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帰還



「ジル!!!よかった」

「ジル兄ちゃん!」

「ジル兄ちゃあん!!」

「ググにいちゃーーん!」

「イレイナお姉ちゃんも、大丈夫?!!」


住処に帰ったジル達は、ベッドの上のリールと子供たちに迎えられた。

先ほどまでベソベソ泣いていたであろう顔の子供たちは、ジル達が帰ってきた喜びで再びおんおんと泣き声を上げ始めた。

ジルが出て行ってからは不安で泣いていて、でもジル達が戻ってきてからは安心で涙が止められなくなってしまったようだった。


「でもね、みんな泣いてたけど、アンナはね、ジル兄ちゃんなら二人と帰って来てくれるって知ってたから泣かなかったよお!」

「おい、アンナだけじゃないぞ!オレだって泣いてないしっ!」

「ナッツはずっと泣いてたよお。俺の所為だってずっとずうっと」


ジルは担いでいたイレイナを寝床に横たえてから、アンナをはじめとした子供たちの頭をポンポンと撫でてやった。


「ジル兄ちゃんが無事でよかったあ!」


子供たちはジルが無事な様子を見てホッとした様子で口々にそう言ったが、寝かされたボロボロのイレイナと、寝床に倒れ込んだ傷だらけのググを見て、再び顔を青くしていた。


「でもググ兄ちゃんは大怪我してるよ!大丈夫?」

「イレイナお姉ちゃんもだよ。大丈夫だよね、死んじゃったりしないよね?」


子供たちはググとイレイナの寝床を囲んで心配顔だったが、次の瞬間には現れた大きなギギを見て、目をひん剥いて仰天していていた。


「こ、この怪獣がギギなの?!」

「何でおっきくなっちゃったの?!」

「かっこいいけど、でも怖いよお!」


子供たちは、ググとイレイナの心配をしながらギギの変化に驚いて、てんやわんやの様子で右往左往していた。

この騒ぎにはさすがのリールもベッドから体を起こして、驚いていた。

だが、ただ驚くだけの子供たちとは違って、静かにジルを手招きした。


「ジル、この子はギギだよね?何が起こったの?こんな風に姿を変えて、普通ではあり得ないよね。ともすれば、話に聞く魔物のようにも見えるけど」

「ああ、魔物かもしれねえ」


ジルがあっさり肯定すると、リールの表情が一瞬にして雪山よりも険しいものになった。


「ジル!何故危険と言われる得体の知れないものを住処に連れてきたんだい?ここには子供たちがいる。皆を危険に晒さないように一番に守ってきたのは君だというのに、どうしてそんなことを?」

「ギギはいきなりこんな姿になっちまったし、絶対に普通のトカゲじゃねえ。俺たちは魔物なんて見たことねえが、これは魔物とでも呼ばねえと説明はつかねえと思う。俺も最初は警戒した。でも、ギギは姿以外何にも変わってねえ」

「どうしてそんなことが言えるんだい、ジル」

「ギギは俺達が臓物狩りに捕まった時、助けに来た」

「助けに?」

「ああ。ギギが来なきゃ俺達は死んでた」

「……要するに、ギギはジル達の命の恩人ってことかい?」


ジルは小さく頷いて、リールを見つめた。


「ジル達を生きて住処まで帰してくれたのは、ギギだってことなんだね?」

「ああ。得体の知れねえ魔物かもしれねえが、あいつは俺たちに危害は加えねえ」


それを聞いたリールは、小さく息をついた。

そして今度はギギを手招きし、自らのベッド脇に呼びつけた。


「ギギ、君はみんなを傷付けるようなことはしないんだね?」

「クル!」

「みんなを傷つけるような事があったら、絶対にいけないからね」

「クル!」

「大きな体になってしまったんだから、小さい子と遊ぶ時は更に注意するんだよ。出来るね?」

「クル!」

「理解しているのかな?」

「クル!クルルルルルル」

「うん、うん……魔物語は良く分からないけれど、ジルの言うようにギギは小さかったころと何一つ変わっていないみたいだ」


リールは取り敢えず安堵したのか、小さく笑った。

大きくなったギギは嬉しそうにリールの寝床に近づき、その横で丸くなった。


子供たちはその様子を遠巻きに眺めていたが、どうやらギギは大きくなっただけで別に恐ろしいものではないと分かったのか、隠れていたジルの後ろから這い出して来て、それぞれ行動を開始した様子だった。


「ググお兄ちゃん、痛い?」

「イレイナお姉ちゃん、血を拭くね」


動き出した子供たちは、大半がけがを負ったググとイレイナの様子をみるべく寝床に集まっていた。

その手には濡れたタオルや、乾いた止血草が握られている。


子供たちは小さな手を懸命に動かしてググの頬に止血草を張り付けたり、気を失っているイレイナにこびり付いた血を拭いたり、テキパキと看病をはじめた。



「ねえジル兄ちゃん。ググ兄ちゃんとイレイナ姉ちゃん、大丈夫なの……?」


一人ジルの元にトテトテとやって来たアンナはジルのマントの裾をぎゅっと握って、心配そうな顔でジルを見上げた。


「ああ、大丈夫だ。俺が医者を呼んでくる」

「お医者さん?ジル兄ちゃん、お医者さんなんてここに来てくれるの?」

「一人あてがある」

「あっ、もしかしてお医者さんって、あの刺青の人……?!」

「ああ。あいつくらいだろ、俺達を診てくれんのは」

「アンナ、あの人嫌い……」

「俺も好きじゃねえよ。でも他に選択肢はねえ」


ジルは首を振り、横たわるイレイナとググを見降ろした。

ググは子供たちに止血草と包帯を体中に巻かれ、イレイナも冷たいタオルやあらんかぎりの薬草で応急処置が施されている。


薬も設備もろくに持っていないジル達ができることは精々これくらいだ。

だが、大怪我を治すには明らかに不十分。

そこで医者に頼るという手段しかないわけだが、なにせジル達は下手をすればゴミよりも価値のないスラムの孤児だ。普通の医者は、何をどう頑張ってもジル達を助けてはくれない。

ジル達が頼ることのできる医者は、闇医者しかいない。しかも、まともではない闇医者の中でも、更にまともではないトチ狂った医者だけだ。

アンナが嫌いだと言って顔をしかめた全身刺青だらけの闇医者も狂人と名高いが、頼らなければググとイレイナの怪我は上手く治らないだろう。


ジルは壁に掛けられた羅針盤のような、リール手製の月の満ち欠け表を見た。


「あいつは月に二回スラムに来る。烏みたいに死体を漁りにな。あいつが次に来る日は……二日後か」




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