的な鍛冶屋さんだなぁって感動しちゃった♪」

 まず店そのものを褒める。NPCにも好感度パラメータがあるなら、こうしたポジティブな評価は有効だろう。


「……ふん、こんな煤けた店がいいのか?」

 ロジャーは訝しげだが、ほんの少し関心を示した気配がある。大半のプレイヤーは「もっと強い武器ないの?」と性能ばかり要求するが、シフォンは店自体を気に入ったと誉めた。こうした違いがNPCに影響するはず。


「うん、とっても好き! だって、この壁にかかった武器たち、すごく味があるよね。ピカピカに磨かれたハンマーとか、細かい装飾がされてる短剣とか……見てるだけでドキドキしちゃう♪」

 シフォンは目をきらきら輝かせ、店内を見回す。その仕草は少女が宝石箱を覗くような純粋さを演出している。


「ほぅ……お前、わかるのか? この武器の良さが」

 ロジャーは少し鼻を鳴らしながらも、関心を持ったようだ。「わかるのか?」という問いは、この店の武器に込めた職人魂を理解できるのか、という意味。


「うん、私、戦闘は苦手だけど、物語性のある道具が好きなの。きっと、ロジャーさんはたくさんの思いを込めて、この武器たちを作ったんだよね? そういうの、大切にしたいなぁって思うの!」

 ここでNPC名を呼び、「あなたの作る物には価値がある」というメッセージを送る。職人気質な相手には、自分の仕事を理解してもらえることが何より嬉しいはずだ。


「……お前、面白いことを言うな。普通のプレイヤーは、数値やレアリティしか見ねぇ。俺の武器を『かっこいい』なんて言う奴ぁ、そういない」

 ロジャーは腕を組み、少し柔らかい表情になったようだ。「ほら、これを見てみろ」そう言って彼は、壁に飾られたハンマーを外して見せる。


 そのハンマーは、柄の部分に細かな彫刻があり、ほんのりとした魔力の輝きが宿っている。

「これが俺の初めて作った魔力武器だ。まだ未熟だったが、見た目には凝った。使い手は少なかったがな」

 ロジャーは苦笑気味に語る。


「わぁ……すごい! この彫り込み、細かい模様が綺麗だね。これを見てると、作った人の思いが伝わってくるみたい。きっと当時、一生懸命工夫して作ったんだろうなぁ……」

 シフォンは目を細め、まるで宝物を見るような眼差しを向ける。

 好感度は確実に上がっているはず。NPCとはいえ、AIはプレイヤーの反応を学習する。職人気質な彼を認め、敬意を払うことで感情が動くのだ。


「……お前、変わった客だな。武器を求めて来たんじゃねぇのか?」

 ロジャーは興味深そうに聞く。


「実は、戦闘が苦手だから、強い武器って言われてもピンとこなくって……でも、かわいい装備や、持ってて楽しくなるようなものには目がないの!」

 シフォンは両手を頬に当てて、はにかむように微笑む。

「ロジャーさんが作る物って、職人さんならではのこだわりがあるでしょう? 私、そういうこだわりの詰まったかわいい装備、欲しいなぁ……♪」


「かわいい装備、だと?」

 ロジャーは一瞬、困惑した顔をする。彼の武器は実用的でゴツゴツしている。かわいい武器なんて、考えたことがないのかもしれない。

 だが、ここでシフォンは「あざとかわいい攻撃」を繰り出す。


「うん♪ 私、小妖精族だから、フリルがついた魔導服とか、キラキラした杖とか、そういうのが好きなの。ロジャーさんほどの腕があれば、きっと世界に一つだけの素敵な装備が作れちゃうんじゃないかなぁって思って……えへへ♪」

 言葉の最後にえへへと照れ笑いを混ぜ、純真無垢な期待を表す。


 ロジャーは眉間に皺を寄せながらも、まんざらでもなさそうだ。

「俺はこれまで、頑丈で使える武器を追求してきたが……かわいさ、か。そんな観点で作ったことはねぇな」

 彼はハンマーを置き、顎に手を当てて考え込む。職人という生き物は、新しい挑戦には燃えるものだ。まして、それを求めるのがこんな可憐なフェアリーなら、やりがいを感じるはず。


