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盗み聞き

「……! 」



 忘れられる訳が無い。『あの日』から一度も忘れたことはない。


『あの日』に聞いた粗野な声を。


『あの日』に知った侵略の恐怖を。


『あの日』の地獄を創り出した純白を。


 俺が始めて取り逃がした仇敵の姿を。



「……【棍棒――」



 ほんの一瞬だけ"理性"を"本能"が上回った。


 脳神経が焼き切れるほどの熱が俺から正常な思考を刹那の間、奪い去った。


 皮膚が破れるほど強くバットを握りしめたまま雲の向こうに薄っすらと見えた白い背中に飛びかかりそうになった。


 だけど即座に我に返った。今は不味い。今だけはダメだ、と。


 気配だけでなく殺気も極限まで殺したのが功を奏したのか、どうやら向こうは俺の存在に気づいていない。


 だから……堪えろ。


 考え無しに眼の前の【白騎士】(アイツ)を倒したところで分体だったら前回のように逃げられるだけだ。


 梨沙たちを見つけ出す千載一遇のチャンスをこんな簡単に棒に振るわけにはいかないんだ。


"タイミング"はどう考えてもここじゃない。



「ふー……」



 ひとまず息を一つ吐きだして冷静になる。静観することを選んだところまではいい。だけど今度は新たに発生した別の問題、『この場から動けなくなってしまった』ことについて対処する必要がある。


 本来ならばこのままフェードアウトするのが理想であることは間違いない。だけど『瞬間移動』のような強力な『技』を使うには『消失』の効果を打ち切る必要がある。そして、それは『補足されていない状態』が失われることを意味している。


 やはり無理だ、今すぐの離脱は。


 現実的じゃない。しばらく様子を伺うのが得策だ。



「第二陣、無事に放出完了しました」


「戦況は変わったか? 」


「な、なんとも言えません……強いて言えば五分五分です」


「だったら第三、第四陣の準備もさせろ。今度は合図があったらすぐ出せるようにするんだ」


「いや……それは……しかし……」


「わかってんのか? 前哨戦とはいえこれは戦争なんだぞ? 出し惜しみをしてる場合じゃねーだろ! 早くしろ! 」



 察しが悪いのか、油断しているのか、はたまた必要(・・)が無いと思っているのか、周囲に警戒を払わず大声で指示を下す【白騎士】と雲の背後に張り付き息を殺す俺。


 まったく本意ではないが敵の情報の盗み聞きをする構図が出来上がった現在いま、しばらくこの状況は続くと、そう思っていた。



「おやおや? ……おやおやおや! こんな辺境に! ”新たな西の急先鋒”と謳われて名高い第二侵攻軍・軍団長の、あの【白騎士】サマがいらっしゃるじゃあないかっ! 」



 だけどそんな折。



「……空の上(・・・)からわざわざ……もうここまで嗅ぎ付けて来やがったのか? 『東の番犬(クソイヌ)』がよぉ……! 」


「よくそんな大口を叩けますねぇ!? カントウ方面軍から左遷されて来た貴方が! 」


「くたばれッ! 」


「死んでください! 」



 俺が身を隠す雲を挟んだ向こう側で。



「【白刃剣術(ハクジンケンジュツ)】ッ! 」


「【幻獣顕現(ビーストサーガ)】ッ! 」



『何か』が始まろうとしていた。

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