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魔王とは

「そう……だったんですか……」



 返す言葉が無かった。


 世界の人口の半分。大地の8割。あまりにも大きい数字だ。大きくて、大きすぎて想像すらできないほどに。



「もちろん……私たちは必死で抵抗しました。空を覆いつくし、大地を埋め尽くすモンスターの軍勢に。国同士で協力し合い、積み重なっていく仲間の死体の山の上で戦い続けました。何万ものダンジョンを攻略し、何万のモンスターを狩りました。しかし私たちはモンスターの侵略の最前線ばかりに気を取られていました。モンスターよりももっと恐ろしい(・・・・)モノが国を蝕んでいたというのに」


「モンスター……よりも? 」


「はい。私たち人類が真に対応するべきだったのは『魔王』――――ひいては彼らが創り出す迷宮そのものだったんです」



 魔王。とうとう出てきた。一度だけ対峙してその凶悪さは身に染みて分かっている。だが実態は未だによく分からなかった。



「魔王ってなんなんですか……? 」


「簡単に言ってしまうと『ダンジョンを生み出す能力』を持ったモンスターのことを指します。その他にも定義する上では様々な条件がありますが……」


「『ダンジョンを生みだす能力』……」



 知っている。


 まさに俺と対峙した白い魔王がそれを行い、台倭神社は地獄に変わった。



「それが突発型ダンジョンの正体ってわけですか? 」


「お察しの通りです。5年前、モノバースに新たに出現したダンジョンの総数は10万を遥かに超える数。結果多くの戦う力を持たない人々がダンジョンの中に巻き込まれたのです。そのほとんどが帰らぬ人となりました」



 リューカの兄、リューノが消えた真相。そこには魔王が関わっていた。


 だけど……それだと疑問は残ったままだ。一体何が、何をもって戦争は終わったのか。そこからの展開が全く想像もつかない。



「戦争は本当に今終わっているんですか? 」


「ケンタロウさん。謝罪します。確かに今は戦争状態ではないと言いました。しかしそれは人間とモンスターの間だけの話です。人類が土地をモンスターに奪われることに抵抗するのをやめた時点で残された人々は『敗北』を受け入れました。しかし本当の戦いは終わっていません。実を言うと人間はとある大きな戦いにただ巻き込まれているだけなのです」


「え……? それじゃあ――――」



 じゃあ、一体、『何』が戦っているんだ?



「戦争しているのはそれぞれが百の魔王を従えている4体の強力無比な魔王達(・・・)です。私達人類が絶滅しかけている戦いは東西南北、それぞれの名を冠する『四方の魔王』の派閥争いでしかなかったのです。今はただの休戦状態(・・・・)です」



 魔王同士の戦い。10日間で人類が滅びかけたのはその戦いの余波だったのか。



「今、存在する人類居住可能地域はここ極東大陸の東部のみ。残っている国は我ら13騎士団が所属するイヒト帝国を含めた9つの国しかありません。それも時間の問題です。いつ四方の魔王が動き出すか……分かりません。()の私達には」



 これが地球も辿るかもしれない未来。いやこのままだとほぼ確実にそうなるだろう。少なくとも日本ではモンスターと戦える人間はごく僅かだ。


 もし今の日本に突発型ダンジョンがいくつも現れたら……。


 あれ? でも、なんでだ? 


 休戦状態。国を超えた協力。例え絶望的な状況だとしても、それが成されたはずなのに。なんで……子供たちは苦しんでいるんだ。



「まさか……! なぜ! 」



 深い思考に囚われかけたその時。唐突に立ち上がるラウドさん。虚空を見つめ眉を大きく歪めさせている。


 なんだ? 俺の【索敵】スキルには何の反応は無い。近づいてくるモンスターは無いはずだ。



「ケンタロウさん! 事情が変わりました! 今すぐここから離脱してください! 」



 今すぐここから? 


 周りを見回す。視界に入ってくるのは真っ赤な空と砂漠と同化した石の町だけ。



「……でも……どこに? 」


「ッ!! そう……ですよね! マズイ。このままでは! エリー!! 」


「なあに? おじさーん」


「お家を一瞬借りても良いですか? このお兄さんに! 」


「いいよぉー」


「……よし! お待たせしました! ケンタロウさんこちらに! 」



 鎧の音を鳴らし俺の手を引き走るラウドさん。息を切らしたラウドさんにつられて俺の息も自然と切れてきた。


 なんだ? 一体何が起きてるんだ!?


 走ること数分。目的地は日干しレンガの室内の一つだった。



「入って! ここです! タンスの裏に隠れていてください! 」


「は、はい! 」


「一つ約束してください! 絶対に……何があっても……何が聞こえても……ここから出ないでください! 」


「え? 」



 俺がまともな返答しないうちにどこかへ消えていくラウドさん。


 こうなっては仕方がない。ステータスから魔力の強化を切断した上で【索敵】と【鑑定】を使用した上で息をひそめた。


 一体ラウドさんはなぜ焦っているのか? 何におびえているのか。その答えは()から降ってきた。


 まるで飛行機が墜落したような。そんな爆音がさっきまでいたところから聞こえてきた。直後巻きあがる砂煙。


 瞬時に【鑑定】を使って一つ息をつく。


 よかった。あの3人とラウドさんは無事だ。けれど煙の中にいる人影は4人だけじゃない。あと3人いる。新顔が。


 遠目から見ても分かる。


 ラウドが着る鎧よりもレベルの高い【鍛冶】スキルと【強化】スキルで強化されている光り輝く鎧。豪奢で整えられた髪。豊かな口ひげ。


 いかにも……貴族といった雰囲気だ。



「なぜ……こんなところ(・・・・・・)に飛ぶ鳥を落とす勢いの13騎士団の副団長である貴方がいらっしゃるのですか? 説明できますか? 」


「エルダ……団長……」



 ニヤリと笑うエルダと呼ばれた男。苦虫をかみつぶしたような表情をしたラウドさん。2人の間にはひりついた空気が流れている。


 対照的な反応を示したのはラウドさんに抱き着く3人。彼らの顔には不安の感情がありありと浮かんでいた。




 その時、その瞬間までの俺は知らなかった。


 全ての人間がステータスを持つことの意味。


 ステータス前提の社会の実態。


 はたして人間は一つの強大な敵に対して一枚岩になれるのかという問いの答え。


 そして『イヒト帝国』がいかに腐敗(・・)しているのかを。



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