18 大計画
「この考えなし」
「ごめんなさい」
「あんたが言ったんだろう――グレートヒルでは僕より格上の魔神だって召喚されてるだろうって。それがなんだよ、あっさり僕頼みの作戦にしちゃって」
「あら、でも」
シャーロットがけろっとして言った。
「お前が言ったんでしょう? 捕まった私を逃がすことくらいならわけないって」
マルコシアスは舌打ちした。
「――失言だったな。
アグレアスを召喚してる猛者がいたら、僕だってどうにも出来ないからね」
「序列二番の魔神は、さすがに召喚されてないと思うわ」
「どうだか」
マルコシアスが額を押さえる。
シャーロットに貸し出された客用寝室でのことだった。
品が良い調度品が揃えられ、カーテンは洒落た花柄だった。
シャーロットのトランクも外套も、今はこの部屋に運び込まれている。
夫人はシャーロットが彼女の夫の書斎から出てくると、それを待ちかねていたように彼女をこの部屋に案内し、「サムのことはよく見ておきますから、ご安心なさって」と片目をつむり、恐縮し続けるシャーロットに温かいココアを振る舞った。
先ほど、彼女のこの家での生活を軽視するようなことを言った手前、シャーロットは夫人の目を見られなかった。
ココアを飲んで落ち着いたシャーロットは、そこで初めてマルコシアスに人の姿をとるよう命じたわけだが、そうしていつもの少年の形をとったマルコシアスは、やはりというべきか壮絶な不機嫌顔だった。
ベッドの真ん中にわがもの顔で座り、端っこに腰掛けるシャーロットを、もはや見ることもしていない。
シャーロットは、なにはともあれ、この気位の高い魔神の機嫌をとることにした。
「でも、ねえ、考えてみてよ。お前が私を守り切ってさえくれれば、一気に前進よ。私、今日の昼間まで、ほとんど何の手掛かりもない状態にいたじゃない? それを思えば目覚ましい進歩だわ」
マルコシアスは溜息を吐いて、ようやくシャーロットの方を向いた。
淡い金色の瞳が呆れている。
「仰せのとおりに、レディ。どうせ僕はあんたのしもべだよ。
――あんたのその、躊躇いなく自分を賭け事のチップにして、ポーカーテーブルに置くような無謀さ、僕は嫌いじゃないけど、でも報酬が懸かってるなら別だから」
この場合、プレイヤーはロッテ自身の理想の人生だ。ロッテは、彼女の理想の人生が駄目になるならば、以後の人生など用無しだと放り投げてしまえる――だから躊躇いなく自分をチップにする、――と、そう、こっそりとマルコシアスは考えた。
もちろんそれを感知することはなく、シャーロットは面喰らった。
「あら、賭け事を知ってるのね。昔の主人に賭け事が好きな人でもいたの?」
マルコシアスは溜息を吐いた。
かれは癖のようにストールを整えた。
「まあね」
「――それがトンプソンじゃなきゃいいけど」
不安げにつぶやき、それからシャーロットはにっこり笑った。
一転して、口調は明朗になった。
「大丈夫よ。お前っていうカードがあるわ。
とってもいいカードだって思ってるのよ」
▷○◁
「アーニーぃぃぃ……」
再び現れたトカゲに恨みがましげに名前を呼ばれ、アーノルドはきょとんとした。
「おれ、何かした?」
「しただろ!」
魔精は叫んで、ちょろちょろとアーノルドの左腕を駆け上がった。
アーノルドは思わず身悶えする。
「ちょ、ちょっと、くすぐったい! くすぐったいって!」
げらげら笑い始めたアーノルドだったが、次の瞬間に耳許で囁かれた台詞に、彼は瞬間的に凍りつくこととなった。
「シャーロット・ベイリーに会ってたね?」
「…………」
言葉の意味を理解したとたん、どっと冷や汗。
半端な笑い顔のまま、アーノルドは必死にとぼける。
目を逸らす必要もないのに、彼はわれ知らず斜め上の方を見ていた。
「な――なんの話かなぁ……」
「とぼけても無駄だぞ。しかもお喋りしただろ」
「覚えてない……」
「嘘つけ。『期待外れを神さまと人に向かって言うのはナンセンス』なんて珍妙な台詞、きみの口からしか聞いたことないよ」
(シャーロットぉぉぉ!!)
