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ようこそ! 異世界の町へ!

 商人が一歩進む。すると俺も一歩踏み出す。


 商人が足を速めて二歩進む。俺もすかさずペースを速める。


 今度は小走りになる商人。負けじと俺も走り出す。


 本気を出したのか。【スキル】を使ったのか。目を見張るスピードで商人が走り始めると俺も出し惜しみせずに【疾走】を使った。




 あれからお互いに意思疎通が全くできないことが分かった俺達。最初に動き出したのは商人の老人の方だった。


 脱兎のごとく。という言葉はまさにこの老人のための言葉だろう。その逃走のスピードは目を見張るものがあった。そうなると困るのは俺の方だ。異世界(こっち)に来てから初めて会った第一異世界人なんだ。せめて街の場所くらいは手振りで教えてほしかった。


 とまあそんなわけで『異世界鬼ごっこ』は突如始まることになった。




 商人はまるで年齢を感じさせない動きで道なき道――――不気味な森の中を無言で突き進む。巨大な根や段差を軽々と飛び越え、木の枝に飛び移り、茂みを一瞬で掻き分け、大岩をよじ登った。


 まあそれもそのはずでこの老人が見た目通りのただの老人ではないことは【鑑定】スキルで分かっていた。この老人は成長限界に限りなく近いLv.48の中々の実力者だ。もちろん俺が付いてきていることも分かっているんだろうが、さっきからこっちを一度も振り返らない。こっちと馴れあう気は彼には一切無さそうだ。


 まあ、いいさ。


 仲間が欲しいわけじゃない。


 ただひたすらに目の前の老人を追いかける。特に苦にもならない作業。体に負担がかからない動きは頭に余裕を持たせ、どうしても『余計なこと』を考え出してしまう。


 今の俺の場合、それは黒騎士に言われたことだった。アイツは俺のことを『孤立主義のくせに誰彼構わず助ける異常者』だと断定した。


 ……まあ全部は否定できない……気がする。


 確かに俺は思っている。自分のことを『仲間を作る資格の無い』人間、いや『適性が無い』人間であると。そこに間違いは無い。


 ただ……『人を助ける』という部分になると途端に自分でも分からなくなってしまう。ついさっきもこの商人の老人を助けるために迷わず突っ込んだ俺。一体何がこんなにも自分自身を突き動かすのか。


 今までも沢山、言い訳をしながら人を助けてきた。


 死にかけていたから。


 叔父さんにたまたま顔が似ていたから。


 初めて会った異世界人だったから。


 始めて仲良く出来た異世界人だったから。


 クラスの友人だから。


 委員会の友人だから。


 助けを求められたから。


 妹だから。


 自分が危険な目に巻き込んだから。


 助けられる力を持っていたから。


 救う力を俺しか持っていなかったから。


 間違いなくこれらの理由は俺の心と体を動かした要因の一つだったはずだ。でも、俺は断言できない。純粋にそれだけが理由なのか。そうだ。やっぱり何かが引っかかる。


 俺は人助けをした後に一度も達成感というモノを感じたことが無い。ただあるのは『安堵感』だけ。どうにか『失敗』という恐怖を経験せずに済んだという。そう。あの時(・・・)と同じ…………。あの時? 



「なんだ? あの時って……」



 自然と口から言葉が漏れた。いや。敢えて言葉に出した。そうでないと忘れてしまいそうだったから。違和感を持った箇所も、違和感を持ったことさえも。なぜだろうか。今こうしてはっきりと認識しても数分後には綺麗さっぱり忘れているような確信がある。


 俺は結論付けた。


 結局は全てあそこに帰結する。俺の過去。曖昧な子供のころの記憶に…………。ん?



