20 幕間
なだらかな丘陵地帯は、瑞々しい新緑に覆われていた。
草原がおだやかな風にゆっくりと靡き、そのさまは、一面に広がる新緑の海に、ときおり白い光の波が走るように見えていた。
彼女は、いつものようにゆっくりと、草を掻き分けるようにしてその草原を歩いていた。
頭上の空は淡い青色、薄い雲が悠々と流れていく。
しばらく歩いて、彼女は足を止めた。
淡い色合いの、金にも見える栗色の柔らかい髪は、ひっつめにされて結い上げられている。
彼女は黒い制服に身を包んでいた。
黄金の肩章には赤い糸が織り込まれており、これは彼女が、官僚であっても軍人に近い立場――軍部を統轄する戦争省に所属することを意味していた。
足を止め、周囲をぐるりと見渡した彼女は、やがて笑い出した。
彼女が政治の中枢に関わる官僚だとは――もっといえば軍人であるとは、容易には信じられないような、のびやかで柔らかな笑い声が、おだやかな空気を伝って草原に広がっていく。
しばらくしてようやく笑いを収めた彼女は、剣ダコの出来た指で目許の涙を拭った。
そして、明るく呼びかけたが、彼女の淡褐色の瞳が見つめる先には、目に見えるだれの姿もなかった――いや、違った。
いま、周囲の空気を白く揺らめかせながら、人ではない何ものかが姿を顕そうとしている。
かれもまた、気まずそうにしながらも可笑しげに、かれなりに笑いを表現する身振りをとっていた。
彼女の声は澄んで、よく透った。
秋空を思わせる声で、彼女は呼ばわっていた。
「――こんにちは、魔神さん。
かくれんぼするなんて聞いてなかったわね?」