第五十二話 就位式の朝
吉川は鈴木刑事とあちらこちらに、捜査に必要性を説明し書類を書き、照合したりしてあちらこちらを回り、やっと美都留の要望を揃えたら一日が過ぎた。
「鈴木さん、本日は付き合って頂いてありがとうございます。
明日赤龍戦の就位式及び表彰式で待っています」
「吉川さん、桂美京と一緒に居た子供が育っていたのですね。
これで,南場景子は桂美京と証明できそうですね」
「桂美京について、これで南場景子に事情聴取できますね。
彼女に事情を聞けばすべての謎が解けそうですよ。
美都留も彼女に聞けばすべてわかると言っていましたから」
「婚約者のことを美都留って呼んでいるのですね。吉川さん。いいなあ。僕も良い人見つけたいですよ」
「いや。婚約者というわけでは」
吉川は苦笑いをして鈴木刑事と別れた。
そして朝から太陽の光が眩しい日がやってきた。今日は赤龍戦の初代赤龍の就位式と準優勝者の表彰式がオーハシポートホテルで行われる。
吉川は朝早くからホテルに行き、美都留をロビーで探した。
「こっちよ。こっち」
ホテルロビーの喫茶店で美都留が手を振って呼んでいる。
吉川もアメリカンコーヒを頼むと美都留から頼まれたことの結果をタブレットPCで見せた。
「鈴木刑事も手伝ってくれたよ。依頼の書類を書くのは大変だったが。
これで桂美京が南場景子だと言えるかもしれない」
「まあ、そうね。
これが欲しかったの。やっぱり」
「それから、赤龍戦で不正をした林田の眼鏡が淡路島別荘近くの銀行の屑箱から見つかった。
大内がATMで現金を引き出した銀行が落とし物かもしれないと思って保管していていたが、新しく入った将棋好きの行員が、林田が赤龍戦でつけていた眼鏡に似ているということで警察に届けがあった」
「仕掛けがあったでしょう」
「あったよ。あらかじめ設定したマイクから骨伝導で音を拾う仕掛けがあったし、林田の指紋と大内の指紋もあった」
「やっぱり」
「ただ、あの赤龍戦の対局中の時は、私も含めて全員ノートPCやタブレットPCやスマホは対局場や大盤解説会場に入る前に一時預け入れをさせられたよね」
「そうよ。不正防止のためにね」
「だから、大内がどうやって将棋のAIソフトを動かして、林田に伝えたのかという謎は残ることになる。大内はマイクで林田に音声を伝ることができても将棋ソフトを動かすデバイスが持ち込めない」
美都留は少し朝食のコーヒーカップを持ちながらテーブルを凝視していた。
「そうか。そういうことだったのかも」
「それから、これ。山口県警の鈴木刑事が同僚に頼んで撮ってもらったという夏山の道場の写真を持ってきてくれたよ」
「大当たり。これは相当古い物よ。
仕舞っておけなかったのよね。わからないと思って出していたのね。
入院している夏山にどうやって手に入れたのか、聞いてみて。
お金の出どころよ」
「どういうことだ」
「この将棋盤や囲碁盤、それに駒は江戸時代のものよ。
年代物で購入しようとしたら全部で5千万くらいかかるわよ」
「そろそろパーティドレスに着替えなきゃ」
赤龍戦タイトルの就位式と表彰式が始まるようだ。