アーノルドが心中で絶叫する。
確かに彼は、リンキーズにかれの主人とシャーロットの密談をこっそり見聞きしてほしいと頼み、その話をしてくれないかと頼んだ。
だが、まさかその密談で、シャーロットがアーノルドの口癖を復唱してしまうとは。
(なんでだよ! どういう流れでそうなったんだよ!
ってかよく覚えてたな!?)
がっくりとうなだれるアーノルド。
その腕からぴょんと飛び降りたトカゲは、冷ややかな目で彼を見上げた。
「アーニー、確かベイシャーから戻ってすぐ、ここに放り込まれてたよね?」
「……その通りです」
「ってことは、あの子に会ったのはベイシャーでのことだ」
アーノルドはだらだら冷や汗を流しつつ、意味もなく床の上で姿勢を正していた。
両手は膝の上。視線はトカゲの手前の床の一点。
「僕とご主人ときみが離れてたのは、あの子が逃げ出しちゃって、それを捜そうって言ってたときだけだね」
アーノルドは、自分の流した冷や汗で、そろそろ自分の周りに池が出来るんじゃないかと思った。
むろん、それは空想上のことであって現実ではなかったが。
「えーっと」
「で、僕らはあの子を捜し回って、戻ってきて合流したきみはこう言った。『見つからなかった』ってね」
「…………」
「見つけてたんじゃないか!!」
リンキーズのキィキィ声が炸裂した。
思わず耳を塞ぎ、平身低頭するアーノルド。
「ごめんなさいっ! ごめんなさいっ!」
「ごめんじゃ済まないよ!」
リンキーズが吠える。
トカゲが怒鳴り声を上げることを「吠える」と形容できるのであれば。
かれの怒髪天を察知して、かれに仕える精霊が、ぱちぱちと忙しなくあちこちではぜるような音を立てはじめた。
不穏な光が部屋の隅で明滅する。
アーノルドは縮み上がった。
すっかり打ち解けていたが、このトカゲは悪魔だ。
「この馬鹿っ! ちゃんと言ってくれれば! あの子を見つけたって言ってくれれば! あの大騒動は起こらなかったんじゃないか! 僕だってひどい目に遭ったんだぞ! くそっ、最近こんなのばっかりだ!」
「ごめんって! ごめんって! 落ち着いてくれ!」
「これが落ち着いていられるか!」
怒鳴ったものの、トカゲはその場で忙しなくくるくると回ったあと、いくぶんか落ち着いた声を出した。
「――アーニー、あの子に会ってたね?」
「……はい」
アーノルドはうなだれて認めた。
「なんで捕まえなかったのさ」
アーノルドはちょっと考えた。
主に、ここで嘘をつくことの利点を。
ところが彼が考えているあいだに、トカゲはどんどん言葉を追加してしまった。
「僕だってちょっとは考えたよ。たとえば、あの子を捜し当てたけれどもあの魔神に邪魔されたとかさ。あの魔神って意地が悪いから。けど、それだったら逆に、きみが無事に僕らのところに戻ってこられたわけがないだろ?
