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第4章:カリスマギルドマスター撃沈!

 VRMMORPG《Twilight Fantasia》が正式リリースされてから、シフォン(Ciffon)は己の計算高い「あざとかわいい」戦略で着々と「推しメン」を増やしていた。

 無骨で頑固な戦士・グラント、クールで冷酷に見えるが骨抜きになったアサシン・カイ、寂しがり屋で一途なヒーラー・エルネスト――既に三人の男性プレイヤーが彼女の虜となり、陰に日向にサポートを買って出るようになっている。


「うふふ、みんな今日も元気かなぁ♪」

 シフォンはパステルカラーのフリル魔導服を揺らし、ウサギ耳アクセをぴょこんと弾ませながら街中を歩いていた。周囲にちらほら見える男性プレイヤーたちは、通りすがりに彼女を一瞥し、なぜか胸を押さえて悶絶するような仕草をするが、シフォンは慣れたもので気に留めない。


 そんな中、目立つ一団がいた。

 街の中央広場、噴水の周りに堂々と陣取り、まばゆい装備を纏ったプレイヤーたち。その中でひときわ目を引くのは、一人の男性。華麗なローブを羽織り、胸には高級な装飾品を輝かせ、背後には屈強な部下と思しき冒険者がずらりと並んでいる。

 噂によれば、この世界でも有数の大規模ギルド「アルカディア」を率いるギルドマスター、レオンハルト(Lionhart)という男だという。


 レオンハルトは高慢で、周囲を見下しがちな態度で有名らしい。カリスマ性はあるが、他人を顎で使い、自分を慕う者には気前がいいが、そうでない者には冷たい。それでも、その強さと組織力、そして美形アバターから、ファンや信奉者は多いという。


(へぇ、あの人があの有名ギルドのマスターなのね。確かに格好いい装備でオーラもあるわ。でも、周りはみんな彼を恐れてるみたい)


 広場の人々がレオンハルトの一団に道を譲る中、シフォンはさも無邪気な子うさぎのように、その人垣をぴょこっと覗き込んだ。

 こういう「高慢系男子」は、シフォンにとって格好の獲物だ。謙虚に純粋に称賛すれば、その自尊心をくすぐって落とせる可能性が高い。彼は今、自分を称える者には甘い態度を見せるはず。ただし、シフォンはそれを無意識のふりをして自然にやるのがコツだ。


「わぁ……すごい……」

 シフォンはわざとらしくない程度に小さな声で呟く。花畑を見るような純粋な目でレオンハルトを見つめる。その瞬間、周りの部下たちが「な、なんだあの可愛い子は?」と視線を送り始める。


 レオンハルト自身も、気づいたのか、冷ややかな笑みを浮かべて視線を返す。

「なんだ、見たことのないフェアリーがいるな」

 その声は威厳に満ち、周囲を自然と黙らせる圧力がある。


 シフォンはあざとかわいく両手を胸元で組み、一歩前へ踏み出す。背後には偶然通りかかったグラント、カイ、エルネストが気づいて立ち止まるが、今はレオンハルトに集中する。

「レオンハルトさん……ですよね? 有名なギルドマスターさんって聞いたことがあって……わぁ、本当にオーラがすごいです! 皆さんをまとめて、こんな立派なギルドを率いてるなんて、本当に尊敬しちゃいます♪」


 甘く、透き通るような声で褒め称え、瞳をキラキラさせて見上げる。

 部下たちは「おお……この子、わかってるな」と内心ほくそ笑む。レオンハルトは基本的に崇拝されれば上機嫌になる。しかし、ただの追従には飽きているかもしれない。ここで大事なのは、シフォンの純粋な賞賛を伝えることだ。


「ふん、俺たちの名声はこの街で知らぬ者はいない。まあ、お前のような可憐なフェアリーにも知れ渡っているなら、悪い気はしないな」

 レオンハルトは鼻を鳴らしつつ、上から目線で答える。

 普通なら反発を感じるところだが、シフォンはあえてそこをさらなる褒め言葉で押していく。


「やっぱりレオンハルトさんはすごいなぁ……こんなに沢山の人をまとめられるなんて、私、感動しちゃいます! 実は私、あまり強くなくて、いつも仲間に助けてもらってるんです。だから、こんな風に皆さんを導けるレオンハルトさんは……本当にすごいカリスマ性をお持ちなんだなって!」

