窮鼠の覚悟
【魔王】の分身たちは――嗤った。
既視感がありすぎる一幕を。
先ほどの焼き直しのような光景を。
少し前に『無かったことにした戦い』と、全く同じように己が【スキル】を抱えて突っ込んで来た老人を。
“一発逆転”の一手を携えて、捨て身の突貫を行った”死にかけた人間”の哀れな姿を。
『馬鹿め。愚かな。同じことを何度やっても無駄な事がどうして分からないんだ? 』――と言いたげに、目の端に涙を浮かべ、腹を抱え、肩を震わせ、嘲った。
なにせ、彼女等は分かり切っていたのだ。【スキル】の力を使えば問題なく対処できることを。
一片の疑いも無く信じ切っていたのだ。自分たちがつかみ取れる揺るぎなき完全勝利を。
圧倒的強者故の拭い去れない油断。
圧倒的強者のみが持つことを許された余裕。
圧倒的強者のみが掲げられる山よりも高いプライド。
圧倒的弱者に対する海よりも深い侮蔑。
圧倒的弱者への筆舌しがたい憐憫。
圧倒的弱者へと向けられる際限なき嗜虐心。
頂点捕食者たちが持つ理性的判断。
冷静かつ厳正な戦力差分析。
そんな色々な要素が綯い交ぜになった結果、【%#”&Q%’&”の魔王】たちは敢えて”いつも通りにする”という判断を下す。
「「――【新世界秩序】」」
それは――『もしも”いつもとは違う行動”をした結果、全く予期せぬ事態が起きてしまったら? 』という考えの下、決定された『死に際に猫へと噛みつこうとする窮鼠』への対処法だった。
非捕食者をさらなる絶望へと追い込み、逃れられぬ敗北へと叩き落す、捕食者が取りうる最適な方策だった。
そうして困窮するネズミ一匹を処理するのは簡単な作業になる――はずだった。
「そう来ると……思っていたぞ……! 」
しかしながら。
【魔王】は考慮してしかるべきだったのだ。
文字通り、命を懸けたネズミが穿つ歯の鋭さを。
その牙の大きさを。
その一撃に込められた――”覚悟の深さ”を。
「これで……終わりだ……」
「「は? 」」
老人がやったことを箇条書きで書きだしてしまえば――ゆったりとした動作で一歩ずつ踏みしめるように歩いて、【魔王】の目の前にまで近づいただけ。
城本梨沙の両脇に立ち何もせずに待ち構えていた分身たちの肩に両手を置いただけ。
肩に手を置いて、ゆっくりと、恐ろしく鈍い動きで口を開き『ゼロ』――と一言、唱えただけ。
それだけ。
それが全て。
やろうと思えば幼子ですら出来る簡単な一連の動作。
ただそれだけなのに。
「「はぁ!? 」」
二柱の超越者たちの強固な概念によって現出した身体は――虚空へと吸い込まれる泡のように、脆く、儚く――消え失せ始めていた。
「どうしたんだぁ? そんなに……驚いた顔をしやがって? 」
「オマエ……ニンゲン……ッ! 」
「……ワタシタチニ、ナニヲシタッッ!? 」
「はっ! そんなに知りたいなら教えてやる。俺は使ったんだよ。お前等が好きなように、【スキル】の効果を押し付けてくるように。他の誰でもない"自らの意思"で選択したんだ。【技能消去】のスキルレベルを上げると初めて使えるようになり、生涯でたった一度しか使えない最終手段――」
『――【裏返し】をな』




