第五十九話 回想 2007年
女は苦しそうな息をして話を始めた。
「数年前に山口で非常に頭の良い男の人と恋に落ちたの。そしてそのあとに娘が生まれたの。
でも夫は好きな人ができたと言われて離婚させられたわ。
男は東京で別の人と暮らすことになったの。
離婚して苗字を旧姓の三島に戻したわ。
生まれたばかりの娘を抱いて私は、男を未練たらしく東京まで追いかけたけど結局捨てられた。
死のうと思い、死ぬ前に娘を石神井近くの施設の前に置いて死のうと薬を大量に飲んだけれど死ねなかった。
施設に戻ってみたら娘はもういなかった」
男はじっと聞いていた。
「あなたはその男に少し似ていたの。私は心臓に持病があるしいつまで生きられるかわからないけれど、あなたと会っていると娘を思い出して少しだけ幸せな気持ちになるの。ああ、胸が締め付けられる感じ。
娘を施設に預けたのを非常に後悔しているわ。
だから、いつまで生きられるかわからないけれど、娘を引き取って許してもらってあなたと少しでもいいから住みたい。
お金はその子と貴方で分ければいいわ」
女は冷や汗をかいていた。そして胸を押さえつけて苦しみはじめた。女は発作を起こし失神したあとぐったりとなった。
大内義長はあわてて、桂の携帯に電話をした。
「もしもしっ。大変なことが起きた。南場景子さんが心臓発作を起こした」