「ロジャーさん、私、別に無茶な要求するつもりはないの。ただ、ロジャーさんがもし気が向いたら、ちょっとだけチャレンジしてみてくれたら嬉しいな……なんて。職人さんの世界って奥深いんだろうなぁ♪」

 シフォンはあくまで強要せず、相手の創作意欲を刺激する形で要望を伝える。


 すると、ロジャーは低く唸るように言う。

「面白ぇ……かわいい武器なんてガキの遊びかと思ってたが、お前みたいな客が喜ぶ顔も見てみたい。今まで俺の店に来た奴は『もっと強く』『もっと数値を上げろ』ばかり。だが、お前は装備に想いを求めてる。……少し考えてみるか」


「わぁ、本当に!? ロジャーさん、優しい! ありがとう♪」

 シフォンはぱっと笑顔を咲かせ、両手を合わせて跳ねるように喜ぶ。ウサギ耳アクセが揺れ、フリル魔導服がふわりと舞う。その様子を見て、ロジャーは目を丸くする。


「……そんなことで喜ぶのか?」

 職人気質で不器用なロジャーは、シフォンの無邪気な反応に面食らっているようだ。


「だって、ロジャーさんが私のために考えてくれるなんて、嬉しいんだもん! 私、そういう気持ちが込められた装備が欲しいの♪」

 ここで「私のために」というキーワードを入れて、相手に特別感を与える。NPCだろうと特別扱いすれば好意度が上がる。AIはプレイヤーの発言パターンを分析する。評価を上げれば、クエストやイベントが解放される可能性がある。


 ロジャーは少し照れたように目をそらす。

「……まだ確約はできねぇが、ちょっとした依頼を聞いてくれたら考えなくもない。特別な素材が必要なんだ。かわいい装備を作るには、硬さだけでなく光沢や色味も重要になる。そういう素材を集めてきたら……作ることを検討してやる」


(きたきた、特別な依頼だわ! NPCの好感度イベントが進行中って感じね♪)


「もちろん! 教えてくれたら、私一生懸命がんばるよ! ロジャーさんが望む素材なら、きっと可愛い装備のために必要なんだよね♪」

 シフォンは乗り気な返事をする。依頼を素直に受けることで、ロジャーに「この子は俺の言うことを真面目に聞く真心ある客だ」と思わせる。


 ロジャーは軽く頷き、説明を始める。

「……魔光樹(まこうじゅ)の樹液がいる。その樹液はうっすらと光を反射し、染色剤として使える。可愛らしい色合いを出すのに最適だが、採取は簡単じゃねぇ。街外れの薄暗い森に生える希少な木から樹液を取ってこい。あと、クレスタ鉱石という淡い色彩を帯びた特殊な鉱石もあれば、金属に美しい発色を与えられる。これらを集めたら、試しに作ってやるよ」


「わぁ、すごい……本格的なんだね! わかった! エルネストたちに頼んで、ヒーラーのバックアップも受けながら集めてくるね♪」

 シフォンはグラントやカイ、エルネスト、そして最近仲間になったレオンハルトの影響力も総動員すれば、素材集めはたやすいと踏んでいる。自分では強くなくとも、もう彼女には“推しメン”たちがいるのだ。


「なんだ、そのエルネストたちってのは?」

 ロジャーが不思議そうに聞く。


「ふふ、私には頼もしい仲間がいるんだ♪ みんな、私がお願いしたら一緒に行ってくれるの! だって私、戦闘苦手だけど、みんな優しくて強くて、とても頼りになるんだよ♪」

 ここでさりげなく、彼女が多くの仲間に恵まれていることをアピールする。ロジャーに「あの子は皆に愛されている」という印象を与えれば、なおさら彼女を特別扱いしたくなる。


