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決着

 さすがに頭の中は冷え切っている。無傷で助けると約束した女の子に俺はここまでやらせてしまった。


 さらに苛んでくる事実はそもそもこの上級ダンジョンが一人で攻略できるような仕様ではなかったとういうこと。


 油断していただろうか。いやそもそも俺はこの手のなどの世界に疎すぎる。慎重すぎたっていいぐらいだった。何を勘違いしていたんだ俺は。ゲーム


 危なかった。


 もう少しで……


 あと少しで……


 梨沙の時と同じ轍を踏むところだった。


 いや……違う。


 俺はまたもや救われたんだ。木ノ本絵里に。



「……ぐうあああ……!この……! 程度……! 」



 俺の思考を切り裂くように蛇の女帝が唸る。すると女の傷口から大量の蛇の頭が生えてきた。何本もの蛇の身体は次第に収束し、一本の女性の腕を創り出した。



「超再生がお前だけの領分だと思ったか……! どうじゃ! 知らなかったであろう!? 絶望せよ! 貴様は勝てない! 」



 息も絶え絶えに宣言する蛇女。睨みつけてくるその魔眼には全く余裕が感じられない。そんな女王様に剣を突き付けるように俺は正直に言ってやった。



「いや……もう知ってる。というかお前の石化の限界から何ができるかまで全部もう分かってる。この『眼』で」



 俺の目と蛇女の魔眼が交差する。女は一歩後ずさった。



「やはりその赤き目……」


「知ってるのか? さすがは長生きだな……」



 どうやら今は赤く変色している俺の目。それは現在『ある技』を使用中であることを意味している筈だ。


 俺の役目は木ノ本からレベル140の怪物をひたすらひきつけることだった。だけどそれだけじゃない。あるもう一つの可能性を俺は試していた。


 青みがかかった視界(・・・・・・・・)を戦闘中にずっと維持することによって



「俺の【鑑定】スキルのスキルレベルは数分前にLv.20に達した。俺は新たな力を得た。お前を倒すための最期のピース、『偽装看破』をな」



『偽装看破:【鑑定】がレベル20になると使用可能。自分よりも魔力が低い対象のステータス偽装を無効化する。』



 俺は両手に抱えた一人の女の子の顔を見た。今は一気に疲れが来たように眠っている。魔力を使いつくしたんだろう。けれどその寝顔は安らかだった。


 ありがとう木ノ本。俺がこの蛇女を倒せるのは全部お前のお陰だ。


 そう心の中で言った後慎重に床に彼女の身体を置いた。



「……だからどうした!? 最初に戻っただけじゃ! 依然として魔眼は……」


「一刻もしないうちに再生するんだろ? そして今あんたに残っているのは自前の二つの目だけ……もうタネは割れてんだよ。あんたの石化の仕組みはな」



 一歩前へ進んだ。すると『女帝ィメド・ゴルゴナス』は後ずさった。それを見てさらに一歩前へと踏み込む。



「あんたの石化は相当やばかった。追い詰められたよ冗談抜きで……本当に危なかった……木ノ本がいなかったらどうなってたか……」


「……来るな」


「でもそんなチート能力も万能じゃないんだな……アンタはいたぶるために少しずつ身体を石に変えてるような演出(・・)をしてたみたいだが……どうやら本当に体の一部を少しずつ石に変えることしか出来ないらしいじゃないか……まんまと騙されたよ……」


「来るな! ……それ以上……! 」


「さらにアンタの両目の魔眼……それは自分とレベル差が50は開いてないとほとんど効力はないみたいだな……楽しかったか? 自分よりもはるかに格下をいたぶってきたのは……? 楽しかっただろうなぁ! わざわざレベル1の小蛇を用意するぐらいなんだから! 」


「近づくな……! お主……聞いておるのか!? 」



 ヒステリックに叫んだ蛇女。俺はその言葉と共に止まった。


 別にコイツの言うことを聞いてやったわけじゃない。もう十分を距離は稼いだからだ。これだけ離れていたら木ノ本と寝かしつけた場所まで衝撃は届かない。



「今のお前には石化は使えない。だから俺もアレ(・・)を使える」


「な……何じゃ……それは……? 」



 俺が背中から取り出したモノを見て、正面に立つ女帝は明らかに困惑した。恐らく見たことも無かったんだろう。『お面』ってやつも。戦隊ヒーローも。



「これはお面だ。こうやって顔につけると……ホラ……誰か分からなくなる……このことを利用した面白いスキルがある」



 困惑と恐怖で包まれた蛇女を放置しつつ俺はそのスキルを使った。



『【仮面変化(マスクチェンジ)】:スキル使用者の顔面が50%以上隠れている場合使用可能。スキル使用中。基礎ステータスの数値の振り分けが可能になる。継続時間は5分。』