だから、僕としちゃきみの正気を疑うけども、きみはあの子を見つけて、暢気におしゃべりして、ただ戻ってきたってことになる。違う?」
「あー……」
アーノルドは目を閉じた。
なんなんだ、この魔精。悪魔のくせに人間の行動への解像度が高い。
これが召喚慣れしているということか。
かれはときどき、「僕みたいな魔精はあっちへ呼ばれこっちへ呼ばれ、休む暇がないからね!」と誇らしげに困ってみせるが、あれは本当だったのか。
「あー……」
言い淀んでいるあいだにそれが肯定扱いされた。
魔精の瞳に軽蔑が混じりはじめた。
「アーニー、なんであの子を捕まえなかったのさ」
「…………」
黙秘するというよりは、その理由を上手く言葉に表せなかったがためにアーノルドは沈黙したが、そのあいだに魔精はどんどん仮説を追加した。
「僕がこれまで見てきたところによると、こういう愚行に走る人間の動機の八割がたが感情論だ。残り二割が計算。
もしきみが二割の貴重な確率を当ててるなら、きみには何か考えがあったことになるね。たとえば、あの子を連れていったとしても、スミスが約束を果たす気はないって突き止めてたとかね。でも、きみがそういう素振りをしたことはないからね。多分これはないだろう」
「――――」
アーノルドは引きつりながらトカゲの形の悪魔を見ていた。
「八割の話をすると、感情論ってのは、これはきみたちの言う執着のことだろう――最初に二つに分けられる。つまり、きみの、きみ自身への執着と、他の人間に対する執着だ。
見たところきみは、人生にうんざりしてるかも知れないが、特に自殺の趣味があるようには見えないね。自殺ってのは僕らには分からないけどね、人生が終わるってどんな感じなの? あ、まだ経験してないから分からない? そう。経験したら、良かったら教えてよ。これまでの主人の誰一人として、僕がお願いしても教えてくれたことがないんだけどね。
――話を戻すと、つまり、きみ自身への執着ってのはつまり、きみの無事に対する執着のはずなんだけど、きみの行動が招いた結果はそれと真逆だね。
つまり、きみがあの子を捕まえなかった理由はきみ自身への執着じゃない」
アーノルドはようやく、言葉の隙間に自分の言葉を差し込んだ。
「なんかあんた、人間に詳しいね」
トカゲは頭を傾けた。
「きみたちがキノープス暦と呼んでいる暦が、はじめから今に至るまでの時間を倍したよりも長く、僕はきみたちに関わっているからね」
そう言って、トカゲはくるっとその場で回った。
「さて、きみがあの子を捕まえなかった理由はそうすると、きみ以外の、他人への執着だ。
とすると、これまたどっちかなんだ。
つまり、ある人間に対する興味か、無関心だ。
あ、待って、この言葉って僕らが使うときときみらが使うときで、微妙に意味が違うんだっけ?」
「知らない……」
「まあいいや。僕らが相手に“興味がある”っていうときは、そいつがひどい目に遭うことを期待するってことだ。困ってるのとか悔しがってるの、いいよね。
つまり、アーニー、きみが僕のご主人に興味があるなら、僕のご主人の邪魔をしようとして、あの子を捕まえなかったってのも有り得る話なんだ。
――アーニー、僕のご主人に興味あるかい?」
アーノルドは額を押さえた。
「なるほど、悪魔に情はないんだな。――ええっと、おれたちなら、あんたたちが『興味がある』って言うときは、『相手のことが嫌いだ』って言うかな。
で、ええっと、あんたのご主人か。嫌いじゃないよ」
トカゲは理知的な眼差しを見せた。
「興味はないんだね」
「そう言われるとなんか違うような気もするけど、うん、あんたたちの言い回しだとそうなるのかな?」
混乱しながらもアーノルドはつぶやき、トカゲは先ほどとは反対向きに、くるっと回った。
「じゃあ、無関心だ。
