11 沈みゆく船
首相はまずはじめに、従えている二人の軍人を示した。
「紹介していなかったように思う。
――アディントン大佐と、」
と、顔に古傷のある赤い髪の一人を示し、彼は軽く会釈した、
「ランフランク中佐だ」
がっしりした金髪の軍人が、やはり身体の後ろで手を組んで会釈する。
七年越しに名前を知ることになり、シャーロットもあわてて頭を下げた。
さらにいえば、士官の地位にある軍人に会うことなどこれまでになく、彼女は一気に緊張の度合いが増すのを感じていた。
佐官ともなれば、一個連隊を指揮することもある立場だ――
「あの、」
シャーロットはあいさつを返そうとしたが、首相は手を振ってその言葉を遮った。
「いい、シャーロット。
普通なら、きみの事情を知っている士官を、きみに紹介することはまずないんだけれどね」
シャーロットは喉が詰まるような心地を覚えて、首相を見上げた。
彼の青い目は、どこか疲れているように見える。
シャーロットは首相の日々の執務内容など知らないが、過去に会ったどのときよりも、今の首相は老け込んで見えた。
茶色い髪に混じる白いものも増えたような気がする。
「……何か普通ではないことが起こっていると、そういうことでしょうか」
「――――」
首相は応じず、シャーロットの小さな執務室を見渡した。
シャーロットは顔が赤くなるのを自覚した。
この部屋は、お世辞にも片づいているとはいえない。
言い訳を探して口をぱくぱくさせるシャーロットに目を戻して、首相は微笑んだ。
十四歳のころに会ったときとも――十七歳のころに会ったときとも――変わらない、慈悲深い、愛情深いその眼差し。
「――話は聞いていたが、大変そうだね、シャーロット」
シャーロットはこくんと頷いた。
彼女ははっと気づいて、自分の椅子を首相に勧めたが、首相は手を振ってそれを固辞した。
そして続けて、彼は言った。
「覚えているかな――きみが十九のとき、卒業が迫ったときだ。きみをわれわれの目の届くところに置かなければならないと、われわれの意見が固まってしまって、軍省に入るか、あるいは清掃下男になるか選ぶようにと手紙を書いただろう――」
シャーロットは頷いた。
「はい、清掃下男をおすすめいただきました」
「まあ、きみにはつらいかもしれないとは思った」
首相はつぶやいた。
「清掃下男の仕事は過酷だ――朝は暗いうちから起きねばならないし、議事堂や省舎について、誰よりも詳しくなければならない。仲間内での意思伝達にミスがあれば、それが大きな粗相になりかねないから、注意深さも必要で、柔軟に予定を変更する判断力も必要だ。さらに、われわれ以上に上下関係にうるさい職場環境だから、窮屈な思いをすることも多い。夏はまだいいが、冬は冷たい水を触るからあかぎれが絶えない。それに見合った俸給とはとてもいえない金額で、彼らの能力が買われている。――本当に頭が下がる」
息を吐いて、首相は片手で顔をぬぐった。
「だが、きみなら、そちらを選ぶのではないかと思ったんだが――」
「――――」
シャーロットは黙り込んだ。
ふいに喉が締めつけられたように苦しくなって、彼女は歯を喰いしばった。
そちらを選ぶことが出来ていれば、と、今でも思っています――と、その言葉が口から転がり落ちそうだった。
首相は数秒、そんな彼女をじっと見つめていた。
だがそのとき、アディントン大佐が囁くように言った。
「――閣下、申し訳ありませんが……お時間が」
首相は頷いた。
そして手を伸ばして、シャーロットの肩にてのひらを置いた。
「きみの友人のアーノルドを、今にいたっても見つけられていなくて、本当にすまない。誰より謝罪すべき彼に、まだ謝罪できていないことが心苦しい」
シャーロットは息を吸い込んだ。
少なくとも、首相は可能な限りの手を打っている――複数の諜報員が、アーノルドの行方を探る任務を帯びて、今も各地で働いている。
