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それはうららかな昼下がり




大陸の中央からやや北に位置する国、グラバスタ王国の王都から程よく離れた町の一角。

うららかな昼下がり。


プシュッと泡がはじける音がして、露店のテントの裏に回った異国の商人の男は、持っていたアルコールをぐびっと一口飲んだ。


「ぷはあ。酒もうまい、懐もホクホク。こりゃいいねえ」


この商人の男は、まだ日も暮れていないのに既に今日の目標の売り上げを達成していた。

見るからにご機嫌で、それこそ歌でも歌いだしそうな様子だった。


「お前も飲むか?」

「いや、俺は勘定が終わってからにする」


商人の男は、隣で売上金の勘定をしていた仲間の商人に話しかけた。

しかし仲間の商人は、金から目をそらさないままフルフルと首を振った。


「なあんだ。つまらんやつ」


こいつも飲めばいいのに。

すぐそこの角の店で売っていたこの国の酒は、驚くほどうまいのだから。

商人の男は守銭奴な仲間の男を横目で見ながら、そんなことを考えた。


この商人の男が今滞在している国、グラバスタ王国は豊かな国だ。

豊かな土地に豊富な資源を持っていて、食べ物もうまい、酒もうまい。

他国との貿易も盛んに行っていて活気がある。

また唯一神の四つ尾のドラゴンを信仰する古い宗教国家にもかかわらず、様々な技術発展への投資を惜しむことなく行っていて、優秀であれば移民でさえも受け入れている。


そんな国だから、海辺の小国からやって来たこの商人の男が入国許可証を得るのも気が遠くなる程大変ではなかった。

そしてグラバスタ王国の民は稼ぎがいいらしく、商人の男が多少値を釣り上げても品物を買っていく。

地元でたたき売りされている香辛料を数時間売っただけで、もう札束の山が手に入ったのがその証拠だ。


「次はルビーの指輪を買おう。それから金の腕輪もだ。地元じゃ家畜の餌にもならんような香辛料が、ここではこんなに高く売れるんだからな」


仲間の商人は相変わらず金勘定に夢中だったが、意見は男と同じだったらしく「ああ」と頷いた。


「流石、ドラゴンの加護があって恵まれた王国は羽振りがいい」

「その通りだ。王都でもなんでもない町でもこの活気。それに俺たちのような異国の商人に対してもフレンドリーだ。事あるごとにドラゴンに祈り出すのにはいささか驚いたが、それも慣れればどうということは無い」


男は椅子の背もたれに体を預け、一気に瓶の酒をあおった。

豊かな炭酸が喉に心地いい。気候もいい、酒もうまい、金も手に入った。実に爽快な気分だ。


「ここはほんとうに、いい国じゃあないか」

「……だがな、お前は知ってるか?グラバスタ王国の北の国境には怪物が出るらしいぞ」

「怪物?」


それを聞いた商人の男は持っていた酒ではなく、ごくりとつばを飲んだ。

良い国だと思ったが、とんだ裏の顔があったらしい。

このまま商売で儲けてグラバスタ王国へ移住出来たらなんて一瞬考えたが、怪物が出るなんて聞いてしまったら、その考えももう無しだ。

爽快だった気分は酒の泡のように消えていった。


「怪物なんて……。それにグラバスタの北部と言えば、魔晶石なんかの鉱物資源が良く取れると有名な土地で、俺の知り合いも行きたがってたぜ?」

「いいや、行かない方がいい。聞いた話では、おぞましい見た目をした人食いの怪物の軍勢が現れるらしいんだ。やつらはグラバスタ王国に何か恨みでもあるんじゃないかって形相で毎回攻めてくるんだと。王都から南は安全だが、間違ってもグラバスタ王国の北側へは行かないようにしないといけないぜ」

「わかった……。いや、そもそも王都から南は、本当に安全なのか?」

「ああ、安全だと思うぜ。なにせ貴族のエリート揃いの王国騎士団が戦線を死守してるからな」


守銭奴な仲間の商人は、淡々とした口調でそう説明した。

別に自国が脅かされている訳でもないのだから、彼は他国の戦争事情に必要以上の興味は無いのだろう。

だが一方の、酒飲みの商人の男はまだ心配そうな顔をしていた。


「エリート揃いの王国騎士団、と言っても彼らは人間だろ?どうやって怪物に対抗するんだ?」

「お前は商売しに行く国の事を何も調べなかったのか?王国騎士団にはいるんだよ。怪物に対抗しうる力を持った十の竜と、選ばれし十の竜騎士が」

「その竜騎士ってのは、竜に乗る騎士の事か?」

「ああ、そうだ。竜と竜騎士は王国が誇る一騎当千の戦士なんだそうだ。俺は見たことはないが、十の竜はそれぞれ十の特別な力を持っていて、乗り手がいるとその力を引き出すことができるらしい」


守銭奴な仲間の商人は丁度金を数え終わったようで、チャリンと音を立てて計算器具を机に置いた。

両手の中にはたんまりと札束がある。

男はテントの奥の厳重に隠されたカーテンの下の箱の中にある金庫を取り出して、鍵の番号をカチカチと入力してから、その中に金をそっと置いた。

金庫一杯に金が詰まったのを見て、今まで無表情だった仲間の商人の口角がにんまりと吊り上がった。

仲間の商人も、今日は良い日だと思ったのだろう。


……でも、二人はまだ知らない。

金庫に鍵をかけたその手元が、遠くの草影からはっきりと盗み見られていたことを。

用心棒として雇った傭兵もいるし、二人の商人はまさか自分たちがこれから盗みの被害に遭うとは、この時は微塵も考えていなかった。





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