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新戦法

 思考を切り替えてしまえば簡単だった。



「どこにも……逃がさねえぞ……」


「くそ! クソォ! 人間が! 人間ごときがぁ! 」



 一度開き直ってしまえば、やることは単純だった。



「――食らえ! 」


「このぉ……ッ! 」



 まず、この距離感で『技』を使うことは出来ない。


 次に、この速度を持つモンスターから梨沙を庇いながら、十分な距離を取ることは絶対にできない。


 だから現在、俺が頼れるのは”爺ちゃんから教わった技術”と”これまで鍛え上げてきたステータス”……そして右手に握りしめた『金属バット』だけ。


 それなら、考えるまでもない。やることは分かり切っていた。



「ぶっ……飛べぇ! 」


「がはぁ! 」



 このデカブツがぶっ倒れるまで……何度でも……叩く。


 俺に出来ることは――それだけだ。



「自分で動くのって……こんなに疲れるんだな……」


「はぁ……はぁ……どうしたん、です、か? 足が……止まってますよ? 」



 さらに思考が整理されたことで良いことがもう一つ。


 こんな風に冷静に敵の様子を観察できたことで、分かったことがある。



「それがどうした? だったら、そっちから攻めて来いよ」


「……」


「それとも、やれない理由でもあるのか? 」



 間違いない。


 【獣の戦士】(こいつ)も……他のモンスターも、ホルダー(おれたち)と同様に『技』を以前のようには使えない様になっている。



「……」


「いいぜ。そっちが待つっていうなら……ここで……――」



 戦う上での条件は同じ。


『技』を使えないのはお互い様。


 つまり――



「――――ぶっ……潰れろォ! 」



 ――コイツを過剰に恐れる理由はもうどこにも無いってことだ! 



「ぐぅぎいいいいい」



 目いっぱい振りかぶったバットを真正面から頭頂部にお見舞いする。


 雑に仕掛けたせいか、両手のクロスする隙をあたえて結果的には防がれてしまいはしたけど、手ごたえは悪くない。


 大きな歯ぎしりをしてたたらを踏むモンスターの重心は哀れなほどに崩れ切っていた。


 もちろん、その瞬間を逃す手は無い。



「はぁ! 」


「うぐっ!? 」



 初手は軸足を、足払いで刈り取る。この有利な状況をさらに強固にするためだ。狙い通り、バランスを大きく崩した巨体は倒れる寸前で地に手を付き体勢を立て直そうとした。



「ふん! 」



 そこへ一発。屈んだところを、かちあげるような一発を食らわせる。



「あがッッ!! 」



 攻撃時、モンスターの空いた手は一つだけ。片手では防御はしきれない。クリーンヒットした一撃は毛むくじゃらの巨体を遮蔽の無い無防備な上空へと吹き飛ばした。



「『フル――』」



 ここで仕上げ。


 落ちてきたところを本命の一撃――【棍棒術】の技『フルスイング』を食らわせる。



「『――スイ――……!? 」



 その予定だったのに。



「舐めるなよ! 人間がぁああああ! 」



 まさかとは思った。


 けどそれは現実だった。



「”狙い”は最初からそれ(・・)だったのか」



 空の上から吼える【獣の戦士】の背中に生えた巨大な翼。さっきも見た【魔王】の力による変身を彷彿とさせるその姿は、自身を動物のように変形させるスキル【幻獣顕現(ビーストサーガ)】の効果によるものだ。


 ……そうか。


 なるほどな。


『技』を使う暇が無くても、【スキル】そのものの効果自体がなくなったわけじゃない。


 だから【獣の戦士】は【スキル】を利用し、落ちてくると思い込んでいる俺の目の前で空中に浮き上がることが出来た。


 奴の目論見通り、用意していた俺の『技』は空振り(・・・)に終わり、一方でモンスターは少なくない負傷を食らいつつも絶好の反撃の機会を得た。


 まさに、この刹那の反転攻勢こそが【獣の戦士】の狙いだったんだ。



「死ねえええええ! 」



 こうして自由落下の勢いに飛翔の速度を加えて、降り注ぐ怪物の巨影。


 その速度は大体の目算でもマッハ100は優に超え、『技』なしで防御しようとすれば大きな傷を負うことは避けられないだろう。


 

「……ありがとな」



 でも俺は今――この敵に対して深く感謝したい。


 やられたフリにはすっかり騙されたけれど、【スキル】が無くなったわけじゃないと俺に気付かせてくれたから。



「ふぅー……」



 息を一つ……長く……深く吐きだす。


 集中するために。


 感覚を研ぎ澄ますために。


 体中の[魔力(・・)]を呼び起こすために。


 

「――いくぞ」



 息を吸う。


【火炎魔術】でバットに熱を加え


【念動魔術】で全身を包みこみ


【疾走】で敏捷性を底上げし


 当たり前のように発動し続けていた【棍棒術】による倍率強化の恩恵を改めて認識した。



「はぁッッ! 」



 かつて爺ちゃんが見せてくれた居合斬りの動きをトレースし、振り上げた金属バット。


 真芯にあたった時の小気味いい感触を塗りつぶす、技術だけでは相殺しきれない衝撃と痛みに耐え、腰を回転させ握りしめたものを最後まで振り切った直後。


 空に浮かぶ島の上では――



「あ”あ"縺悟ョ!コ穂あ"コ懶ぁ"抵ぁあ”あ"あ!スぁ"あ"$縺!<ぁ"あ"ス抵ス!埋莠包ぁ堤愍?悶≧縺?♀縺医ぃ!茨あ”ぁ‷!シ撰ぁ"あ"!縺!あ"ぁあ#縺!ぁ”滂あ”ぁ”あコ遨ゑあ"ぁ”諛あ謚あ”"?ぁ雋ぁ?ぁ蛹ぁ!!クコ荳あぁ奇シ懃クコ闌ィ!ス謚あ"!ぁ"?蝓あ"あ"蛹?あ"あ"蝣、諢!謔あ"竕ァ邵あ”!笙!邵コ蛹サ!!闌ィ!ス!!シ謦ー!ス蛛ぁ!・邵あぁ蛹サあコ!!!!!!!! 」



 ――永遠に続く"怪物の断末魔"が轟いた。



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