 言葉尻に「尊敬」「感動」「カリスマ」といったキーワードを添える。こうすればレオンハルトの自尊心がくすぐられること間違いない。


「カ、カリスマ性か……はは、わかっているじゃないか」

 レオンハルトは一瞬言葉に詰まる。純粋な眼差しで称えられるのは慣れているはずだが、シフォンの表情や声色はただの信者以上の破壊力がある。

 しかも彼女は美しいフェアリー姿で、ウサギ耳アクセやフリル付き魔導服を身につけている。絵本の中から出てきたような可憐さだ。そんな娘がまっすぐ敬意を向けてくると、レオンハルトの胸に奇妙な感覚が芽生える。


 後ろでグラントが気まずそうな顔で小声でつぶやく。「シフォン、なんであんな奴に媚びてるんだ?」

 カイは不機嫌そうに目を伏せ、エルネストは「ひ、人が多いよぉ……」と後ずさる。

 しかしシフォンは彼らの不満を気にせず、さらなる攻撃を仕掛ける。


「ねぇ、レオンハルトさん……こんなに立派なギルドを作るのって、きっと大変だったんですよね? きっとたくさん頑張って、努力して……だから皆さんが付いてきてくれるんだと思います。私みたいな弱いプレイヤーが言うのも変だけど、心からすごいなって思います! 皆さんが憧れるわけですね♪」


 「皆さんが憧れるわけですね♪」――この一言が効く。

 レオンハルトは常に人から羨望されているが、心の底から尊敬している風に無垢な瞳で言われると、不思議な暖かさを感じる。

 普通は彼を恐れおののいて「すごいですね、すごいですね」と金魚のフンのように媚びる者ばかり。だがシフォンは媚びているようで、その表情や声は純粋無垢で、計算づくとは思えない自然さがある。


「ふ、ふん……お前、名前はなんだ?」

 レオンハルトは少しぎこちなく問いかける。


「私、シフォンっていいます♪ ベータテストから参加してるんだけど、まだ戦闘が得意じゃなくて……。でもレオンハルトさんたちみたいに強くて頼れる人がいると、この世界がとっても素敵に見えます!」

 再びさらっと褒め言葉を混ぜる。相手を褒めれば褒めるほど、相手はシフォンの存在に酔わされていく。


 レオンハルトは知らないうちに顔を赤らめていた。高慢な彼にとって、こんな風に「純粋な尊敬」を向けられるのは新鮮で心地よい刺激だ。

 部下たちは「あれ、マスターが顔赤くしてる……?」「嘘だろ、あの高慢なボスがこんな反応するなんて」と内心驚いている。


「シフォンか……その、まあ、お前のような小妖精族なら、俺たちが攻略した厳しいダンジョンはまだ早いだろうが……」

 と、レオンハルトはわざとらしく話をはぐらかす。だが、その声には動揺が混じっている。


(よしよし、もう完全に効いてる♪ あとは一押し!)


「レオンハルトさんって、どんなダンジョンも怖くないんでしょうね~♪ 私、そんな勇気ある人ってほんとに憧れます! いつか私も、レオンハルトさんみたいにみんなをまとめたり……なんて無理かもしれないけど、せめて近くで応援したいなぁ……♪」

 ここであざとく「応援したい」なんて言えば、相手は「この子をがっかりさせたくない」と思い始める。


「お、お前が応援してくれるというのなら、まあ、その、俺も悪い気はしない」

 レオンハルトは言いながら、熱に浮かされたような表情になる。

「そうだ、シフォン……今度、俺のギルドで得たレアアイテムを見せてやろう。きっとお前は驚くだろう。俺たち『アルカディア』はこの世界で最も多くの希少品を集めているからな!」

 自慢と同時に彼女の関心を繋ぎとめようとする行動だ。


「えっ、本当ですか!? わぁ、素敵……それってレオンハルトさんが頑張って手に入れたものなんですよね? 楽しみだなぁ♪」

 期待に輝く瞳で微笑むシフォン。ここまでくると、レオンハルトは彼女のために何でも見せてやりたくなるだろう。


 そのやり取りを遠巻きに見ていたグラントとカイは居心地悪そうだ。

「シフォンがあんな奴に懐くなんて……」

「ふん、あのギルマスもシフォンにころっと行ったな」


 一方エルネストは落ち着かない様子で小声で言う。「し、シフォンさん、あの人、こわそう……でも、シフォンさんは仲良くできるの?」

 シフォンは振り向いて3人ににっこり微笑み、「みんな仲良くしてね~♪」といつものセリフで取り繕う。

 その笑顔で、3人も何も言えなくなる。結局、シフォンが望むなら彼らは従うしかない。


 レオンハルトは更に踏み込んだ提案をする。「そうだ、シフォン……お前に特別に、俺のギルドハウスに来ることを許してやろう。普通のプレイヤーは立ち入れないが、お前なら……」