「アレ?  あの爺さんどこいった? 」



 考え事に没頭しすぎたようだ。あたりを見回してもあの大荷物を背負った背中が見当たらない。



「クソッ! マジでどこ行った! 」



 緑とは程遠い真っ黒の葉を生やす漆黒の幹を持つ木々が繁茂するこの森の中で人探しをするのは至難の業。だから俺は森を一度出ることにした。外から森を眺めていたら何か分かるかもしれない。


 即断即決した俺は木の上に飛び上がった後、一足で木々が切れる端部に着地。さて爺さんのはどこかな? そう心の中で呟きながら俺は顔を上げた。


 するとそこにあったのは……爺さんの顔……ではないけれどもっともっと良いモノだった。



「あれは……街? 」



 歓喜の大声が森の中に吸い込まれた。不用意な行動だったかもしれないが今は許して欲しい。森の終端部。そこから数百mほど続いたむき出しの地面の先に、見えるのはまさにファンタジーで見るような城壁? のある町そのものだった。


 ただ気になるのは目算で10mほどの高さを持つその城壁。山の様な大きさのハンマーで一突きされたように『壁の帯』が途中で崩落していて、もはや城壁の役割を担えていない気がする。それだけでなく真っ赤なツタ性の植物が壁に張り付いてまるで廃墟の様な様相を示していた。


 廃墟? おい、まさか……もう使われてない無人の町(ゴースト・タウン)とか言わないよな?


 歩をゆっくりと進めながら目を凝らして見てみると……あ! 商人の爺さん! もうあんなところに! 


 でもこれで分かった。あの町はまだ使われている。 


 俺は壁が途切れた部分……どうやら入口替わりらしいあの場所に向かって走り出した。興奮していた。安心していた。異世界でやっと見つけた人の営みに。


 そんな油断した俺を引き締めるように、入口で何かを話していた商人がスッと手を伸ばした。真っすぐ俺の方へ向かって。



「へ? 」



 そこからは怒涛の展開だった。


 老人が指を指すのと同時に何十人もの人間が入口と城壁の上から一斉に飛び出してくる。服装は皆同じようだが全員がボロボロ。そして例外なく武器を片手に携えている。


 おいおいおいおい。随分な歓迎の仕方だな。


 あっという間に囲まれてしまった。ボロを纏った人間たちは猜疑心と怒りに満ちた目をこちらに向けてこちらに叫んだ。



「縺上◎縺後≠縺ゅ≠縺!!!  」


「縺ゥ縺薙蝗ス縺ョ閠?□??シ??? 」


「蜷#阪$蜷堺ケ励l縺医∴縺医!!! 」



 どうやら異世界人の中で俺と言葉が通じないのは老人だけではないらしい。説得は不可能。どうする? 



「縺翫>? 菴輔r縺励※縺?k? 」



 そんな中、聞こえた男の声。音のする方へ顔を向けると一人の男が付き人を携えて大股で歩いてくる。


 どこか下品な雰囲気を漂わせた男だ。日焼けした肌。正面を大きく空いた派手な色の服。肌の上から直接、ジャラジャラと金色の装飾品を身に着けている。



「髱樒、シ繧偵♀險ア縺嶺ク九&縺???譌??譁ケ縲ゲシュペル縺ィ逕ウ縺励∪縺」



 俺を囲う武装集団の間をかき分けて、二言、三言口にした後一礼する男。改めゲシュペル。唯一聞き取れた名前の部分は俺が【鑑定】を使用して見たこの男の素性と一致した。



  『Lv.56  ゲシュペル

   力:  789

  敏捷: 1987

  器用: 1902

 持久力: 1599

  耐久:  399

  魔力: 2032    』


 ゲシュペルは顔を上げると両手で俺と入口を示した。まるで『歓迎します。さあ、どうぞ(街の)中に入ってください』という風に。


 横目でチラリとさっきまで俺を囲って興奮していた連中を確認すると、彼らは一様に無言で片膝を地面に付いて跪いていた。どうやらこのゲシュペルと言う男はこの町で相当の影響力がある存在らしい。


 まあ何はともあれ街に入れそうなのは良かった。


 俺は少し興奮気味にゲシュペルの後を追う。正直に言おう。始めて見る異世界の町。それがどのようなモノなのかワクワクしていた。


 そんな俺の前向きな期待はすぐに裏切られることになった。


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