躊躇いの理由
グリップ越しに手のひらへと伝わった“恐ろしく硬い何か”を殴り飛ばした時特有のビリビリと痺れるような手応えを確かめながら数十メートル離れた『落下地点』を見る。そこには地面にへばりつくような形でくずおれた、"棒切れ"と見紛うほどにか細い『人型モンスター』が四肢を投げ出して横たわっていた。
「もしかして……俺……"加減"していたのか? 」
予想に反して原形のほとんどを留めたままだったソレを一瞥した俺は訝しげに首を横に傾ける。『なぜ今のスイングで死んでいなんだ? 』と。
この【魔境】に来た理由であり、心の奥底にずっと滞留していた『憂い』はもはや消えつつある。それらの不安を解消するための“揺るぎなき事実“と“確信に限りなく近い思い付き”を得た現在、俺は周囲を一切気にすることなく暴れ回れるはずだった。
「なんなんだよ……なんで動かないんだよ……」
だけど結果はこの有り様だった。皮膚が治りきっていないまま、神経痛が残留した身体に鞭打って、待ち構えて戦いをこっちから仕掛けたのにも関わらず何故だか決めきれない。なぜだか倒し切ることができない。あと一歩がどうしても踏み出せない。トドメを刺しに行くことが出来ない。
「どうしちゃったんだよ……俺は……いったい……? 」
怖がっているのか? それとも躊躇っているのか? それすらも判別不能。なぜ俺はトドメを刺さずに足を止めているのか自分自身でもよく分かっていない。
ただうっすらと根拠のない予感があった。このまま追撃を加えようとすれば、何かしら碌でもないことが起こりそうな……まるで、現在のレッドゾーンの静寂は『嵐の前の静けさ』であるかのような……そんな感覚だけがあった。
「気のせいか……勘違いか……気にし過ぎか……いや……でも……」
嫌な予感の原因として思い付く可能性は幾つかある。やられたフリ。死んだフリ。『魔力爆発』。死後発動する【スキル】や『呪い』。特に今回の相手は毒ガスを扱うモンスター。警戒をしすぎるということは無いだろう。
「……」
「……おい【魔女】」
だけど本当にそうなんだろうか?
先ほどから指の一本すら、ピクリとも動かないモンスターはもう俺のの脅威には成りえないのだろうか?
これから起こりうる事態は、全て俺の”想定する出来事”の範疇なんだろうか?
「……」
「……起きてるんなら“返事”ぐらいしろよ」
バットを強く握りしめて一歩、また一歩と怪物の傍へと進む。口では煽りを繰り返してはいるけど、俺の心臓の鼓動は近づけば近づくたびに着実に大きくなっていった。
「……」
「なにか企んでるのかもしれないが無駄だ。お前の考えてることなんて全部――」
そして彼我の距離が10メートルを割った――その刹那。
”濁流”のような[魔力]と共に【魔境】全土に響き渡る。
「繧ェ髣ィ倥縺ォ翫繝鞨縺オ縺縺オ縺縺縺オ縺縺スス豐縺ァ縺ェ縺ァ縺縺翫縺ス難ス繝舌縺ォ縺ァ繧ィ縺翫蕠ェ糴穢穢數ゥ縺コ縺呎ョコ縺呎ョコ縺呎ョコ縺呎ョコ縺呎ョコ縺豁ェ縺ス?ス?シ費シ難シ托シ難シ包シ難シ托ス?ス縺縺麝豐縺翫?繝繝ィ繝シ豸縺ヲ豁サ縺ュ縲?驕皮」ィ縺ョ襍、繧灘搖縲?繧ヲ繧ク陌ォ縺ョ隗」蜑悶??閻ク繧偵縺阪医∴繧肴カ医繧肴カ医繧肴ュサ縺ュ繧ッ繧ス繧エ繝溯?谿コ縺励鬥悶謳斐″繧?縺励縺ヲ豁サ縺ュ憜繝シ繝シ繝シ縺ァ豁サ縺ュ豁サ縺コ縺呎ョコ縺呎ョコ縺呎ョコ縺呎ョコ縺呎ョコ縺ュ豁サ縺ュ豁サ縺ュ縺ェ縺ァ縺縺縺謌ァ谿愬麝豐縺繝鞨翫?繝シ繝シ繝縺呎縺ェ」
得体の知れない”何か”の――――産声が。




