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元通りの"代償"

 この世に数限りなく存在するホルダーやモンスターが持つ多種多様な【スキル】と【魔法】。その効力の規模や強度を決定づける最も強力な因子(ファクター)は――――【スキル】や【魔法】の使用者が使用時に捧げた”代償の大きさ(・・・)”であるとされている。


 どういうことなのか、まずはその理屈を説明しよう。


 イメージしてほしい。


 他全ての条件が全く同じスキルレベル5の【火炎魔術】とスキルレベル10の【火炎魔術】の比較した時のことを。言うまでもない。火力が高いのは後者の方だ。


 今度は10の[魔力]を消費した『ファイアーボール』と20の[魔力]を使用した『ファイアーボール』。この場合も、他全ての要素が同じと言う条件では強力なのはもちろん後に示した選択肢だ。


 ここまでくれば再使用間隔が10秒の『技』と再使用間隔1分の『技』を比べて、効力が大きいのが前者であると答える者が誰一人としていないなんてことは流れで分かっていただけるはずだ。


 さて、それでは最後に考えてみよう。スキルレベル10で10の[魔力]を消費した再使用間隔10秒の【火炎魔術】とスキルレベル5で20の[魔力]を消費した再使用間隔1分の【火炎魔術】。この二つは果たしてどちらの方が上だと言えるのかどうかを。


 または再使用間隔0秒でスキルレベル999の10万の魔力を消費した『ファイアーボール』とスキルレベルが50で消費魔力1000万をもってして使用した再使用間隔10分の『獄炎』ではどうだろうか?


 実は、この問いに対する明確な回答は存在しない。なぜなら『ささげられた代償』の比較が上記に挙げた例では出来ないから。


 そう、ここで言う『代償』とは単純に消費される[魔力]のことだけを指してはないない。その【スキル】や【魔法】のために消費される[魔力]の質、[魔力]の濃さ、[魔力]練度、魔法補助の道具の数、スキルレベル、再使用間隔の長さ、【スキル】や【魔法】を使う上で失った(・・・)エネルギー・時間・魔力……その全てを一言に内包している。


 寿命を長く犠牲にすればするほど強力な見返り(バフ)を望むことが出来る【限界突破命令】は、この”代償”という概念をよく表した【スキル】である。


 つまり――――苦しめば苦しむ程、つらければつらくなる程、痛ければ痛い程、失ったモノが大きければ大きい程に【スキル】と【魔法】の力は増大されるのだ。


 ここで一つの想像をしてみてほしい。


 仮に、もしもだ……文字通り使用するのにたった一つの”命”を消費する必要がある【スキル】や【魔法】の『技』が存在したとするならば……その時、命を懸けた使用者本人は、どれほどの力を得られるだろうか? 

 





 固く結ばれた糸が次第にほどけていくように。


 吹き荒れる暴風が徐々に弱まっていくように。


 時が経つにつれ燃え盛る火が勢いを失っていくように。



「ワタシガ……ワタシタチガ……ニンゲンノ……チカラニ? 」


「アリエナイ……ソンナコト……アリエテイイワケガナイ……! 」



 世界そのものを屈服させ、支配していた『力』は今――消えかけようとしていた。



「そんなに信じられないか? 俺がやったのはやり方は別だが、お前たちと同じ――【スキル】で『全て無かったことにした』ってだけだぜ? 」



裏返し(エターナル・ゼロ):【技能消去】(スキルキャンセラー)が発現した時から使用可能。しかし使用できるのは一度だけ。使用者が触れた対象が24時間以内に発動した【スキル】と【魔法】を全て無効化する。この『技』は代償が大きければ大きい程、効力が上昇する』



 これから遥か未来(さき)にいる人間ならば、誰もが疑問に思うはずだ。なぜ完全なる優勢を誇っていた超越者は一度、完膚なきまでに負けてしまった(・・・・・・・)のか、と。



「あまり俺を舐めるなよ。【魔王】の分身(カケラ)ごときが……」



 ある者は、一世一代(・・・・)の『技』が炸裂したことこそが要因であると語るだろう。


 またある者は人間特有の捨て身(・・・)という方策が絶対強者たちの思考を凌駕したという理由を見出すだろう。



「思い知らせてやる。お前らを元居た場所へ送り返すことぐらいなら……こんな”死にぞこない”の身体一つで十分だってことをな……! 」



 だがしかし真実を知る者ならばこのように即答する。


 レベル100をギリギリ超えるような人間が一瞬でも【魔王】に勝ったのは“人間の覚悟”が――邪知暴虐な【魔王】たちをたった一度だけでも恐れさせたからなんだ、と。



「ッ……ナメテイルノハ……オマエノホウダ。コノママ、タダデスムトオモウナヨ? 」


「……キメタゾ。オマエハ"ミチヅレ(・・・・)"ダ。オマエノタマシイヲ、マカイノソコマデヒキズリコンデヤル」


「ああ……それくらい分かってるよ」



 こうして……。



「孫に約束した手前、そうじゃないと困るのは、俺の方だ」



 言葉の一つすら挟めずに……。


 その歩みを止める間もなく……。


 届かない背中へと手を伸ばす暇すら与えられないまま……。


 ……元通りになった世界。



「「「「……」」」」



 立ち尽くす二体のモンスターと二人のホルダー。


 夕日に包まれた廃墟の街。


 前哨基地である浮島と戦場である下界。


 気付けば、その見慣れた【魔境】の景色の中には――




「……爺ちゃん? 」




 ――代償となった人間の姿は、どこにも存在し無かった。

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