36 幕間
なだらかな丘陵地帯の草原を風が撫でている。
その風に、自然のものではない匂いを嗅ぎ分けるのは、純粋に自分の願望のゆえだろうか――と、彼女は考えた。
その匂いは、血の匂いだ。
これまでの献身を報われることを望む、同胞たちの血の匂いだ。
金にも見える栗色の髪をひっつめ、黒い制服に身を包んだ彼女は、やはりいつものように草を掻き分けてその草原を進み、そして、ぼんやりと流れる雲を目で追う友人の姿を見つけ出した。
その友人は人ではなかった。
大きな身体を伸び伸びと横たえ、愉快そうに空を見上げ、その色の移り変わりを、雲の流れを、飽きることなく目で追っている。
かれらの領域に空はないのか、と、彼女は尋ねたことがある――答えはあいまいだった。
望むことが出来れば、と、かれは応じたのだ。
けれども、これほど豊かな色彩は、なかなか簡単に望むことが出来るものではないね、と。
彼女は短く息を吐いて、微笑んだ。
「――魔神さん、魔神さん」
かれはぱちくりと瞬きし、人ならざるその身を起こす。
かれを見上げて、彼女は微笑む。
「――ねえ、魔神さん」
かれは照れたように微笑む――そう見える。
「私は自分を善人だと思ってるの」
かれは首を傾げたようだった――言われずとものその意図は分かる。
善人ってなんだ? と尋ねているに違いない。
ゆるゆると首を振り、彼女は目を伏せて、つぶやいた。
「……ただ消費されていく同胞を、もう私は見ていられないの」
顔を上げて、彼女は片手を伸べた。
「ねえ、魔神さん。お礼をあげるわ。
先に渡しておくわね、私のお願いを聞いてくれることへのお礼――」
それは、握りこぶしほどの大きさの、黄玉の色にきらめく秘宝。
「――この、『神の瞳』」




