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拍子抜け

 五階層への下り階段はすぐに見つかった。モンスターが溜まり,隠されていた奥。綺麗さっぱり片付いた今から見るとなんで気付かなかったのか分からないほどに大胆にソレは鎮座していた。



「降りたら今度は何がいるかな? 」



 心の内の疑念を吐き出すようにポツリと呟いた。


 俺は、五色の迷宮と名付けられたダンジョンという空間について3層と4層のことしかまだ知らない。けれど3から4へ下がると敵が劇的に強くなったことは身に染みるほど思い知らされた。この法則で行くと五階層はさらに厄介になるはず。しかし今の俺は前へと進むことしか出来ない。


 ここは五色の迷宮と呼ばれるダンジョンだ。名前から推測すると五階層目が最後であることは予想が付く。またゲームでお馴染み(・・・・)のダンジョンであるならクリアすれば何かしらの"報酬"が待っているはず。もう思い付く脱出の方法はそれ以外なかった。


 思考を巡らせながら階段の最後の段を降りる。時を同じくして表示される『五色の迷宮 最下層』の文字。


 やっぱりここが最後だ。何の説明も無しに今まで戦ってきた。誰かに強いられたわけでもなくバットを振るった。それも、もう終わりだ。絶対に生き残る。どんな敵が現れようとぶっ倒す……!


 心ではそう思っていても身体はもう限界だった。持久力に経験値(ポイント)をつぎこんで、途切れそうになる意識をなんとかつないでることなんて自分が一番よくわかっている。



「……だからもうさっさと終わりにしよう。なあ? お前もそう思うだろ? 」



 灯一つない漆黒で塗りつぶされた最終階層の最奥に声をかけると、暗がりの中から一体のモンスターが現れる中


 目測で3メートルは優に超える巨体。闇に紛れるような黒い表皮。盛り上がった筋肉。怒りの感情を直接伝えてくるむき出しの牙とつり上がった真っ赤な目。何よりも特徴的なのは額から生えた二本の角。


 見た目。威圧感。禍々しさ。まさに伝説や伝承で語り継がれる『鬼』そのもの。ダンジョンのラスボスに相応しい威容。


 その名は『イビル・オーガ』。



「──ッッ! 」



 一目見て分かる。コイツは今までに相対した中で最強の怪物。最後の最後に待っていた過去最大の障壁。だっていうのにこっちはさっきから足はふらつくし、目はチカチカするし、手足の先の感覚が消えていってすらいる。


 もう……考えるのがダルすぎる。作戦なんて思いつくわけがない。こんな本物のバケモノ相手に消耗戦なんてやってられるか……!



「【投擲】! 」



 スキルを使用し、ありったけのナイフを放る。レベル18の筋力、器用さ、敏捷性を持って投げられた刃の弾幕に対して鬼は避けもしなかった。



「こんなんじゃ傷もつかないのか……! 」



 示し合わせたにように今度はオーガの番だった。人間の怒号と猿の咆哮の中間のような雄たけびを上げた黒い鬼は一気に距離を詰めてきた。


 正面からタックル!? こんなに速いのかよ!


 すんでのところで躱すが、弾丸と化した3mの巨体はそのまま壁に衝突する。ガラガラと音を立てて崩れ落ちる壁面。決して壊れることは無いと認識していたダンジョンの外壁がいとも容易く破壊される光景は俺に少なくない衝撃を与えた。


 ただ鬼は俺に驚きをかみしめる暇すら与えてはくれなかった。



「やべぇ……! 」



 予想に反して速かった二度目の攻撃。土煙を突っ切るように飛び出す黒い腕はまるで大木のような存在感を持っている。



「くっ! 」



 ただ単純な拳がこれほど怖く感じるなんて。3mの巨体から繰り出される打撃はリーチが長く、俺の想像の何倍も速く向かってくる。


 どうにか【棍棒術(スキル)】で迎え撃とうとするけれど……。



「……ぐ! 」



 したたかにぶつかった拳とバット。俺の腕は確かに拳をバットの芯でとらえたはずなのに痺れていた。まるで凄まじい剛速球に詰まらされたような感触。


 ただ驚きはしても、頭の一部は冷静さを保つ。これもダンジョンで身に着けた技術。そして、そんな落ち着いた脳みそはこう言っていた。


 確かにオーガは『デカい』し、『速い』し、『硬い』。


 けれどそれだけ。何か特別な力を持っている様子もなければ、厄介な武器を有している様子もない。


 直後確信した。もし、鬼の強みがそれだけ(・・・・)なのなら……このままゴリ押せる、と。



「はぁ! 」



 覚悟を決めて、貯めていた息を一気に吐き出す。無酸素のまま弾かれたバットを一瞬で引き寄せて二激目。狙いすました鬼の脇腹を的確に打ち砕く。



「グォオオオォォォ……! 」



 効いた。明らかに。感触も良い。柔らかいものに表面を覆われた硬い何かを割り砕いたような感じ。人間と同じだ。この怪物にだって頭蓋骨のように硬い部位がある一方で、柔らかい部分もあるようだ。


