歴史的事実
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シャーロット・ベイリー
キノープス暦九三七年―一〇一九年。
研究者。
生涯
ケルウィックにて、銀行員の父のもとに生まれる。
カポーティ初等学校卒業、最年少でリクニス専門学院へ入学。
卒後、九五六年九月から軍省維持室に所属。
九五八年八月、チャールズ・グレース首相の急逝に乗じたジュダス・ネイサン参考役(当時)の議事堂爆破テロの現場に遭遇。
救助されるも、負傷および疾病を得て、九五九年二月までケルウィックの自宅にて療養する。
回復後には軍省を離職し、その後にコルフォードのチャールトン博物館の学芸員の職を得る。
九六一年に結婚。
結婚後も変わらず史学研究に従事するも、魔術師としての活動も注視された。
特に呪文への造詣が深く、生涯に七本の論文を発表、いずれも高い評価を受けている。
七本目の論文において発表された、六つ目の表意文字の発見は、魔術学の歴史を塗り替えている。
リクニス専門学院から、しばしば客員教授として招聘を受けた。
九八三年まで、夫と息子とともにコルフォードにて居住していたが、九八四年には出身地であるケルウィックに戻り、晩年まで生家にて暮らした。
関係者
アーノルド・ベイリー(?年―一〇二一年)
夫。ノースリントンにジョン初等学校を設立したことで知られる慈善家。
生涯を通して、スラムの人々の生活改善に尽力した。
貴族制度に対してしばしば苦言を呈したことでも知られる。
オリヴァー・ゴドウィン(九三五年―一〇一一年)
技術省参考役(九七〇年―九八二年)、およびリクニス学院名誉教授(九八二年―一〇〇〇年)。
リクニス専門学院における先輩後輩の関係。
ゴドウィン夫人(ノーマ・ハイアット・ゴドウィン:論文『隧道建設における呪文理論の発展』にて技術省大臣賞を受賞)とは寮における同室だった縁があり、生涯を通して家族での親交が深かった。
ウィリアム・グレイ(九〇一年―九七八年)
シャーロット・ベイリーの師として名前が挙がることが多い(もっとも、シャーロット・ベイリーが直接彼に師事した記録はない)。
リクニス専門学院での講義において、シャーロット・ベイリーは彼の著作を教本として推薦することが多いことで知られた。
シャーロット本人の著作を避ける理由として、「学生が読むには難解」としたという逸話が残っているが、真偽は定かではない。
他にも、軍省軍事部准将のファーガス・アディントン、同大佐のアベル・ランフランク、軍省維持室室長ザカライアス・リー、リディーベル研究所のロベルタ・マクファーソン・クーパー、エバーカリディ書房のキャロライン・ブラウン・クラークといった著名人と親交があり、人脈の広さでも知られる。
逸話
軍省所属時に発案した呪文について、その効果を打ち消す呪文を論文にて発表したことから、軍省維持室から告訴されている。
敗訴し、十万デオンの賠償金を支払うこととなるも、論文の取り下げ拒否は認められた。
「魔精蒐集家」として知られる。
魔術に秀でた女性であったが、魔神を召喚した記録はない。
ゴドウィン参考役が、九七八年の軍省参考役との対談において、シャーロット・ベイリーが魔神マルコシアスを召喚したことがある旨に触れたとされているが、公式記録の残る対談ではなく、ゴドウィン参考役が挙げた名前がシャーロット・ベイリーであったことには疑問の余地が残る。
最も好んで召喚した魔精は、リンキーズおよびアットイ。
中でもリンキーズについては、葬儀においても(召喚者は不明)召喚されたという逸話が残っている。
召喚陣およびシジルを省略し、悪魔を召喚したことがあるという逸話が残っている。
これについては同様の証言をする者が多くいたが、まさにネイサン参考役(当時)のテロの最中に目撃したという証言ばかりであり、信憑性は低い。
議事堂爆破テロの際の左腕の負傷のため、左手が不自由であった。
極めて気の強い女性だったようで、前述した裁判においても、被告人弁論の時間は裁判史上一、二を争う長さであったという。
このときの弁論について、当時の判事は「理路整然とした論文を耳で聞いているようで、書記官が気の毒だった」と述べた逸話が残っている。
大きな青い尖晶石の首飾りを愛用しており、彼女の肖像画および写真のほとんど全てに映り込んでいる。
発色がよく、宝石がきわめて大きかったことから、推定の価格は二万デオンから三万デオン。
所有者が著名人であることも合わせて、価格が跳ね上がることが予想され、これは彼女の死後、愛好家から買い取りたいとの話が寄せられたが、夫であるアーノルド・ベイリーは断じてそれを許さなかった。
この首飾りについて、アーノルド・ベイリーは当時、盗難を目的とした墓荒らしを警戒し、棺には入れていないことを繰り返し明言していたが、現在では棺に入れられている説が一般的である。
六つ目の表意文字の発見において、首席宰相賞とゴルト勲章を授与されている。
その際の会談において、「コーヒー嫌いの友人」について言及し、自身に最も影響を与え、人生そのものが彼からの恩恵であると述べているが、名前については口にしなかった。
この友人について会談では掘り下げられたが、「最後に会ったときのことで腹を立てているかもしれず、顔向けできない」と述べるに留まっている。
一説ではこの友人はオリヴァー・ゴドウィンを指すとされているが、彼はコーヒーを愛飲していた記録があり、整合性に欠ける。
筆まめな性格でも知られ、軍省を離職してからは日記をつけていたことが知られている。
この日記(あるいは手記)は現在もベイリー一家が所有。
魔術史に残る偉業を成し遂げたシャーロット・ベイリーについての貴重な史料であることから、チャールトン博物館はじめ、国内のいくつもの研究機関が開示を要求したが、現在に至るまでおおやけに開示されたことはない。
手記について、シャーロット・ベイリーの曾孫に当たるカール・ベイリーおよびアリス・クラント(旧姓ベイリー)両氏は、手記は預かりものであって、所有者の許可なく開示は出来ないとした。
所有者については両氏は(両氏いわく、「感傷的な」理由で)明言を避けたが、アーノルドとシャーロットの息子チャールズ・エム・ベイリーを指すという説が一般的。
また両氏が開示を避けた理由としては、手記に六つ目の表意文字の発見経緯が記されており、それが独占価値のある情報であるがゆえだとする見方は依然として多い。
シャーロット・ベイリーの最大の偉業である、六つ目の表意文字の発見にて、いくつかの魔精および魔神のシジルが簡略化可能となり、公式に変更されている。
シジルが変更された悪魔については以下のとおり。
魔精――モロス、エーマロン、ケリオム、ブームー、ベオス、コーロム、オバリ、セッテウ、コリアス、ケーテン、ミロウ、以下多数。
魔神――マルバス、アイム、マルコシアス。
これにて、『レディ・ロッテの魔神』は完結となります。
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