それは知らされていた。
どう答えたものか、シャーロットが迷っているうちに、首相はまたすばやく言葉を継いでいた。
「きみに、きみが望む人生を選び取る権利をあげたかった――すまない」
シャーロットは困惑して瞬きした。
どうして今になってそんなことを言われるのか、分からなかったのだ。
「閣下?」
首相はシャーロットの肩からてのひらを下ろし、微笑んだが、表情には柔和さよりも疲労のほうが色濃く匂った。
青い目が翳っている――本当に疲れ切ったように。
わけもなく動揺して、シャーロットはこれまで一度もしなかったことをしていた――手を伸ばして、首相の左手を握ったのだ。
「閣下、どうなさったのですか」
ランフランク中佐が、アディントン大佐に目配せした。
大佐が肩を竦めて首を振る。
おそらくそれで、シャーロットは首相から引きはがされずに済んだ。
「出来るかぎり、きみを自由にしてやって――守ってやりたかったんだが」
首相はそうつぶやいた。
そして、ぽんぽん、と右手でシャーロットの手を優しく叩いて、その手を離させた。
「閣下?」
シャーロットは不安に駆られた。
なんだろう、この――首相の眼差しは。
沈んでいく船に乗っている者を、ただ見つめているような、罪悪感に満ちたこの苦い表情は。
「私が言ったことを、きみは覚えているだろうか――どんなときであっても、私はきみを愛している」
シャーロットは頷いて、首相の表情をいっそう深く見て取ろうと努力した。
チャールズ・グレースのこの表情は――大袈裟に言うならば、我が子が死地に赴くのを見守る親のような――
「――それから、」
何も言えないでいるシャーロットに、首相は続けて言った。
彼が少し身を屈めて、同じ高さでシャーロットと目を合わせた。
「これは私の一存で話すことで、なんの会議の承認も得てはいないが、――シャーロット。
きみはきみに忠実な悪魔を召喚しておくべきだ。
少なくとも他の人間の都合で動かない、身を守る手段を用意しておくべきだ」
「……閣下?」
シャーロットは眩暈を覚えた。
仕事以外での魔術は許されないと、特別に許可されたときでなければ召喚などもってのほかだと、そう決めたのは他ならぬ首相であるはずだ。
――何かが起こっている。
知らないうちに、沈みゆく船に乗せられているような気がした。
もう足許にまで水がきていて、それを首相が離れたところから見守っているというような――
「閣下?」
怯えたシャーロットの小声を、首相は申し訳なさそうに聞いた。
アディントン大佐が咳払いした。
時間のことを首相に思い出させようとしているのだろう。
首相はそちらに向かっておざなりに頷き、もう一度シャーロットに視線を戻した。
彼女の橄欖石色の瞳を見て、首相は愛情に満ちた微笑を浮かべた。
目尻のしわ、口許のしわ、全てに燦然と輝く愛情と信頼が満ちていた。
「私の気持ちは、以前とまったく変わっていないんだ、シャーロット。
――私は、きみの倫理観を信じている」
シャーロットの感情がぐらぐらと揺れる。
不安と怪訝にはち切れそうだ。
この愛情は、この信頼は、本物だろうか?
だがそれでも、シャーロットは応じた。
「私にいただける信頼に、かならずお応え申します」
首相はゆっくりと頷き、もう一度、ぽん、とシャーロットの肩を叩いた。
そして、ふと思い出したかのように言った。
ただし、ふと思い出したにしては、あまりに慎重な口調で。
「――ネイサンと会うそうだね?」
シャーロットは喉が詰まるような感覚を覚えながらも、応じた。
「はい、明日――」
発作的に、ネイサンから打診されていることを口に昇らせそうになった。
閣下もお聞きされているところなんですよね?
どう返答すればよろしいですか?
どうお考えになっているんですか?