つまり、そいつがひどい目に遭うことを期待しない」
アーノルドは思わず、てのひらを相手に見せた。
「ちょっと待って。あんたたちの関心は悪いことに直結するの?」
トカゲの瞳が意地悪そうにきらきらする。
「僕らをなんだと思ってるの。悪魔だよ。
そう呼んだのはきみたちだよ」
「おれには無関心だと言ってくれ」
アーノルドは呻いたが、トカゲは頓着しなかった。
「アーニーは僕に興味があるんだろ。こんなに困ることしてくれちゃって。
――アーニー、あの子に会ってあの子には無関心になったんだ」
アーノルドはとうとう逆襲した。
「なんだよ、やっちゃったことはやっちゃったことだろ! 今さらどうしろって?」
「そっちはやっちゃったことで忘れられるかもしれないけど、僕は違う!!」
トカゲが倍の勢いで言い返してきたために、アーノルドは口をつぐんだ。
少し考えて、口調を落ち着かせる。
「――なんか、新しい命令でもされたの?」
「これからされる!!」
トカゲが右の前肢でべしべしと床を叩いた。
身体が小さいから仕草も小さい。
それなのに、その仕草から伝わる絶望感たるや。
アーノルドは申し訳なさでおろおろしてしまい、迷った結果としてトカゲをてのひらにすくい上げた。
かれを目の前に持ってくると、かれはぽろぽろ涙をこぼしていた。
本物のトカゲが泣くのかどうか、アーノルドはそれを寡聞にして知らない。
ちなみに涙はてのひらの上に落ちてはこなかった。
摩訶不思議な現象により、零れたはしから消えていっているようだった。
アーノルドはうろたえた。
「ごめん、あんたにそんな迷惑をかけるとは思わなかったんだ。本当にごめん」
うぅ、と呻き、トカゲは前肢で器用に涙をぬぐった。
「きみのせいで、僕は魔神と戦争しなきゃならない……」
「えっ」
「あの子がご主人のところに来て……話があっちへいったりこっちへいったり、とにかくふらふらしてたんだけど、結局のところこうなった」
アーノルドは思わず、指先でよしよしとトカゲの背中を撫でた。
「どうなったの、ん?」
「とりあえず、明日、あの子をスミスのところへ連れていく」
アーノルドはトカゲを落としそうになった。
「おい!」
ぴたっとてのひらに張りついたトカゲが抗議する。
アーノルドははっとした。
「ご――ごめん。ただ、びっくりして……」
「もっとびっくりしてくれよ。なんとこの話、あの子の方から出てきた」
アーノルドはぽかんと口を開けた。
それを見て、さっきまでぽろぽろ泣いていたはずのリンキーズが、「リンゴいくつ分かな」とせせら笑った。
アーノルドはあわてて口を閉じ、茫然としながらがっくりとあぐらをかく。
「シャーロットから……? あの子、なに考えてんだ……」
「あの子としては、スミスの目的を知らないと気が済まないらしい。ご主人に連れられていって、そこからちゃっかり逃げ出すつもりだそうだ。
ご主人はご主人で、しっかりあの子を捕まえておけば万々歳、と。
自分を囮にするなんて女の子のやることか? いつから人間の社会はそんなに殺伐としてたんだ?」
ここでまた、少年の手の上でトカゲはよよと泣き出した。
「ご主人が僕に何を命令するか分かる? ご主人が召喚してる悪魔は僕と、あとはふわふわ飛ぶことしか出来ないミーミルだけだよ。ご主人は僕にこう命令するさ――『リンキーズや、あの子を捕まえておいてくれるだろうね?』」
その声があまりにもグレイに似ていたので、思わずアーノルドはぶっと噴き出した。
リンキーズが勢いよくアーノルドのてのひらを叩いた。トカゲの殴打とは。
「笑いごとじゃない! あの子、魔神を連れてるんだよ! マルコシアスだよ!」
「知らねぇ……」
「もの知らず! 大抵は荒事のために召喚される魔神だよ! ちょっと馬鹿だけど、護衛としちゃピカイチ!
