第十二話 淡路島別荘に死体
病院で美少女女流棋士の三島美都留から、淡路島津名の別荘で倒れている人がいると聞いた吉川は淡路島の別荘にレクサスNXプラグインハイブリッドの車で急行した。
まだ事件かどうかわからないので兵庫県警を呼ばず、一人で別荘に向った。
別荘の正面のドアは鍵がかかっている。
建物を一周すると台所と思われる正面ドアは鍵がかかっていて、反対側の出入り口の勝手口のガラスが割られていた。
勝手口のドアは開いていた。勝手口から台所に通じている。
吉川は慎重に勝手口の付近から台所の奥のリビングの部屋の中を覗いてみた。
夾竹桃の有毒ガスが漂っているといけないので勝手口から見える範囲の視線を向けてみた。
リビングには暖炉がある。
暖炉の付近を見ると、ズボンと黒い靴をはいた二本の足と白く細い足首が見えた。
吉川は慎重に勝手口で息を止めてハンカチで飯尾付近を覆って暖炉の近くに侵入した。
二人倒れている。男と女のようだ。
女性の顔の付近に携帯用の懐中電灯を照らすと思わず声が出た。
女性はオーハシポートホテルから失踪した林田桜里瑛だ。
吉川の記憶の範囲では赤龍戦で対局をして対局後の表彰イベントのときと同じ服装だ。
何故か男装風の化粧をしている。
もう一人は、県警で写真を見た大内に似ている。
スーツを着たまま倒れている。
二人の脈を素早く確認した。
脈も無く眼が濁っており硬直も解けている。
もうすでに死んでいるようだ。
今死んだのではなさそうだ。
あわてて吉川は勝手口から外に飛び出し兵庫県警に連絡を取った。
吉川の連絡を踏まえてすぐ所轄の警察がやってきた。
その後、県警本部から捜査員や鑑識が到着した。
吉川が課長に説明している。
「別荘の中で二人が死んでいます。中は毒のある煙が充満している恐れがありますが現場保全のため換気はしていません」
鑑識が防毒マスクを着けて空気の採取や現場調査を始めた。
そのあと課長と吉川は鑑識の許可を得て、別荘の扉を開け放った。
別荘の現場の捜査のあと、課長と吉川は洲本署に行きそこで鑑識の結果を待った。
遺体は、オーハシポートホテルで赤龍戦の対局後に失踪した林田桜里瑛女流棋士とその兄の大内義長と確定した。
二人の死体が栃木の淡路島津名の別荘で発見された。
別荘の室内は、勝手口のドアを除いて人の出入りができない密室状態だった。
そして美都留が病院で言っていたのは、
『別荘のドアは鍵がかかっていたので、別荘を一周して勝手口のガラスを石で割って外から手を入れて勝手口を空けたの』
美都留の言い分を信じれば、別荘の出入り口はすべて鍵がかかっているということになる。
そうすると、この別荘の二人は事故か心中で毒を飲んだのか。
いや、赤龍戦で優勝して大金を手に入れて自殺する理由は無いはずだが。
そうすると事故なのか、事故にしては大内が右手に握っていた桂馬の意味は何か。二人で居たのなら、苦しくなってドアを開けて外に逃げようとしなかったのか。また動けないなら電話で助けを求めなかったのは何故か。
あの桂馬は犯人を示すダイイングメッセージではないのか。
そうするとこの事件は密室での殺人事件ということになる。
オーハシポートホテルも殺人事件なのか。連続殺人事件なのか。