こんな質問は、十四歳のときであればするまでもなかったのに――十四歳のころの彼女なら、あの日あの場で、きっぱりと答えていたはずなのに。
今は他人の裁可をそこに求めようとしている、しかも――
――敵か味方かも分からない人の裁可を。
そして、シャーロットが言葉を続けるより早く、首相が低い声で言っていた。
「明日ね」
首相はつぶやき、微笑んだ。
続く言葉の真意が分からず、シャーロットは困惑した。
「もしかすると、その予定は変わるかもしれない。
シャーロット、よく注意しておいて」
首相が粛然と、そしてすばやく、警護人ともども立ち去ると、当然ながら維持室は上を下への大騒ぎとなった。
少なくない人数が、わっとばかりにシャーロットを問い詰めようとしてきたが、今回ばかりはシャーロットも、それに応じるつもりは欠片もなかった。
シャーロットは自分の椅子を、苦労しながら扉の前に引きずっていってバリケードにすると(その拍子に、本の山がひとつ崩れた)、そこに腰かけ、椅子の背もたれを通して扉にもたれ掛かるようにして、背中側で繰り返される、忙しないノックと音というより振動として感じ取っていた。
「ミズ・ベイリー、ミズ・ベイリー!」
扉越しにくぐもって聞こえる声がする――フラナガン助官だろう。
だが、これもシャーロットは聞こえないふりをした。
叱責を受けるのを恐れることよりも、今はともかく、状況を呑み込むことが優先する。
シャーロットは天井を仰いで、窓から射しこむ陽光の明るさを受けて目を閉じる。
眉を寄せて、考える。
――首相は今まで、一度たりとも、シャーロットを呼びつけたこともなければ、彼女を訪ねてきたこともなかった。
つねにネイサンを通したやりとりになっており、それは取りも直さず、首相からネイサン参考役への、実直かつ絶大な信頼を物語っている。
リーも言っていた――二人はときどき、昼餐をともにしている。
よく同じ馬車に乗ったり降りたりするところを目撃されている。
けれど――
――『きみはきみに忠実な悪魔を召喚しておくべきだ』。
その言葉を思い出して、シャーロットは苦笑した。
首相は魔術師ではないから、忠実な悪魔というものが、ただの言い回しに過ぎないことを知らない。
悪魔に忠誠などはないことを知らない。
ただ、それでも、シャーロットが身の危険にあたって選ぶとすれば、その魔神は一人だけだった。
――今はもう他の魔術師に仕えている悪魔。
「…………」
――召喚の方法には三つの種類があることが知られている。
一つめ――最も多く用いられ、最も手間のかかる方法は、召喚陣を略さず描き、〈召喚〉を唱えて召喚する方法だ。
そして二つめ――シャーロットが前回マルコシアスを召喚するときに用いた方法は、円とシジルだけを描き、召喚陣を省略して〈召喚〉を唱えることで、すばやく悪魔を召喚する方法だ。
この方法は、一度でも召喚したことのある悪魔が相手でなければ使えない――召喚陣の存在意義、悪魔と魔術師のあいだの取り決めを、全て前回の契約から引き継ぐことを前提とした方法だからだ。
そして三つめ――理論上でのみ可能であり、現実に成功した事例は一つもない方法。
これは、すでにこの交叉点に顕現している悪魔とのあいだで、一切の召喚陣とシジルを略し、〈召喚〉を唱えることのみで契約に持ち込む方法だ。
だがこれは、まったくもって現実的な方法ではなかった――すでにこの交叉点に顕現しているということは、他の魔術師と契約関係にあるということ。
悪魔からすれば、先に契約している魔術師を捨てて、別の魔術師に乗り換えることを迫られることになるのだ。
この契約に頷く悪魔は、まずいない――先に約束されていた報酬を取り逃すことになるほか、〈身代わりの契約〉が致命的な働きを見せて、まず間違いなく、その場で致命の一撃を喰らうことになるからだ。
