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俺の『限界』

 身体の中心に限界ギリギリまで溜めていた力を、裂帛の咆哮と共に一気に解放。



「はあああああああああああああああああああッッ!! 」



 その渾身の一打をもってして、『絶対に諦めない』という意思を世界に示した。



「「「がはっ! 」」」



効力は期待以上だった。


 雨あられのように降り注ぐ【魔法】の弾幕は風圧だけで掻き消え、バットをまともに食らった数十体の【白騎士】は、その一振りだけで血反吐をまき散らし、砕けた鎧を赤く染め、瓦礫の山に次々と倒れ伏していく。



「……くそっ! 」



 しかし、忘れてはならない。一時的に無力化できたのはあくまで”数十体”だけだったということを。



「「「【白刃剣術】――」」」



 その間、時間をたっぷりと得た残り数千体(・・・)の【白騎士】は――



「「「――『ホワイトアウト』」」」



 ――悠々と自身の『技』を発動させていた。



「梨沙! 」


「兄さん! 」



 世界を『白』で埋め尽くそうと瞬く”数千の居合斬りの反射光”を目の当たりにして、俺と梨沙が出来たことと言えば合図とともに“逃げ”に徹することだけだった。


【疾走】スキルによる速さと空間をも歪ませる【次元魔術】の合わせ技で危険地帯から何とか逃れ、廃墟の一角に転がり込むように飛び込んだ俺達は息を切らしながら互いの[魔力]の残存状況を言葉少なく確認しあう。



「……残りは……どう? 」


「そろそろっ……危ないっ……かも。兄さんの方は? 」


「梨沙と一緒だ。ハッキリ言って……俺も余裕は全くない」



 見ての通り、連戦に次ぐ連戦を重ねていった俺達兄妹はジリ貧だった。


 しかし理由は戦いが連続したことだけじゃない。『技』と比べると、ただの【魔法】や【スキル】のエネルギー効率が著しく悪いことも関係していた。


 ある程度型にはまった動きしか出来ない代わりに、”型にハマっている”ことで[魔力]を効率的に扱えて、損耗を抑えることができるのが『技』だ。俺達が必死に通常の【魔法】と【スキル】だけで足掻こうとしても、数と[魔力量]という揺るがない物量差に、このままでは押し切られてしまうだろう。



「シロモトケンタロウさーん! 出てきてくださーい! そこに居るのは分かってるんですよー? 」



 そうやって考えを巡らす間にも、策略家の悪魔はこちらの挑発を忘れない。こっちの居場所なんてとっくに補足している筈だ。あえて泳がせているのは、痺れを切らした俺達が『技』の使用に踏み込んだタイミングで、一気に襲い掛かる算段ってところか? 



「兄さん。私――」


「――大丈夫。大丈夫だ」



 自他ともに認める鈍感な俺でも分かる。梨沙が今、必死に不安を押し殺していることを。どうにか俺のペースに合わせてくれているが、集中力の限界はとうの昔に超えてしまっているだろう。


 本当に……本当によく頑張ってくれている。


 よくぞここまで戦ってくれている。


 そんな妹に向かって根拠の無い励ましの言葉しか吐くことが出来ない自分自身の顔面を手加減一切なし(・・・・・・・)でぶん殴りたくなるくらいだ。



「手加減なし……」



 そういえば……俺が最後に『本気でぶん殴った』のはいつなんだっけ?


【四方の魔王】との戦いでは本気を出す前に心を折られてしまった。


【劇毒の魔女】たちとの戦いでは、その後の【魔境】脱出のことを考慮して出力を抑えていた。


【白騎士】の分身体の討伐では『無尽蔵の持久力』が要求された。


 東京の地下に広がっていたダンジョンでは『あらゆる状況への対応力』が何よりも求められた。


 そして【覇王】との戦いで、俺は当時持ちうる”全て”を尽くして勝利した。


 それじゃあ【覇王】(アイツ)を倒すために、俺は本気を出していたのか? 


 確かにあの時の俺は”全力”を出していた。でも果たしてアレが混じりっけ無しの俺の"本気"だと言えるのか? 


 そもそも本気ってなんだ? 


 出し得る手札を全て使うこと? 


[魔力]が底をつくまで使い尽くすこと?


 それとも……?



「……本気、か」



 いつからだろう? 


 要領よく戦おうとしだしたのは。賢く立ち回ることを意識しだしたのは。余裕をもった勝利を目指すようになったのは。バカなのに必死でかしこぶろうとするようになったのは。


 さっきは幼少期の頃からの『かっこつけ』気質が原因であると断定した。けれど多分それだけじゃない。冷静になった今ならその問いに応えられる。


 俺が自分の本気と限界を見失ったのは――



 ――自分のした行動の責任を取るのが難しくなった時からだ。


 ――自分の持つ力の大きさに、困惑するようになった時からだ。


 ――人を食らおうと襲い掛かるモンスターよりも、自分自身の持つ力が怖くなった時からだ。



 それから俺は戦いの中でも無意識に決めこみ続けていた。



 ――現在の俺の限界は”ここ”なんだと。



 確かに……ホルダーになってばかりの俺の戦い方は今日よりもずっと非効率で、周囲に気を配ることが無く、あまりにも浅慮なホルダーだった。


 けれどあの時、試行錯誤していた頃は、今よりもずっと……――。



「――――そうか」



 妹と二人。


 居場所は敵陣の中心。


 周囲は全て怪物たちに囲まれた絶体絶命の状況の最中、俺の心臓は確かな鼓動を刻み――



「兄さん? 」



 ――血管と筋肉が張り巡らされた”肉体”はかつてない勢いで脈打ち始めていた。


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