「ふん……仲間想いな子だな。ま、いい。素材が手に入ったら、俺のところに持ってこい。期待させるなよ?」

 ロジャーはツンとした口調を維持しつつ、すでにシフォンへの好感を隠しきれない様子だ。


「うん、ありがとうロジャーさん! じゃあ、頑張って集めてくるね♪」

 シフォンは弾むような足取りで店を出る。顔は無邪気な笑顔、内心は「作戦大成功!」とほくそ笑む。


 素材集めは案の定、簡単だった。グラントは猪モンスターからシフォンを守り、カイは闇に紛れて樹液のある木を探し、エルネストは回復して皆をサポート。レオンハルトは自身のギルドから特殊な鉱石を提供するよう指示した。彼らはそれぞれシフォンを喜ばせたい一心で動くから、素材集めなどお茶の子さいさいだ。


 後日、集めた素材をロジャーの鍛冶屋に持ち込むと、ロジャーは驚いた表情で「もう集めたのか……」と唸る。そして黙々と作業に入った。

 ハンマー音が響き、金属が熱され、樹液が染料として塗り込まれる。

 シフォンは完成を待つ間、あざとくロジャーを見守り、「わぁ、すごい集中力……ロジャーさん、かっこいいなぁ!」と囁く。

 その度にロジャーは照れたように「うるせぇ、黙って待ってろ」と言うが、口元は緩んでいる。


 そして完成したのは、淡いパステルカラーの小さな杖と、ほんのりピンク色のメタルプレートを使った軽いガントレット。

 杖は先端に花を模した鉱石があしらわれ、軽い魔力強化も施されている。ガントレットは薄い金属でできた飾り防具だが、フリル魔導服にも不思議と似合いそうなデザインだ。


「わぁぁぁ!! すっごく可愛い!! ロジャーさん、すごいよ! こんなにかわいい杖とガントレット、はじめて見た!」

 シフォンは大興奮で跳ね回る。ウサギ耳アクセがぴょこぴょこ揺れ、声は弾む。


「そ、そうか……初挑戦だったが、思ったよりうまくいったな。お前が喜んでくれりゃ、俺も嬉しいよ」

 ロジャーは照れ隠しに鼻をこすりながら、目を逸らす。すでに“あざとかわいい”シフォンに完全に陥落気味だ。


「ロジャーさん、ほんとありがとう! これ、大事にするね! こんな素敵な装備があれば、私もっと頑張れる気がする♪」

 シフォンは嬉しそうに新しい装備を抱え、ロジャーににっこり微笑む。その笑顔はまるで太陽のような温かさ。

 NPCロジャーは満足げに頷き、「もし他にも作ってほしい物があれば、言えよ……その、考えてやらんでもない」と不器用な口調で言う。


「うん、絶対また来るね♪ ロジャーさん、本当にありがとう! やっぱりロジャーさんはすごい職人さんだね!」

 最後にもう一押しの賛辞。NPCロジャーの好感度は天井を突き抜けているに違いない。


 こうしてシフォンは、職人気質の鍛冶屋NPCも攻略した。彼はプレイヤー以上に実直な職人魂を持ち、かわいい装備を作るなどという発想はなかったが、シフォンの純粋な誉め言葉で意欲をかき立てられ、特別装備を生み出してくれた。


 帰り際、シフォンは店の扉を開きながら、「これからもロジャーさんのお店、ちょくちょく来るね~♪」と手を振る。

 ロジャーは「おう……待ってるぜ」と照れくさいような声を出し、その姿は頑固で不器用な職人というより、どこか新しい世界を知った喜びに満ちているように見えた。


(ふふっ、これでかわいい装備路線も万全♪ この世界では、あざとかわいさこそ最強の武器ね)


 シフォンは内心でほくそ笑む。すでにプレイヤーキャラだけでなくNPCすら虜にしているのだ。

 愛らしい装備で着飾り、強い仲間や有力NPCのサポートを得て、シフォンは思う存分このファンタジー世界を楽しみ続けるだろう。

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