具体的にいえば、一人目の魔術師と結んでいた〈身代わりの契約〉が、二人目の――新しい主人となる――魔術師に転嫁されることになるのだ。
初めてこの方法を試した魔術師は面喰らったことだろう。
二人の魔術師がおだやかな関係にあったのならば、そのあわれな悪魔は無事で済んだだろうが、そうでなければ――十中八九が、そうでなかったことだろう、なにしろ、他人の悪魔を横取りしようという考えが、敵対以外の関係から芽生えるはずもないのだから――、その悪魔は大混乱の中で致命の一撃を受けたはずだ。
契約を上書きされた魔術師が、腹立ちまぎれに自刎したに違いなく――その傷が、そっくりそのまま、神秘的な契約が厳正に定めるところに従って二度ほどはね返り、悪魔の上に終着することになっただろうから。
「――――」
シャーロットは溜息を吐いて、夢想を打ち切った。
――ともかく、決定的な何かが起こっている。
どうやらシャーロットは知らぬうちに、沈みゆく船に取り残されていたらしい。
しかも真夜中に船が転覆したかのごとく、周りで何が起こっているのか、この転覆の原因は何なのか、それも一切が分からないまま。
▷○◁
明けて十五日、シャーロットは朝から腹を立てどおしだった。
今日という日は、ネイサンに茶会に呼ばれている――だから、そういった日はいつもそうしていたように、シャーロットは普段のワンピースほど質素ではなく、とはいえドレスというほどには大仰ではない、胸元にレース、腰の後ろに大きなリボンのついた、丈の長い濃翠色のワンピースを着ていた。
その格好で登省したとたん、維持室の役人たちはじろじろと彼女を見て、聞えよがしに囁き始めた――「また参考役のお呼びに与るのかな」。
シャーロットは腹を立てながらもそれを表現はせず、まっすぐに自分の執務室に入って扉を閉めた。
首相の来訪後の混乱に、シャーロットがまったく貝のように口をつぐんで応じたために、消化不良になった好奇心が維持室の中にかたまりとして浮かんでいるようなありさまだった。
その好奇心のかたまりの一つを、シャーロットの服装が弾けさせたというわけである。なんということ。
出勤してから二時間半ほどが経過した九時ごろに、今日が期限の稟議を、もはや内容は破れかぶれなものになっていたが、提出しないよりはマシだと判断して、シャーロットはフラナガン室長助官の執務室へ持ち込んだ。
フラナガン助官は、それだけで一冊の辞書が完成しそうなほどの語彙をもってシャーロットの仕事をけなしながら、やっとの思いでまとめた(あるいは、強引にまとめたことにした)稟議の束を受け取った。
その言葉の一つ一つに腹を立てながら、ここまで粗のある稟議を提出するのは初めてだ、と、シャーロットはフラナガン助官の執務室をあとにしながら考えた。
だが、ともかくもこれで一息つける――と、シャーロットは深呼吸する。
とはいえ、正確には、助官の決裁を得た稟議は維持室長の検査を受け、維持室長が対策室担当者に向かって起案する。
対策室担当者から、質疑という形での再検討の要請がきた場合は、それに対応するのは維持室の担当者となるので、自分が手をかけた稟議案件と手が切れるのには、いつも相応に時間がかかることなのだが。
しかしながら、フラナガン助官も暇ではない。
今現在、目の前に山積している稟議を見終えてからシャーロットの稟議を見るとなれば、助官の嫌味をたっぷり頂戴することになるのは、早く見積もっても明日以降だろう。
そして、フラナガン助官は一言たりとも、シャーロットと首相の関係に言及することはなかった――さすがである。
人柄と人格がどうであれ、彼も地位のある役人であり、首席宰相の人間関係に、一役人ごときが口を出してはいけないということを、重々承知しているのだった。
昨日、半狂乱になってシャーロットの執務室の扉を叩いていたのはおそらく、シャーロットに粗相がなかったかどうかを確かめたかっただけなのだろう。
