第五十五話 取り調べ 後半
桂美京だった南場は顔に生気が戻ってきたようだ。
「詐欺で南場さんから受け継いだお金は大内にも十分に分け前を渡し、大内とはそこで別れることにしました。
子供は私と血が繋がっていないので、どうしようかと思いましたが、宇佐川さんのいとこの夏山さんに会いに行き、子供を引き取ってもらいました」
夏山の話と合っていると吉川は思った。
「その後はどうしたのですか」
「私はこれを元手に事業を起こし今の成功を手に入れたのです。
最近になって地元の政治家から、女性起業家として成功したので次は国政選挙に立候補しないかと誘いがありました。
そういうときに川田直久からコンタクトがあったのです。
私はすっかり川田のことを忘れていたのですが、川田から『昔山口で不動産を仲介した川田ですが桂美京さんですよね。』と昨年末にイベント会場で声を掛けられ震えあがりました。
川田は私が戸籍を取り換えたことは知らないようでした。
本名が桂美京、日本人名が南場景子だと思っていたようです。
川田からは神戸の不動産会社に勤めていると名刺をもらいました」
「川田から脅迫されたのですか」
南場は疲れた顔をして、
「川田は嫌らしい目つきで、直感で私と接点を持って私のコネを利用すればお金になると思っていたようです。
川田から『南場企業グループで雇ってほしい。営業には自信がある。金がないので準備金を貰えないか』と言われました」
「桂美京としての私を知っている川田は脅威でした。
これから参議院に立候補をするにあたって絶対に戸籍を違法で手に入れたことは露見してはいけない。
私の過去を知っているのは川田と大内だけだと」
南場は急に背筋を伸ばし吉川を睨んだ。
「私の中でどす黒い考えが浮かんだのです。
川田にはお金を用意するといって赤龍戦が開催するホテルの34階に呼び出しました。
ところが34階の川田が居ると言っていた部屋に行くと、川田は部屋の中で床に倒れていたのです。
ベッドには将棋の駒がありましたが気にも留めませんでした」
「それでどうしたのですか」
「意識が戻らないようにあらかじめ立てた計画通りにしようと思いました。吸入麻酔剤をマスクに注入して川田にマスクをつけました。それから両手両足に跡が残らないようなボンテージテープで全身をぐるぐる巻きに縛って、川田を浴槽まで運びました。浴槽で灯油を大量に振りかけてココアの粉末を巻いて燃え易くしました。
浴槽近くのコンセントにスマホで操作ができるIoTコンセンを付けてそれに200℃を超える温度になる電気ヒータをセットしました。
吸入麻酔剤もIoTコンセントも私のショッピングアプリのサイトで簡単に手に入ります。
灯油は近くのセルフガソリンスタンドで買いました。火をつけて遠隔で川田を焼き殺せば自殺に偽装できるかもしれないと考えました。
殺人だと露見しても、部屋に林田初段の扇子を置いていれば罪をなすり付けられると思いました。
マスクやボンテージテープや衣服はほとんどが火事で焼けてしまうので、遠隔でスマホを操作して灯油に引火できるようにすれば私のアリバイ工作もできると考えました。
赤龍戦の対局が終了してすぐ表彰が始まる前にスマホの画面でIoTコンセントを操作して火事を起こさせました」
吉川は先を促した。
「大内は淡路島に別荘を購入したことを自慢げに話していました。大内を始末しようと考えていましたが非力なのでどうしようかと悩んでいました。そんなとき海外ニュースでバーベキューしていて夾竹桃を燃やした煙と夾竹桃で作った串や箸で中毒死をしたことを見ました」
南場は少し話すのを止めて遠い目をしていた。
吉川は南場が話し始めるのを待った。
「大内も一月早々に自殺に見せかけて別荘で殺せないかと考え始めました。
夾竹桃は私の会社のショッピングアプリサイトでいくらでも買えるので夾竹桃の枝を大量買いしました。
年末に事前に準備した夾竹桃から慎重に樹液を集めて、底に塗った塩胡椒容器のペッパーミルと樹液に浸した箸を準備したのです。
そして年末に大内をホテルに食事だといって誘い出し、底に毒を塗ったペッパーミルを高級品だと偽ってプレゼントしました。
または大晦日に一人で大内の淡路島別荘に行き、外にあった薪にネットで購入した夾竹桃の枝を大量に混ぜておきました。
大内を自殺か事故による中毒に見せかけられたらいいと思っていました。まさか林田さんも同じ別荘に居て中毒死したとは、事前に予想していませんでした」
雄弁に話す桂美京だった南場に、吉川はお茶を注ぎ足した。
「川田も大内もまだ私に殺されるとは思っていなかったのでそのタイミングで自殺に見せかけて殺せば相手は油断しているからやりやすいと考えました」
「塚本桂子はどうして殺したのか。脅されていなかったのに」
「塚本桂子は同じ中年女性として過去に苦労をして成功したという経歴が共通なのですが、同性での妬みから陰で私のことを中傷していました。また大内が仕事を取るために塚本桂子と一度男女の関係になったとは聞いていました。
塚本は、『大内から昔のことを聞いているわよ。』と脅してきたのです。大内は塚本桂子に重要な事を言っていないとは思うものの戸籍の件が露呈したら大変です。
先に大内を殺しているので何を塚本桂子に話したか分からないのです。
塚本に私の秘密を知られたらまずいと思いました。
ちょうど山口県で女性経営者向けの商業イベントと日本女流名人戦のイベントがあり、そこに塚本桂子も顔を出すことをイベント会社から聞きました。
塚本には『高嶺城には秘密の宝がある』と嘘で誘い出しました。
欲深い塚本桂子は一人で高嶺山頂にやってきました」
「前に木戸公園で誰かと待機していると言っていたのは噓だったのか。」
南場は少し押し黙った。
「車を木戸公園に置いて、山頂近くまで行き、塚本を見つけ頭に石をぶつけて崖に突き落としました」
南場景子はそう自供した。
そして、南場景子がつぶやいた。
「私が殺しました。南場さんに成りきれなかったですね」
連続殺人事件の解決だ。
美都留に連絡しなくては。
「南場さんは結婚したことがあって籍も入れて子供も産んだらしいのに私はそうじゃなかった」
「本当の南場景子さんは結婚されていたのです」
「はい。旧姓は三島と言うそうです」
三島さんが後悔したことって、子供さんの事なのかもしれない。産んだって言っていたけれども一人暮らしだったから」




