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第11章:覇道の拳王を懐柔!

 VRMMORPG《Twilight Fantasia》で、シフォン(Ciffon)はあざとかわいい戦略で数多の強者を手中に収めてきた。

 しかし、その中にはまだ北斗の拳のラオウを彷彿とさせる存在はいなかった。

 その男、拳王ラオ・ウ(Lao-Wu)は、巨大な体躯と恐るべき拳であらゆる敵を蹂躙し、その名を天下に轟かせているという。誰も逆らえない圧倒的な力、その覇道を止める者は皆無。彼はこの荒廃した岩山地帯で己の領域を築き、配下を従え、頂点に立つ存在として振る舞っていた。


 荒野には砂煙が立ち、廃墟と化した集落が残る。この地は戦乱と死を物語る陰鬱な光景。

 シフォンはふわふわパステルカラーの魔導服とウサギ耳アクセを揺らしながら、その危険な場所へ足を踏み入れた。

 そこに、漆黒のマントを纏い、威厳に満ちた巨躯の男が仁王立ちしている。頭上の空さえ威圧するその姿――拳王ラオ・ウである。


 彼の周囲には怯えるならず者たちがひれ伏していた。その場には重苦しい沈黙が漂う。

 シフォンはあざとい笑顔を浮かべ、意を決して声をかける。


「えへへ……あなたが拳王ラオ・ウ様、ですよね? すごい迫力……噂通り、いえ、それ以上です!」


 ラオ・ウは冷ややかな眼差しで小さなフェアリー娘を見下ろす。

 「貴様、小娘……我が名を知ってここへ来たか。無謀な愚か者め。我に近づくとは…貴様は死に値する、だが、何の用だ?」


 その声は低く、荒野の風より冷たい。だがシフォンは怯まず、無邪気な笑顔を崩さない。


「ごめんなさい! でも、ラオ・ウ様の力が凄いって聞いて、会いたくなっちゃったんです♪ あんなに強い方がいるなら、この乱れた世界だって、ラオ・ウ様がおさめれば秩序が生まれるんじゃないかなって……私、そう思っちゃって。」


 拳王は仮面もなく、その素顔で強烈な覇気を放っている。その視線は、弱者など見る価値もないと告げるかのようだ。

 「フン……貴様、弱き存在のくせに、我に秩序を求めるか。天を掴み、我が生涯に一片の悔いなしと宣する我にとって、弱者など雑草に等しい。だが貴様、なぜ我を見て安心などとほざく?」


 シフォンは静かに微笑み、目を潤ませる。

「だって、ラオ・ウ様ほど圧倒的な強さを持つお方が頂点に立てば、無秩序な暴力や戦乱より、まだ筋の通った支配が行き渡りそうな気がして。私みたいな弱い者でも、ラオ・ウ様の下なら、無意味に踏みにじられないかもしれないって……勝手に思ってしまうんです。」


 彼女の言葉にラオ・ウは僅かに眉を動かす。

 「ほう……弱者が我を見て安心だと? 奇妙な小娘よ。貴様は我に恐怖でなく安寧を見出すとは面白い。だが勘違いするな、我は慈悲を持たぬ。死兆星を見たものは死ぬ…それが宿命である。貴様が我の覇道に無関係なら問題ないが、近づきすぎれば、貴様はすでに死んでいる、だ。」


 高圧的な声。だが、シフォンは引かない。むしろキラキラと目を輝かせる。

「それでもいいんです! ラオ・ウ様はラオ・ウ様の道を行けばいい。その強さと威厳、その拳で天を問うお姿を見られるだけで、私には力が湧いてくるんです♪」


 拳王は腕を組み、冷静な眼差しで小娘を見下ろす。

 「我が覇道は天に挑む道だ。誰が天を決めるのだ! 我が拳が全てを決せしとき、貴様はただ見るがいい。だが、なぜ貴様はそこまで我を讃える? 強者を前にして怯えるどころか、貴様は自ら進んで縋ろうというのか。」


 シフォンは頷く。

「だって、ラオ・ウ様のような本物の強者は他にはいません。おまえに教えてやろうと言われなくてもわかります、この世には己の力の及ばぬものがあるとしても、ラオ・ウ様ならばそれすら越えるかもしれないって! 私、そんな偉大な方がいることが、もう嬉しくて……」


 彼女の純粋な賛美に、拳王は微かな笑みを浮かべる。

 「フフ……貴様、面白い小娘だな。弱者は大抵、我を恐れ隠れるか、牙を剥いて果てるのみだ。だが貴様は違う。無謀というべきか、素直というべきか。まぁよい。貴様のような虫けらが、我の天を掴む瞬間を拝むのも一興だ。」


 その言葉を聞き、シフォンはぴょこんと跳ねるように喜ぶ。

「わぁ、本当ですか!? ラオ・ウ様って、やっぱり優しいですね! こんな私にも、その偉大な瞬間を見せてくれるなんて……」


 ラオ・ウの目が鋭く光る。

 「優しいなどというな。貴様は死に値するかもしれぬ弱者、我はただ己が道を行くまでだ。貴様がそれを見て喜ぶも勝手、価値などない! だが、それで奮い立つというなら黙って見ているがいい。」


 シフォンはうっとりと微笑む。

「はい! それで十分です♪ ラオ・ウ様がどんな道を行こうと、私は遠くからそのお姿を見て、感動するだけで満たされちゃいます。ラオ・ウ様、本当にすごいお方……」


 拳王は微かに顎を引き、

 「よかろう。貴様は弱くとも、その純粋な称賛は嫌いではない。おまえが存在することを許そう。せいぜい我が覇道を目に焼き付けるがよい。我が生涯に一片の悔いなし……いずれ天をも征する我が姿をな!」


 こうして、拳王ラオ・ウはシフォンの存在を受け入れた――それは慈悲ではなく、余裕と威厳に裏打ちされた認可に過ぎない。だが、これで十分だった。

 彼女が危機に陥れば、ラオ・ウは「あれは我が認めた虫けらだ、手を出すな」とでも言い、一蹴するかもしれない。もしくは天を掴むその時、シフォンが見守る前で堂々と立つだろう。


 シフォンは「みんな仲良しだね~♪」と無邪気に笑うが、拳王ラオ・ウという圧倒的存在を味方につけた意義は計り知れない。

 ラオ・ウは静かに荒野の空を見上げる。

 「死兆星を見た者は死ぬ…それが宿命である。だが貴様は生きよ、弱きフェアリーよ。我が覇道の証人として、この世に残れ。」


 その言葉は厳しくも、シフォンがこの世界でさらに安定した立場を得ることを意味していた。

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