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熱狂する帝都

 初めての来るはずの異世界の町。帝都。けれど現在のこの町が普段通りじゃないことは歩く人々の放つ異様な熱気から察することが出来た。


 これは……祭りか何かかな……?


 地下に続く階段の前で【索敵】も使いつつしばらく観察していると一つ分かったことがあった。異国情緒漂う服装の通行人たちは一方向に向かっているということ。どうやら、ある一地点に集まっているようだ。



「行ってみるか? 」



 あえて口に出して意を決する。幸い言葉は通じ始めている。何とかなるはずだ。


 人の流れの中に身を任せてしばらく歩く。すると次第に小道が合流していき道幅が大きくなり、人も増えていった。【索敵】で事前に把握はしていたが改めて、凄い人の数だ。日本の通勤ラッシュ時での電車の乗り降りに匹敵する。



「縺?繧?¥縺ッ?早くしろ! 吶繧茨シ遅れるぞ! 」


「°縺繧九¢! 」


「押すなって! 縺カ縺。縺難ス偵▲繧! 」


「急げ! 髢オ蜷ヰ医≧縺昴□繧ソ阪! 」



 熱気も比例してどんどん高まっていた。ところどころ聞き取れない単語がいくつかあったものの群衆が前向きな感情で高揚していることは理解できた。


 熱に飲まれたまま歩き続けた結果。地下室への階段があった小道から数百メートルほどで。ついに大きく開けた場所に出る。


 広がる青空のまぶしさに一瞬だけ目を奪われた後に飛び込んできたのはこれまた広い6車線ぐらいはありそうな大通り。道の両端には何本もの古代神殿の柱のような白い石柱が並んで荘厳な雰囲気を放っている。



「おい! √??豁「縺セ繧九↑!! 」


「あっすみません……」



 思わず視界一杯の大スペクタクルに足を止めてしまったが、周囲の混雑具合をすぐに思いださせられた。謝った後も俺の身体はどんどん前へ前へ押し込まれて気づいたらよくわからない場所にまで来ていた。


 前も人。横も人。後ろも人。老若男女、子供から大人まで多種多様な人、人、人。あまり何かを見物するには適さない地点だ。


 かといって魔法やスキルを使って無理やり良い場所取りをするのもどうかと思ったのでこのまま立っていることにした。


 そうして待つこと数分。異様な盛り上がりはとうとう最高潮に達した。



「バンザーイ! 譛?鬮倥□窶!! 」


「こっち見てくれええええ!! 」


「最高だ! 莉頑律$縺ッ險擲伜?ソオ譌・縺!! 」



 辛うじて何か白いモノが大通りを通っているのを人の頭の上から見えた。すると盛り上がりはさらにもう一段階繰り上がり、もはや何を言っているのか全く分からない絶叫へと変わる。


 凄い音だ! 一度見に行ったライブの盛り上がりの時よりも断然こっちの方がヤバイ! 何なんだ!? 一体何を見てそんなに興奮しているんだ! 


 そんな俺の心の中に抱いた疑問に誰かが応えてくれるはずもなく人々は歓声を上げ続け、次第に大通りを行く白い物体は目の外に消えていった。


 ようやく少しの落ち着きを取り戻した周囲の人たち。溜まらず俺は聞くことにした。この謎の催しの正体を。隣で感動のあまり涙をポロポロと流す男性に。



「あの~ちょっと聞いても良いですか? 」


「んあ!? なんだ兄ちゃん、こんな時に!? ……それはそうと変わった格好だなぁ! 」


「ハハハ……よく言われます……。そのことは置いといて! 何なんです? この騒ぎは! 」



 直後に見た男の顔を俺はしばらく忘れられないだろう。まるで『世界最高の馬鹿』を見つけたとでも言いたげな、大きな仰天と少しの嘲りに満ちた顔だった。



「おっっっっまえ……本気か!? 本気で分かんねえのか!! 」


「うるせえぞ! ウニロ! こんな時くらい大人しく出来ねえのか! 」


「いや! ……いやな? この兄ちゃんが……――――」



 何の気なしに口に出した一つの質問。それから派生して生まれたこの騒ぎは俺の想像をはるかに超えた大事になりつつあった。最初に話しかけたウニロという男はかなり顔が広いらしくどんどん人が集まってくる。


 口々に声を上げる人々。日本語と翻訳できない異世界語が混じり合いもう頭がパンクしそうだ。



「わかった! 縺励◆繧茨シ! ……質問に答える前に兄ちゃん……まず俺の方から聞かせてくれ? アンタ一体どこから来たんだ? 」



 ヤバイ。逆に聞き返されるのは予想していなかった! それに……その問いは答え方に間違えたらさらに大きな事故(・・)を誘発するのは想像に難くない。そうして考えている間にも俺に集まるいくつもの視線。彼らは先ほどの興奮した様子はどこへ行ったのやら。黙りこくって大人しく俺の答えを待っている。


 あぁ~もう! ごちゃごちゃ考えるのめんどくさっ! 一か八かだ!



「つ、つい最近……と、遠い小国から来たんです。……極東大陸の北の方の……」



 ラウドさんとリューカから聞きかじった帝国の情報の組み合わせ。さすがに『異世界から来ました』。とは言えるわけがない。頼む。これでどうにか! 


 消え入るような小声ででっち上げた嘘を確かに聞いたはずの聴衆は未だに沈黙している。俺は木恥ずかしさで顔を上げられなかった。



「……そうか。そういうことか」



 多分この声はウニロと呼ばれた人のモノだ。俺はその声につられて恐る恐る顔を上げる。するとそこには全く予想していなかった反応が待っていた。



「大変だったなぁ…… 」


「イヒト帝国へようこそ! 縺上°繧峨#闍ヲ蜉エ讒! 」


「縺泌ョカ譌上? 大丈夫なの? 」



 集まってきた全員が全員俺を気遣う言葉をかけてくれた。どうやら賭けには勝ったみたいだ。けれどこういう反応をされると逆に俺の心が痛むな。



「いやー兄ちゃん! この国のもんじゃないのは何となくわかっちゃいたが大変だったなあ! けれど最高の時に来れたな! こっからは多分良いことづくめだぞ! 」


「最高の時……ですか? 」



 そう聞き返した直後。なんとか危機を乗り切って安心したのか俺の腹から大きな音が鳴った。ただの生理現象だ。しばらく何も食べてないから仕方がない。けれど恥ずかしいモノは恥ずかしい。赤面しながら小声でつぶやいた。



「す、すみません……」


「いいっていいって気にすんな! そうだ! 今日は俺が兄ちゃんにおごってやるよ! 」


「え? ……いや、そんな悪いですよ! 」


「遠慮すんなって! こんな祝い事づくめな日は最近じゃそうないからな! 今日はこの兄ちゃん(・・・)の歓迎会と……我らが聖女様(・・・)の『代表騎士』叙任を祝して宴会だ!! 」



 俺のことは置いといて大盛り上がりするウニロたち。そんなこんなで俺はようやく知ることが出来た。この十数万人もの人々の熱狂が全て『リューカ』のためのものであることを。


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