考察の末
夢から覚めて……正確には今、夢を見させられていると自覚して。最初に分かったのは自分の精神状態が普段とは異なっているということだった。
夢の世界での俺はまるで催眠術にかけられていた時のように、注意力が散漫で観察力が著しく乏しくなっていた。
現実とは違う夢の中だからこそこんな異常が起きているのかとも思ったけれど、俺は反対に考えた。
何かこの夢の世界には察知されてはならない部分があるんじゃないかって。とある部分から意図的に視線を逸らすためにわざわざ俺の精神へ干渉しているんじゃないかって。
次に俺は夢と現実の狭間の回らない頭を使って必死に探した。抵抗すらままならない被捕食者のフリをして、相手の攻撃を全て受けながらも感覚器官は世界への理解のために総動員した。
その間、敵はあの手この手で俺を攻め立てて来たけれど、可能な限り無視をした。
そうして足掻き続けている内に、俺は気づいた。
”神”を自称するイケロースの狙いが俺を諦めさせようとしていることだと。そして発動した【魔法】と【スキル】への干渉と消去、身体への直接攻撃は出来るけど、【スキル】と【魔法】の発動そのものには干渉できないということ。
夢の中での戦いが始まった当初は、いつかの上級ダンジョンの時のように【スキル】と【魔法】の発動すら禁じられるのかと思っていた。
だけど、そんな反則技は使ってこれないんだったら、逆に分からなくなる。ーー敵から感じ取れる余裕の理由が。
だって大前提として【夢幻魔術】は魔法だ。使うのには一定量の[魔力]を消費する。こうやって永遠に俺をイジメ続けられないのなら、そもそもどうやってイケロースは俺に勝つつもりなのか。
そこから俺はさらに考察し、観察し、思考し続けた。夢の世界の異変と悲劇の光景に心を揺り動かされながら。必死に足掻きながら。
最終的に俺はイケロースの狙っている勝ち筋を『夢の中で心を折った対象の能力を消せる』こと、それを実現するための条件は自己否定による自我の崩壊あただりと予想した。
そんな風に自分の中で結論付けた瞬間――”その時”はやって来た。
「――あ……ああ……」
頭の中ではこれが夢だと分っていた。
だけど俺の心は見せつけられた光景を無視させることを許さなかった。
頭が真っ白になって、目の前が真っ暗になって、膝から崩れかけた。
そして絶望が心を覆い尽くそうとした刹那。
あまりにも大きな衝撃ととある感情の昂りによって却って冷静になった俺は、頭上の嘲笑を聞きながら、瓦礫の積もった地面に両手を付いた折に、"とある事実"に気付く。
『そういえば俺ってコイツに対して【魔法】や【スキル】は使ったけど、まだバットで殴りかかったことは無かったな』――と。