 頭の中ではゆっくり考えを巡らせていても、もちろん身体の動きは止めない。絶えず足を動かして、掴みかかってくる太腕からは【疾走】スキルを駆使して逃れた。


 分析通り。スピードは僅かに俺が勝っているようだ。


 間合いを見極め、漆黒の腕が鼻先スレスレで空を切るところを見つめながら、頭は常に反撃方法を探っていく。


 急接近と離脱を繰り返して鬼に何度もバットを浴びせかけていく。



「ガアアアアアアアアアアアアアアァアアァアアァア!! 」



 一方的な攻撃を受けた鬼は完璧にキレて(・・・)いた。腕を振り回し、身体をコマのように回転させて寄せ付けさせないつもりだ。



「今さら本気出してもおせぇよ」



 戦闘開始直後の俺なら確かにこれで手詰まりだ。ゴリラに襲われた丸腰の人間のように防御すら許されずに叩きのめされただろう。


 だけど鬼はそうはしなかった。自身の強さに絶対的な自信をもって悠々と俺に攻撃の機会を何度も与えてしまった。


 そうだ。


 手遅れだ。


 お前の身体は既に十分以上に削って(・・・)いるんだから!



「【投擲】! 」



 理想に近いフォームで投げられた2本のナイフは狙い通り執拗に攻撃し続けた脇腹に突き刺さる。


 痛みに叫び喘ぐ鬼。明らかなチャンス。だけどここで追撃はしない。四階層では何度もコレに騙されてきた。傷ついたモンスターというのが一番怖い。捨て身から繰り出される反撃を食らうことほど恐ろしいことは無い。


 そう、しかけるタイミングは、ヤツが突き刺さったナイフを抜き去り、体制を立て直しかけて、起き上がる直前。


 つまり──



「──ここだ! 」



【疾走】スキルと【棍棒】スキルの合わせ技。加速と共に鬼の背後を取り、勢いのまま振りかぶる。


 予期しないタイミングで背中を強打されたオーガは大きく前へつんのめる。もちろんこれで攻撃の手を緩めるつもりはない。


 さあ今だ。畳みかけろ!



「うおおおおおおおおおおおおおお! 」



 反撃を一切許さない乱れ打ち。もう何も考えない。ただひたすらに手に持ったバットを縦横無尽に振りまわす。


 コイツが地に倒れ、黒い煙に変わるその瞬間まで。



「ギャアアアアアアアアアアアアアア! 」



 鬼も叫ぶ。太い両腕を顔の前に構えて必死に攻撃を受け流そうとする。もう何度も見た防御態勢。だけどその声には、さっきまでは無かった恐怖と困惑の感情が混ざり始めている。



「……はぁ! 」


「ガギャッ」


「食らえっ……! 」


「グギッ」


「……倒れろっ」


「ギィギギ……ギュィ……」


「倒れろおおおおおおおおおおおお! 」



 悲鳴と。雄たけびと。血しぶきと。風切り音と。


 重なり合う音がこだまする『五色の迷宮』──最終階層で。



「はぁ……はぁ……はぁ……! 」



 息切れするまで殴り続けること100秒。



「まあ、こんなもんか……」



 漏れ聞こえたオーガのかすれ声が途絶えたその時。


 恐ろしい罠が発動する様子もなく。


 次なる強敵が表れることもなく。


 あっさりと。


 俺のステータスには2000のポイントとレベル20の文字が刻まれていた。


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[気になる点] ポイントの内訳が気になる
[気になる点] ??? そもそも下層に進む理由は……? 上層を探そうとはならないでしょうか わざわざ危険度の高い方に行くのが理解できません。 引き返して二層へのルートを探す方が普通だと思います。 二…
[一言] >  両手からナイフを放る。スキルを使用して。レベル18の筋力、器用さ、敏捷性を持って投げられた一撃に対して鬼は避けもしなかった。 レベルがステータスに関係するのですか? ポイントをステー…
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