第五十三話 赤龍戦就位式と表彰式
オーハシポートホテルの35階、赤龍戦の決勝が行われた対局の大盤解説会場で、初代赤龍の就位式が行われている。
赤龍戦の時の34階の火災もすっかりリフォームが終わり、ホテルは平常を取り戻したと知り合いのフロントマンが言っていた。
最初に主催の南場社長が祝辞を述べた。
次に、全日本将棋連盟の会長の代わり引退棋士の加藤も祝辞を述べ、金海初代赤龍に、赤龍称号の授与を行った。
新聞社の桂編成部長からも挨拶があった。
金海五段、今日から全日本女流名人に加えて、赤龍のタイトルも持つことになる。
艶やかな和装の金海赤龍から挨拶と謝辞が述べられた。
緊張のせいか顔色は青白い。
「今回の赤龍の決勝戦では色々ありましたが、ますます精進して赤龍の名に相応しい実力を得ていきたいと思います。
ご支援を頂きました方々に厚く御礼を申し上げます。
またこの場をお借りして、私に愛情を注いでくれた存在に感謝の意を表したいと思います」
マスコミのカメラフラッシュが光る。
加藤が「金海赤龍に愛情を注いだ天国の御主人のことだと思いますが、見守ってくれていると思います」と返した。
感極まったのか南場社長から涙が零れている。
引き続き、準優勝の賞状の手渡しがあった。
引退棋士の加藤から、落ち着いた雰囲気の北山四段と白いドレス姿のツインテールの美少女の三島美都留2級に賞状が手渡された。
簡単なソフトドリンクによる乾杯の音頭を加藤が行い、しばらく写真撮影が行われた。
マスコミが去って、しばらく関係者だけの時間があり、吉川は緊張した面持ちで南場社長を見つめていた。
美都留が吉川の方に近づこうとして「あっ。ドレスにジュースが。」
真っ青な顔をした美都留が慌てて会場を立ち去った。
頭は良いがそそっかしいのだろうかギフテッドという人は。
美都留が会場に不在のまま、加藤が締めの挨拶をして、赤龍の就位式は終わった。
関係者もそのあと順次会場から退場が始まった。
一人の刑事が会場で南場社長に耳打ちをしている。
南場社長は不機嫌そうな顔で頷いた。
吉川は美都留にメールで兵庫県警に戻ると打って、鈴木刑事と兵庫県警に戻った。
淡路島で殺された大内のズボンのチャックに付着していた汚れの分析結果が鑑識から送られてきた。
男性の精液と微量の唾液成分が付着していた。
精液成分は大内自身のDNAと合致しているが、微量の唾液成分の方は大内のものと一致しなかったと記載がある。
他の被害者である川田、林田、塚本のDNAとも一致しないと書いてあった。