そんな魔神に僕が敵うはずないだろ! あっという間に送り返されるよ!」
「死なないんじゃないの……」
「痛いもんは痛いし死なないにしても困ったことはあるの!」
「分かった、分かったから……」
悪魔をいなして、アーノルドはふと考え込んだ。
――シャーロットはスミスのところに向かおうとしている。
アーノルドの目下の目標は、ここを出て自由になるために、スミスに失脚してもらうことだ。そしてあわよくば、スミスの財布を掏ることだ。
シャーロットとアーノルドの利害は一致していると言っていい。
そしてリンキーズの主人は――
「――あんたのご主人って、確かあれだっけ……仕事の……仕事の何か……それがあって、スミスさんにこき使われてんだっけ」
「そうだよ。それがどうしたっていうんだ」
「いや――」
アーノルドに難しいことは分からない、分からないが――
「――それ、スミスさんじゃなくても良くない……?」
同じような権力を持っている輩なら、それこそこのグレートヒルには山ほどいそうだ。
(けど、グレイさんからしたら、自分がもう悪事の片棒担いじまってる以上、スミスさんについていくしかないよな)
てのひらの上で、トカゲがちょろちょろ動く。
「アーニー?」
(けど、あの人の悪事って、なんだっけ――あ、窃盗か。あの盗みと、シャーロットの誘拐か。
けど、盗んだもんもどっかに落としたって言ってたし、騒ぎにはなってないしな。誘拐にしたって、シャーロットが黙っててくれれば分かんないんじゃ……)
「おーい?」
(やってることからして、スミスさん、明らかに悪人だし。ってことは、シャーロットが上手くやってくれてスミスさんが捕まれば、上手くすればそれに乗っかって、グレイさんだって別の人から気に入られたり出来るんじゃないの……)
ちなみにアーノルドのこうした想像の基盤には、すべからく母から枕許で語られた、大団円で終わる御伽噺が横たわっている。
「アーニー?」
(シャーロット、おれのことは覚えてるみたいだし、なんとかしてここから抜け出して会えたら、ちょこっとでもグレイさんのこと頼めたりしないかな……黙っといてくれってだけ……)
それに、シャーロットがスミスの目の前までは連れて行かれず、何かのはずみで連行途中でグレイから逃げ出すことになるかもしれない。
そのときにアーノルドがそばにいれば、スミスの顔は見たことがないだろうシャーロットとその魔神に、「あれこそスミスだ」と指差して教えてやることが出来る。
シャーロットの心象のためにも、アーノルドが誘拐に関わっていたことは伏せた方がいいだろう――何かの偶然でグレートヒルの下働きとして雇われたとか、そういう体でいて、あくまで偶然、彼女を手助けする形になるのがよかろう。
グレイのことは、何か他のはずみで知り合うことになったと言っておくか。
グレイみたいなお人好しは、下働き一人一人にも挨拶しているに決まっている。
――そこまで考えて、アーノルドは顔を上げた。
トカゲは胡乱な顔をしている。
本物のトカゲの顔に表情があるのかはさておいて。
「アーニー、どうしたんだよ」
「リンキーズ、がんばれ」
思わず、アーノルドは激励していた。
リンキーズはますます胡乱な顔をした。
「はあ?」
ここで、「この部屋から抜け出すつもりなんだ」とは言えない。
それを知れば、リンキーズは主人の意向を汲んで、アーノルドをここから出さないようにするだろう。
それは困る。
なので、
「おれも頑張る。リンキーズ、頑張って――その魔神とかち合っちゃっても、死なないように――っていうか、あんまり取り返しのつかないことにはならないように、頑張ってくれ」
とにかく激励した。
リンキーズは目をぱちくりさせてから、悲しそうにうなだれた。
「まあ、僕にはもう、頑張る以外に道はないけどさ……」
アーノルドは声に力を籠めた。
「リンキーズ、あんたのこの仕事が上手くいくように、心から祈ってる」
「え、ありがとう……」
力を籠め過ぎて訝られた。
リンキーズはじゃっかん不気味そうにしている。
アーノルドはリンキーズを注意深く床に下ろし、そしてこぶしを握った。
――あとは、毎朝食事を運んでくる某氏が、連日のアーノルドののほほんとした態度に、油断し切ってくれていることを祈るばかりだ。