「[魔力]の30万を[力][敏捷力][器用]にそれぞれ10万! 」



 その瞬間体中から力が漲った。筋肉に張りを感じながら感覚は鋭敏になる。うぶ毛の一本一本の動きすら今の俺の手の中にあった。



「な、なんじゃ? お主……魔法使いでは……」


「レベル100になった時からだ。また夢を見るようになったんだ……小さい頃の夢を」



 蛇女の質問を無視し俺は自分の話をしだす。口に出すことで身体に染みついた記憶を呼び起こすために。



「その中で小さかった俺はやっぱり戦いの訓練を受けていた……それも何故だかバットでの……」


「なんじゃ! さっきから何を言っているんじゃ……! 」


「最初は起きた時にほとんど思い出せなかったんだ……だけど最近は記憶が結構はっきりしだしてて……ちょっとはこっち(・・・)で再現できるぐらいにな……」


「このッ……女王である妾をッ……なめるなァアアア!! 」



 飛び掛かってくる『女帝ィメド・ゴルゴナス』。さっきはあんなに素早く恐ろしく見えた女王様の動きが今はとてもゆっくりに見える。


 別に『なめて』なんていない。


 ただ思い出しただけだ。『時間が止まったように見える』感覚を意識的に行う方法を。


 コイツは俺を死の寸前まで追い詰めたのは間違いない。それにレベル140だ。力も敏捷性も耐久力も持久力も全てが数十万。確実にあの白い魔王よりも肉体の強さは上。


 だけど石化の無いコイツはそれだけだ。


 なら使える。夢の中で見たスキルでもステータスも関係ない真の[技]を。



「死ねええええええええええ!! 」


「……『大車輪』」



 叫ぶ女王に対して俺はその技の名を呟いた。たった今思い出したその名前を。


 体は自然に動いた。捩じりあがる腰。その関節部は俺の40万近い筋力を全て受け止める。その間も恐ろしいスピードで迫る女王。


 その指が俺の髪の毛の一本に触れかけた時。


 全身に溜まった力を全て解放した。


 腰の回転と共に前に飛び出るバット。それは女王の身体を的確に打ち据えて弾き飛ばす(ノックバックさせる)


 さらに俺は回転。第二撃の準備をするとともに間合いを潰す。


 再び攻撃。


 ノックバック。


 回転。攻撃。


 ノックバック。


 回転。攻撃。ノックバック。回転。攻撃。ノックバック。回転攻撃ノックバック回転攻撃ノックバック回転攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃―――――――――――――――



「うおおおおおおおおおおおおおおおおおー――ー!! 」


「ぐギゃァア亜ァ亜亞亜ア阿ァア嗚呼ア嗚呼アァ――――!! 」



 絶叫する『女帝ィメド・ゴルゴナス』。レベルは140。耐久力は50万超え。その硬い体がミンチのように引き千切れていく。



「……このまま終われるかぁ! 硬まれ(・・・)! 小僧ォ! 」



 しかしさすがは上級ダンジョンのラスボス。両目の魔眼を血走らせ大量に出血させながら俺の右腕丸ごと一本を石化させることに成功する。


 腕に奔る激痛。思わず倒れこんでしまうほどの重さ。バットを取り落とす俺。血まみれの笑顔を見せる女王様。だけどもう遅い。



「『瞬間移動』! 」



 木ノ本を逃がす時のために温存し続けていた最後の手札を切った。そして移動する場所は――――蛇女の頭上20m。



「自分で作った石は…………自分で食らいやがれ!! 」



 落下のスピード。石化による重さ。【疾走】スキルの補正。【念動魔術】による加速。【火炎魔術】による加熱。その他全てを取り込んだ俺の拳は――――



「……こんな……妾が……こんなあああああああああああ!!! 」



 50万の耐久力をただの煙に変えてみせた。 


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