表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
493/558

完全なる想定外

【魔女】が要塞の方へと引いていったのと同時に白一色に染まった視界を前にして、吐き気と同時に胸の奥からこみあげてきたのは混じりっけ無しの『恐怖』の感情だった。



「……ッ! ぅぐっ……! 」



 呼吸は最低限。動きも最適化し、[魔力]の消費も抑えている。だけど毒ガスへの対策はそれでも不十分だった。一瞬の隙に乗じて体に大量に入り込んできた白い煙は神経を弱らせ、正常な思考力を奪い去っていく。


 どうする? これから俺は何を優先すればいい? 時間はあとどれだけ残されている?


 さっきまでは整理されていたはずの事柄がグルグルと頭の中を巡っていた。



「どこが『時限誘爆(・・・・)』なんだよ……? まるっきり大嘘じゃねぇーか」



 敵の『技』の仕様に対して文句を言っても仕方が無い。だけど思わず口からこぼれ出る。


 ――『話が違うじゃないか』と。


 俺が当初予想していた『時限誘爆瓦斯転疾ジゲンユウバクガステンシ』は“致命的なガス”が900秒後、一気に飛散し、レッドゾーンを埋め尽くすというもの。だから差し迫っているものの“人探しをする猶予”は15分まるまる残っていると思っていた。



「染みるな……くそっ……」



 だけど現実は違った。この『技』は段階を徐々に踏んでいく。『状態異常』のレベルが徐々に上がっていき、最終的に到達するのがレベル11ということ。つまり毒ガス自体は最初から存在し、現在進行形で俺の身体と世界を蝕んでいる。


 もちろん一番心配なのは梨沙たちだ。ただ俺自身、あまりここには長居できない。


 レベルを上げ続け膨大な経験値(ポイント)を積み重ねていった結果、現在の俺の[耐久力]は300万を超えている。だがこの[耐久力]というのが厄介で、“身体の頑丈さ”イコール“様々な耐性の強さ”では決してない。【火炎魔術】を鍛えているおかげで火への耐性はかなりあるけれど、神経に直接作用する毒ガス等への対処法は無いに等しい。


 やれることは無い出血を繰り返す内臓を【自動回復】を絶やさず癒やし続けることぐらい。その間にも毒ガスの『状態異常(デバフ)』のレベルは見る見るうちに増していく。


 やはり出し惜しみは出来ない。無事に合流出来た後の『【魔境】からの脱出(・・)』の事を考えれば、まだ俺の居場所は察知されたくなかったけれど、この状況ではそうも言っていられないみたいだ。やっぱり残していた切り札の使い時はここ、賭けに出るなら今しかない!



「【合成】! 【索敵】と【鑑定】――『賢神の眼(ヘルメス・アイ)』! 」



 そして抑え込んでいた俺の[魔力]は瞬間的に爆発する。【魔境】全てを呑み込んだ波動は、必要な情報だけを脳内に取り込み、落としこんでいった。


【天空城】の全体構造と構造上発生し得るあらゆる死角。


 レッドゾーンに残された生き物がいた全痕跡と廃墟の街が持つ全ての脆弱箇所。


 浮島の上と下に広がる大地【魔境】にいるモンスターの数と配置、【状態】とレベル、負傷箇所と戦闘可能かどうかの可否。


 全数百万種にもなる【魔力】の波動。


 広大な【魔境】の中に人間二人が隠れられる数万か所にも及ぶポイントの詳細位置。


 それらを噛み砕いて飲み込んだ結果、分かったのは――



「どこにも……いない……!? 」



 ――俺は賭けに負けたという事実だけだった。 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