シャーロットは、昨夜は夜通しあれこれ考えていて、寝不足で当然ながら頭が痛かった。
最近は寝不足が重なっていて、それを回収できずにいるためにいっそう頭はどんよりしている。
自分の小さな執務室に戻ったシャーロットは、しばらく椅子の上で天井を仰ぎ、腹の上に組んだ手を置いて、耐え切れずにうたた寝していた。
そんな彼女をノックの音で起こしたのは、いつものように昼食を持って来てくれたマーガレットだったが、さしもの彼女も、首相のことについては口に出さなかった――単に、昨日首相がここへ現れたことを知らないのか、あるいは知っていても、さすがに首相とのことを根掘り葉掘り尋ねるのはまずいと判断したのか。
マーガレットは陽気に、シャーロットが目下の仕事から解放されたことを祝ってくれた。
シャーロットはよわよわしくそれに応じて、寝不足でしょぼつく目をこすり、コーヒーでなんとか正気を取り戻した。
マーガレットがひとしきり噂話をまくし立ててから、明るく手を振って部屋を出ていくと、シャーロットは椅子の上で伸びをして、次の仕事のための資料を流し読みし始めた。
だが、どうしてもちらちらと時計を確認してしまう――ネイサンとの約束は三時だ。
遅れるなと念を押された以上、遅れていくのはあまりにも具合が悪かろう。
そう判断して、シャーロットは二時半には立ち上がった。
立ち上がりながら、意味深な首相の言葉を思い出す――『もしかすると、その予定は変わるかもしれない』。
だが、今のところ、「予定変更」というネイサンの言葉を携えた使いはやって来ていない。
(何がどうなってるのかしら……)
ざっとワンピースを点検して、リボンの歪みを直し、髪を撫でつけ、溜息を吐く。
「先日に言ったことだけど、考えてくれた?」とでも尋ねられようものなら、「考えていません」と即答しなければならないような頭の中だ。
不適切なことこのうえない。
首相と三人で相談したいと言ってみようか。
首相が時間を割けるようならば――
シャーロットは自分の小さな執務室の扉を開けると、そそくさと維持室の大部屋を通り抜けた。
数名の役人が、煙草を吹かしながらそんなシャーロットを目で追ってきた。
シャーロットはそれらの視線を避けるようにうつむいて廊下に出てほっと息をつくと、そこからは足を引きずるようにゆっくりと歩き始めた。
ネイサンは、晩餐については、多くの場合が彼の私邸で開催することが多く、こうした茶会については、軍省舎の応接室の一つを借り切ることが多かった。
今日もその例に漏れず、指定されたのは応接室の一つだった。
応接室といっても広く、大きな円卓が置かれて、ものものしい会議でも始まりそうな雰囲気の部屋であったことを、以前に顔を出した茶会を思い出しながら、シャーロットは思い起こしていた。
ちなみに、応接室といっても円卓が置かれているのは、席次を意識させないための一つの仕掛けであるという。
いかにも軍省らしい配慮だ。
ネイサンの茶会は、茶会とは名ばかりで、ご婦人がたのサロンとはまるで雰囲気が違う。
紅茶と甘味は供されるが量は少なく、ほとんどが政治的あるいは学術的な話に終始する、私的な会合のようなものだった。
シャーロットは今まで、あえてその場に遅れて行ってはすべり込み、あれこれと言い訳をまくし立てたり、あるいは時間を勘違いして、予定の時間よりもはるかに早く着くようにしてきた。
時間通りに応接室に向かうのは初めてのことだ――
シャーロットはうつむきながら歩を進め、時刻が三時を指す五分前に、その応接室の前に立っていた。
扉の前にいるのは衛兵一人だけで、彼が問うような顔をしたので、シャーロットは頭を下げてから、名乗った。
「――シャーロット・ベイリーと申します」
衛兵は頷いて、扉を押し開けた。