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リーゼロッテと叔母

交通事故轢き殺す場面あります。

ご注意ください。


ザックリ言うと叔母さんは主人公はちゃんと叔母と姪です。


 


 リーゼロッテは起き上がると直ぐに身支度を整えて、今日あの男が来る前に、来てからも逃げ出す事が可能か教会まで駆け込む算段を巡らせる。

 夢の後半の幸せな部分より、焦燥感いっぱいの前半部分の男に今現在心当たりがあった。

 まだ夜が空けたばかりの薄暗さはいつも通り。

 リーゼロッテの勤める宿屋は住み込みのリーゼロッテともう1人が起き始めただけでまだ静まりかえっている。

 リーゼロッテは先程思い出した。

 いや、夢見した前前世を思い返す。

 そうしてブルリと震える。

 絶対にあの男と再び結婚なんて真っ平御免だ!

 宿屋の女将、リーゼロッテの叔母にそっと告げて仕事を抜け出させて貰うように言わなくては。

 あの男の生まれ変わりに思い浮かぶ顔がある。

 目が同じだった。

 思い出せばフルリと震えるくらい仄暗い陰湿な何かを持った瞳。

 何故かリーゼロッテに執心しているようで不思議だったが、前前世が関わっていそうだ。

 ようやく思い当たってホッとしたのと同時にまだ打つ手があることを神に感謝した。



 この世界は前世の【縁】を大切にするのだ。

 そして前世で次の世も一緒になると約束したなら、それはより強い【縁】となってその二人を結びつける。

 もし、片方のみの約束であればその【縁】を教会で断ち切って貰える。

 そのためには確かなる記憶を基に夢見で神官に記録してもらうのだ。

 そうして、良縁なら結び、執心や悪縁と認められれば断ち切る事が出来る。



 リーゼロッテの前世は非常に短い。

 齢7つにして殺されたからだ。

 小学校入学式、幼なじみの男の子と一緒に帰宅途中で車に轢かれた。

 いや、あれは確実にリーゼロッテを狙っていた。

 運転手は老人、鬼のような顔をした男だった。

 ニヤニヤと笑いながら「逃げて!」と私を逃がそうとしてくれた幼なじみをまず轢いた。

 その時は単なる事故だと思った。

 走って逃げようとするリーゼロッテを追いかけるように、ハンドルを切り、わざわざ幼なじみを再度轢いてリーゼロッテを吹っ飛ばした。

 そこでリーゼロッテの記憶は途切れている。

 不気味な男の「これで……だよ」ニヤニヤ嬉しそうに笑う声が最後に聞こえた声だった。

 全く覚えのない男に幼なじみと一緒に殺された。

 これを思い出した時、教会に飛んでいこうと思ったが、相手のあの狂人が誰か分からなかった。

 住んでいた場所も年齢もただ銀色の高そうな車で轢き殺されただけだ。

 関連付ける物が何一つない状態では流石の教会も手が打てないらしい。

 だから諦めた。

 でも前前世は違う。旦那だった嫌な男の名前はハッキリ覚えている。

 ただ、前前世が有効なのかどうか分からなかった。

 やっぱり仄暗い陰湿な瞳は同じだ。

 はっきりわかるのはそれだけだった。




 階下に降り出来るだけ普段通りにそして迅速にローテーションの仕事を終わらせ叔母のリッセルへ声をかける。


「叔母様、教会へ行きたいの。あの男が来ている時間に」

「リーゼロッテ?まさか何か思い出したのかい?」

「多分……上手くいけばだけれど。縁切りを頼むつもりです」

「気をつけて気付かれないように行くんだよ。あの方は少しリーゼロッテへ執着し過ぎているから」

「ええ、少し前から裏に下がりますね。裏口から出ます」

「上手く引き付けておけるようにするよ」

「ありがとうございます。叔母様」



 リーゼロッテは優雅にお辞儀をして、食堂へと戻る。

 リッセルは苦笑する。

 カーテシー、貴族の所作は平民には必要など無い。

 けれどあれがリーゼロッテと母親を結ぶ思い出。

 代官を勤めていた男爵家に嫁いだ姉。

 リーゼロッテが生まれて幸せだった。

 なのに夫婦二人で出かけた折に盗賊に襲われて死んだ。

 犯人は捕まらず、男爵家が治めている土地で働いていたリッセルがリーゼロッテを引き取った。

 何故か領内のほかの土地を治めていた家がリーゼロッテを引き取ろうとしたので逃げるように移動して、リーゼロッテは名前を変えてリーゼロッテになった。

 ようやく落ち着いた片田舎で宿屋を開き、軌道に乗ったのところであの男が来るようになった。

 いつの間にかこの土地をも治めるようになっていたその代官の息子。

 ダーセル・トラム。あの男は必要以上にリーゼロッテに近付く。

 そろそろこの街から逃げなくてはいけない。

 せっかく軌道にのった商売もリーゼロッテには代えられない。

 たった一人の姉の忘れ形見。

 リーゼロッテを守れるのは成人するまでの間だ。

 成人してしまえば本人の署名という事にしてしまえば結婚も可能になってしまう。

 本来あってはならない事だが、相手は治める側の人間だ。

 リーゼロッテを連れ去って隠してしまえばどうとでもなってしまう。

 その可能性にリッセルはフルリと身体を震わす。

 前世リーゼロッテを殺した男の名前がわかればもしかしたら『縁』を切れるかもしれないのに。

 願わくば私の可愛い姪に幸せが訪れますように。

 リーゼロッテの思い出した前世でどうぞダーセルとの『縁』が切れますように。

 そう女神に祈らずにはいられない。



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