 ご機嫌取りが止まらなくなっている。シフォンが見せた純粋な尊敬と微笑みは、レオンハルトの虚栄心をくすぐり、今や彼は彼女に認められたい、喜ばせたいと無意識に願い始めている。


「ほんとに!? そんなすごい場所、私が行っていいの? わぁ……ありがとうございます、レオンハルトさん、優しい……♪」

 「優しい」と言われて、レオンハルトはドキリとする。普段、高慢な態度で「優しい」と言われることなど滅多にない。むしろ恐れられ、畏怖されることはあっても、純粋に優しさを指摘されたことは少ないだろう。


「……ま、まあ、俺もたまには優しさを見せてやってもいい。お前がそんなに俺を称えてくれるならな!」

 声が上ずっていることに気づいてないのか、レオンハルトは妙に饒舌だ。部下たちは困惑しつつも、その様子を見守るしかない。


(これで決まりね。あのカリスマギルドマスターも、この通り♪)


 シフォンは心中で勝ち誇る。

 自分はあくまで「かわいいフェアリー娘」を演じ、純粋な憧れと敬意を示しただけだ。だが、それが彼のプライドの裏側にある「もっと認められたい」という欲求を満たし、彼を虜にする魔法になっている。


 実際、レオンハルトはもうシフォンに高慢な態度を取りきれなくなっている。むしろ、彼女の前では「かっこいいレオンハルトさん」であろうと必死だ。


「ねぇ、レオンハルトさん、私、これからもこの街で頑張って成長していこうと思うんです。いつか、レオンハルトさんのような大きな存在になれたら……って、夢を見てもいいですか?」

 ここで淡い憧れを示す。自分を高めの存在と見てくれる彼女を前に、レオンハルトは優越感と保護欲を感じる。


「ああ、いいとも。お前のような可憐なフェアリーが夢を追うなら、俺はそれを応援してやる! 何か困ったことがあれば、アルカディアに声をかけろ。俺が力になってやる」

 レオンハルトは力強く宣言する。すでに完全陥落、彼女に良い顔をしたい一心で言葉を紡いでいる。


「わぁ……! 本当にいいんですか!? レオンハルトさんが力になってくれるなんて、心強いなぁ……」

 シフォンは目を輝かせ、ウサギ耳アクセをぴょこんと揺らし、ピンク色のフリル袖を合わせて感激のポーズ。

 その仕草に、レオンハルトは完全にノックアウトだ。


「う、うむ……お前がそう望むなら、俺はなんでもしてやる!」

 もはやギルドマスターとしての冷静さはどこへやら。彼は部下たちに「後でシフォンのためになにかレアなアイテムを用意しろ」などと指示し始める。


 遠巻きに見ていたグラント、カイ、エルネストは呆然。

「なんだあのギルマス、完全にシフォンに落ちてるじゃないか……」

「シフォンって、いったいどんな魔法を使ってるんだ……?」

「うわぁ、もう敵無しって感じだ……」


 シフォンは3人を振り返り、「みんな見て! レオンハルトさんって本当すごいね、私、感動しちゃった!」と茶番を続ける。

 3人は呆れつつもシフォンに甘えられれば抵抗できず、黙って従う。


 こうして、第4の「推しメン」、カリスマギルドマスター・レオンハルトがシフォンの手中に落ちた。

 彼女は恋愛ハーレムを作りたいわけではない。ただあざとかわいさで周囲の男性たちを落とし、いつでも助けてもらえる状況を作るのが目的だ。

 レオンハルトの影響力は絶大で、彼が味方になれば、レアアイテム調達や難関ダンジョン攻略も容易になるだろう。


 シフォンは内心でほくそ笑む。

(ふふっ、これでまた一人、頼れる“推しメン”が増えちゃった♪ みんな仲良しだね~♪)


 表向きはあざとく笑い、

「レオンハルトさん、これからもよろしくお願いしますね♪」

と告げるシフォン。


「お、おう! よろしくな、シフォン……!」

 レオンハルトは顔を赤らめ、まるで恋する少年のように不器用な笑顔を見せる。

 こうしてまた一人、カリスマギルドマスターでさえ彼女の可愛らしさと純粋な崇拝心(に見える演技)に撃沈し、ハーレムの一員となったのだった。



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