第三十七話
吉川はバスルームの実験結果を報告することと、現場に遠隔操作の痕跡がなかったか確認するために、山口県警に戻ることにした。
いっしょにここで一夜を過ごそうと駄々をこねていたキャミソールとホテルのバスローブを羽織った美都留を説得して、美都留の大きなカバンにあった着替えを来てもらい何とか山水園亭に送り届け、吉川は山口県警に戻った。
山口県警の本部長がまだ本部に残っていたので、いっしょに兵庫県警の課長と電話会議をして、美都留の実験結果を報告するとともに、オーハシポートホテルの現場検証の結果を確認した。
兵庫県警の課長から回答があった。
「遺留品は燃えてしまって焼死体以外はほとんど残っていない。
浴室のある洗面所のコンセントには差込プラグと思われる基板やリード線が焼け残っていたよ。
当初は、髭でも剃る準備をしていたかもしれないと思ったが、遠隔操作のできるIoTコンセントだったかもしれない。詳細に調べるよ」
「課長、川田の遺体にテープのようなものを体に巻き付けられていたような痕跡はありませんか」
「川田の遺体は燃えつきていて肉眼では確認しづらい状況だった。
川田の解剖所見を見ると、後頭部に生活反応のある打撲痕があると記載されている。
手首やひじ、足首やひざに紐や縄できつく縛られた跡は残っていない。
粘着性テープのベタベタしている跡も無いと記載がある。
ただ、全身の皮膚が蒸れているような跡が残っていて、また手足の皮膚が圧迫されていたような状況はあると記載がある。
バスタブで焼かれたから皮膚が蒸れたのかもしれない。
あと現場のバスタブに微量の有害物質が認められるという記載があり、ホテルではそのような素材はダブルスイートのバスルームでは一切使用していないはずと大騒ぎになっているらしい」
「殺された林田初段の自宅からSMグッズが見つかっているはずですが、その中にボンテージテープもあったと思います。
それは塩化ビニルなので、長く巻くと皮膚が蒸れますし、ごみ焼却場できちんと焼却しないとダイオキシンが発生すると聞いたことがあります。
鑑識に手足を中心に川田の体を数時間SMボンテージテープでぐるぐる巻きにした可能性を聞いていただけませんか」
吉川は美都留が先ほど言っていたことを思い出していた。
「覚めても動けないようにテープで体を縛っておけばいいのよ。
SMの嗜好がある人みたいに」
そのあとに美都留の言ったことは、
「ひと昔にあった塩化ビニルのボンテージテープなら静電気で密着させるから縄のような跡が残らないし、ガムテープのようなベタベタ感もないわ。
でも長く体に巻いていると皮膚が蒸れるし、塩化ビニルを素人が燃やしたらダイオキシンが発生する場合もあり危険なのよ。
だから最近では塩化ビニルのボンテージテープはあまり見かけないと思う」
という蘊蓄だった。
しかし、何で美都留はこんなSMグッズに詳しいのだ。




