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紅い目



「流石ドブネズミのようなしぶとい逃げ足だったが、もう終わりだ!!!!ここにお前たちの逃げ道はもうない!!」


逃げるジル達を反対側で挟み撃ちにしたのは、目を赤く充血させた大男と、その仲間の数人の作業服の男たちだった。


前方に逃げ場はない。

後ろを振り返る。

先ほど待ち伏せをしていた作業服の男たちが、ニヤニヤ笑いをしながらジル達に近づいてくる。

後ろと前には臓器狩り、左右には積まれたゴミと高い壁。


山のようなゴミを登って壁を超えることは不可能ではなさそうだが、怪我人のググと気絶したイレイナがいるので、きっと逃げ終わる前に全員捕まってしまうだろう。


「残念だったな、後から後から湧いて出てきたが、所詮お前らはスラムの下等生物だ!!!!何にもできない無価値なゴミ!私たちに狩られる運命はどう足掻いても変えられない!」


大男は長いステッキをパシパシと乱雑に自らの片手に打ち付けながら、大股に歩いてきた。

ゴミだと見下しているスラムの子供に唾を吐かれ、肩を刺され、煙幕で目や鼻も痛めつけられたことで、大男の苛立ちが最高潮に達していることは誰の目にも明らかだった。


「お前たちのようなゴミ共は許しを請うまで痛めつけて、仲間の居場所を吐かせてから解体してやらなければ気がすまん」

「お前に許してもらいたい事なんてねえし、死ぬくらいで仲間の居場所も吐く訳ねえだろクソ野郎」


距離を詰めてくる男から後ずさりつつも、ジルはそう吐き捨てた。

ググとイレイナの痛々しい傷のみならず、大男が更に別の仲間たちの事も狙っていると思うと、危機感よりも嫌悪感が先に来る。


「また私に向かってそんな言葉を……。お前たちはゴミの癖に身の程を弁えていない。揃いも揃って癪に障るがどうせ逃げられないんだ。いいだろう、ゆっくり解体してやる」


大男は更に大股でジルとの距離を詰めてきた。

3人を捕まえる為に、大男の太い手が伸ばされる。


「……チッ」


これで終わりだろうか。

いや、まだだ。終わらせない。ジルは死ねない。

ググやイレイナを死なせはしないし、リールたちも待っている。

ジルはググとイレイナを庇うように構えたが、突破口なんてものは見つからないままだった。


大男が、長いステッキの先から鋭い刃物を繰り出した。

ギラリと光る刃がその先端をジルに狙いを定めた時、ジルたちにもう成す術はないかと思われた。


しかし大男はすんでのところで、ピタリと動きを止めた。


「…………まさか、新しいゴミは珍しい赫眼か?」


煙幕によって充血した目をぎょろりと開いてジルの瞳を覗き込んだ大男は、呟いた。


赫眼。

真っ赤な目にはそんな特殊な呼び名があるが、それを口にした臓物狩りはいきなり大きな声で笑いだした。


「ハハハハハ!スラムにも掘り出し物が有るじゃないか!!」


しばらく大層おかしそうに反り返り、大男は笑い続けた。


「いやあ、私はツイてる!!!このゴミ、赫眼だ!こいつは高く売れるぞ!」

「いきなり笑いだして……なんなんだよ」

「お前のようなスラムのゴミが何故、赫眼なんて物を持っているのかは知らないが、赤い目は珍しい!知らなかったか?しかも血よりも赤い純色の目玉となれば、マニアどもが黙っていないのだ!」

「マニア……?何言ってやがる」

「ハハハハ!お前の赫眼を部屋に飾りたい物好きな奴がいるということだ!!!何百人のスラムのガキの内臓より価値がある!ハハハハ!私は運がいいぞ!」


何がそんなに可笑しいのか、大男は狂ったように笑い声を垂れ流し続けた。

これには流石のググも戦慄したのか、青い顔でジルのマントの裾を後ろから引っ張った。


「ジル兄。ジル兄だけでも逃げて……こいつら、ほんとに俺らの事、人間とは思ってない」

「お前らおいて逃げたら来た意味ねえだろ」

「でも」

「でもじゃねえよ」


不安そうな顔のググを振り切って、ジルは一歩前に出た。

笑う大男との距離が一歩分縮まる。


「おい、俺の赫眼はそんなに珍しいのか?」

「ああ、それはもう!赫眼自体が珍しいものではあるが、この混じりけのない炎のように燃える真紅の赫眼はもっと希少だな!」


時間稼ぎのための悪あがきにも聞こえるようなジルの問いかけに、大男は興奮した面持ちで答えた。


「国を渡り歩いて多くの人間を解体してきた私でも、初めて見たと言っても過言では無いほどの赫眼だ!」

「そうかよ……。なあ、お前はこの目が売れるって言ったな?」

「ああ、高値がつくぞ。タダ同然のゴミの目玉に、破格の値段がな!」

「一体いくらなんだ?」

「そうだな……一つ二千万ベルくらいだろうか?いや、上手く売りさばけば五千万も夢ではないぞ。それが二つなのだから、合わせて一億だ!」

「ふうん、桁が大きすぎて俺にはよく分かんねえが、すげえじゃねえか」

「その通りだ。下等生物を捕まえるだけでこんな大金が手に入るのだから、本当に素晴らしい商売だ!」


大男は勝ち誇った声で叫んだ。

だが、一方のジルは大男に冷静な視線を向けていた。


大男は思っているのだろう。

やせ細ったボロ雑巾のようなジル達はもう追い詰めた。弱者にはもう、臓物狩りから逃げる術など無い。赫眼も確保したも同然。大金も手に入れたも同然。


しかし勝ちを確信した大男を前にしても、ジルが思考を止めることはなかった。


大男が一歩ジルに近づいてくる。

ジルを捕獲しようと更に一歩踏み出し、手を伸ばす。

太い男の手に捕らえられれば、ジルの細い体などひとたまりもないだろう。どれだけ抵抗しても逃げることは叶わず、一巻の終わりだ。


しかしそんな状況にもかかわらず、ジルは薄く笑ったのだった。






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