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真の上級ダンジョン

『各駅停車』だと結構、時間かかるんだな。なんてことを思いながらな電車の窓から見える焼けた化学工場跡地を眺める。


 今日は土曜日。朝っぱらから俺は新大和駅を通る私鉄にもう15分以上も乗っていた。目的地まではまだ6駅もある。


 新大和駅は各駅停車しか止まらない駅なので、時間がかかるのはしょうがない。それに途中で急行に乗り換えて急いで行く気分にもなれなかった。


 なぜなら今日の俺は地元の街から無様に逃げてきたのだから。 


 ……全くひどいよな。まさか大和町のダンジョンを全て先回りしてくるなんて。


 推測するまでもない。十中八九、操られた村本との戦いの影響なんだろう。予想通り、工事現場に残してきたあの人は『迷彩服』の仲間だったんだ。


 しかし、あの連中も中々にえげつないことをやってくれる。昼間は学校に行かないといけない俺に対して全く配慮が無い。


 日が昇る前に『迷宮潰し』をされる前に【スキル】や『技』を駆使して、一気に迷宮へと駆け込むことを考えたが、もし迷宮内や迷宮に入るところに出くわしでもしたらそれこそ言い逃れが出来なくなる。


 一体、奴らがどれだけ情報を持っていて、どんな目的の団体かは未だに分からない。だけど関わらないに越したことはない。昨日の夜にそう結論付けた。



 まあそういうわけで俺は大和町から離れた場所へ、あるかわからない迷宮への入口。『開』の文字を探しに行くことにした。


 場所のアテは皮肉にも、モンスターに操られていた村本が教えてくれた。大和町から5つほど離れた町。大和町と同じ『台倭(だいわ)区』の一部だ。台倭区は10以上の町を内包する行政区画で県内では最も大きい区でもある。


 今から行く町は村本の示した渦が書かれた場所でもあり、さらに区内で最もトンネルの数が多い場所でもあった。




「もうすぐ10月だってのに……結構暑いんだな……」



 改札を通りながら思わず愚痴をこぼす。ギラギラと照る太陽の光を手で遮ってスマホの画面を確認した。



「えっとここから一番近いトンネルは……あっちだな」



 マッピングは終わっている。この手の事前調査はもう慣れたものだった。




 駅から歩いて5分程度。最初のトンネルにたどりつく。『頭上注意』と『自転車・バイク通行禁止』の文字がデカデカと書かれている歩行者専用の小さなトンネル。近所にあるソレを思い出させるサイズ感だ。



「さ~てここまで来たんだから……一つくらいあってくれよぉ~」



 ドキドキしながら中に入った。【鑑定】スキルは駅からずっと使ったまま。ここまでの道のりにステータス持ちはいなかった。今なら大丈夫なはず……。



「……よしっ!! 」



 目論見がものの見事に当たり、小さくガッツポーズをする。見つけた。もう何年も見つかってない探し物を見つけた気分になった。


 興奮を抑えて【鑑定】スキルを再度使って確認。大丈夫だ。見間違いじゃないしよく似た落書きでもない。これは正真正銘『開』のくさび形文字だ。


 さあ、後はコレで……オッケー。準備完了!


 ポケットから出した『魔王の鍵』を使用。気づけば使用回数は残り半分のところまで来ているが、現在の喜びに支配された俺の頭からは"すぐに使うのはもったいない"という概念は吹き飛んでいた。



「行くぞ! 」



 意を決して鍵を回すと視界が揺れ始める。もう随分ひさしぶりなような感覚。感動で目を閉じても認識できた。世界が歪んでいく瞬間を。



 久しぶりのダンジョン。久しぶりの成長の機会。久しぶりの上級モンスターとの戦闘。ダンジョンに潜れないことへのストレスからの開放。理由は多くある。この時の俺はすっかり油断していた。今から行くのは『上級ダンジョン』であるという自覚を。


 今日、理解させられることになった。今までの自分はいかに運が良かったのかを。レベル90とはいかに頼りない力なのか。いかに自分の存在が矮小なのか。上級ダンジョンと呼ばれる中のどれだけ下方で自分は『イキって』いたのかを。




「さあさあダンジョンの名前は……『上級ダンジョン:竜王の巣』。おお~……なんか強そうだな……! 」



 目の前に現れたのは赤い土で覆われた超巨大な洞窟。高さは高層ビルぐらいはすっぽり入るくらいある。脇の壁には来たトンネル。前方は真っ暗。後方には暗がりの中で黄色い何かが見えている。とりあえずいつも通り【鑑定】結果の説明を読む。



「『とある古竜の住処。どれほど強い英雄も、知識ある魔導士も生還は叶わない』……へぇ~多分ここは常在型だな……。結構古そうだ……」



 呑気に独り言を言う俺。【鑑定】スキルの迷宮の説明は少々大げさなことが多い。完全に油断している。まるで小学生が遠足に来たような感覚。だから感知できない。後方の黄色い巨大な丸がさっきからズリズリと近づいてくることに。



「にしても静かすぎるな……ここらへんにモンスターは出ないのかな……【鑑定】! 」



 暗がりに向かってスキルを使用。反応はすぐにあった。だけど俺はとっさにスキルがおかしくなったと思った。なぜならスキルは示していたから。最後の黄色い丸を中心に数百メートルの物体が一つのモンスターであると。



「…………え」



 その数秒後、それが【スキル】がおかしくなった訳ではないと気付いたその時。


 身体から熱が一気に抜けていく。


 冷水を浴びせかけられたように背筋が凍りつく。


 奥歯がガチガチとなり始める。


 ようやく理解した。さっきから近づいてくる黄色い巨大な丸。目測で4,5mほどありそうなあの物体は生き物の『眼』であることを。耳にかすかに聞こえるシュルシュルという音。これは巨大な首がくねらす音であることを。


 そして暗闇に慣れ始めた俺の目は次第に後方の暗闇にある一つの形を創り出していく。


 ゲームでもアニメでもファンタジー映画でも絵本でも散々見た馴染みのある形。巨大なコウモリの様な一対の羽。巨木と見紛うトカゲの手足と首と尾。その角が生えそろった顔はトカゲと言うにはあまりにも凶悪で装飾過多。


 ソイツは音もなく、ゆっくりとその巨大な身体の全容を現した。



      『Lv.201 龍王サラム・ドライグ


         力:1539821

        敏捷: 119032

        器用: 210058

       持久力: 891710

        耐久: 934012

        魔力:1102303   』


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 常に慢心しているのは若さゆえなのか、あるいは封印されし過去がそうするのか その場その場でなんとかなってきたつけをいつか払うことになりそう
[良い点] 面白い [気になる点] なぜ、主人公は最近死にそうになったのにこんなに油断しているのかがわからない。
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