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戦いの決着。そして……

「終わったのか……? 」



 無我夢中だった。自分でも自分が何をしたのかよく分からない。だけど勝利できた。『スーツの男』改め噓つきの邪悪なモンスターに。


 倒した後に驚いた。自分が相対していた敵のレベルがたったの16だったこと。すさまじい能力を持ったペンダントに追い詰められたのは言うまでもないが、低レベルながら知り合いを盾につかってくる悪辣さ。油断ならない。これが俺の倒すべき敵。これが街なかに出てくるモンスター。



「……そうだ! 村本! 」



 そこまで思い描いた直後、ふと放置された友人を思い出す。倒れた身体に駆け寄り、手首を手に取ると、どうやら脈はちゃんとある。


 海斗の事件があった後にやり方をちゃんと調べた。間違いはないはずだ。



「……よかった~」



 力が抜けた。そのまま仰向けに地面に寝転んだ。正常に動き始めた【自動回復】のおかげで怪我はもうない。ステータスも戻り体の疲労も無い。だけど心が疲れ切っていた。神経を使う長い戦いが終わったんだ。今すぐにでも眠りにつきたい気分だった。


 しばらくボーっとそのまま空を眺める。大和町の夜空は鬼怒笠村と違って星はほとんど見えない。そんな暗黒の中に思い描くのはついさきほどの出来事。


 あの身体から急に湧いてきた魔力は何だったんだろう……?


 何の気なしに左手首を見て『文字』に触れる。直後に目の前に浮かび上がる3つの文字。『ステータス』、『装備』そして『状態』。



「『状態』……? 」



 今気づいた。この謎の項目の存在に。選択を押すとそこにはもう何もない。つまりは何の状態異常も無いということ。


 最初からあったよな? でもリューカにこれを聞いた覚えもない。自分で調べた記憶も……無い。……そもそも開いたのも……存在を認識したのも……今が初めて……?


 そう、まるでずっとこの『状態』が意識の外に追いやられていたように。俺が認識できない様にされていたように。一体、誰が……?



「子供のころから持っていた『魔王の鍵』……なぜだか懐かしく感じた『くさび形文字』……『曖昧な過去の記憶』……妙に馴染む『【混紡術】の戦い方』……。やっぱり……いるのか? 記憶の無い子供時代に『ステータス』持ちの誰かが……」



 顔に手を当てる。精神的にキツイっていう時にこれ以上悩ませないで欲しい。しかし、こう考えると全ての辻褄が合ってしまう。


 なぜか『くさび形文字』に見覚えがあったこと。バットで戦うという体の動きに何か身に覚えがあったこと。魔力が抑えられていたこと。そして何よりこの『魔王の鍵』を持っていたこと。


 でも一体いつ、どこで? だめだ。まったく思い出せない。


 そのまま10分ほど経過した。頭は考え事をしつつ目と耳はしっかりと外に意識を向けている。そんな俺の聴覚がしっかりと捉えた。誰かがこちらに駆け寄ってくる音を。距離は300mほど先。人数は5人以上。


 一瞬、その状況を受け入れそうになった。けどすぐに思いなおす。俺が置かれている現状──荒れ果てた工事現場で意識を失った人と一緒に眠りかけている状況を見られるのは誰であってもまず過ぎる。


 急いで立ち上がり、眠ったままの村本を背中に担ぎ上げる。遠くを見ると尾行していた男も気絶したまま。すやすやと寝息を立てている。一瞬あの人も連れて行こうかと迷ったがその余裕はない。心の中で謝ってから【疾走】スキルを使おうとしたその矢先。地面に落ちたあるモノが目についた。


 ナイト・キャップ・ピクシーが撃ち落とされたあたり。破壊された真美眼のペンダントのすぐ脇。銀色のブレスレットがある。


 拾い上げて【鑑定】スキルを使用。説明を読んで驚愕した。



『隠者の腕輪:装備すると【鑑定】スキルを持たない者からはステータスを持たない者のように誤認させ、スキルレベル30以下の【鑑定】スキルから名前とレベルを認知されないようになる』



 素晴らしく有用な効果。多分、ナイト・キャップ・ピクシーの持ち物。一瞬拾っていくかを迷う。けれど次第に近づいてくる足音を聞いて咄嗟にポケットの奥に押し込んだ。



「『全力疾走』!」



 スキルの名を言うとともに跳ぶ。夜空に投げ出された身体はグングンと目標にしたマンションの屋上へと向かっていき、着地。後ろを見るとさっきまでいた倉庫跡地は小さく見えた。だいたい200mほどを一つ跳び。ちゃんとステータスが戻ったことを確認して家に向かって再び跳ぶ。後ろはもう振り返らなかった。






「――……ぱい! 赤岩先輩! 起きてください! 生きてるんでしょ!? 」



 しきりに揺らされる肩。顔を何度かはたかれて『尾行されていた男』、赤岩信二(あかいわしんじ)は目を覚ました。



「……? おぉ~千田(せんだ)か。どうしたんだ? 」


「どうしたも、こうしたも無いっすよ! 先輩が囮役に立候補した後に勝手に別の場所にいっちゃったんでしょー! 困りますよ! 赤岩さんただでさえレベル3(・・・・)しかないんだから。もし『少年C』と本当に接触したらどうするんですか! 」


「いやぁスマンスマン。もう少し上手くやるつもりだったんだがなぁ。どうやら奴さんの方が一枚上手だったらしい」


「はぁ〜……それでっ? 先輩を襲った『迷宮外生物(モンスター)』はどこにいったんです!? 」



 千田と呼ばれた男の剣幕に一瞬思考が止まる赤岩。赤岩はすぐに思い出した。自分がどうしてここに伸びているのか。そして今がどんな状況なのかも。



「ひとまず落ち着け千田……。恐らくだがモンスターの方はもう消滅した」


「……え?」



 赤岩の言葉に彼我の立場も忘れて、気の抜けた声で聞き返す千田。本来であれば軽い叱責を免れない態度だが、赤岩は構わず続けた。



「さらに俺は半ばまで『少年C』をおびき寄せることに成功した。恐らくだが、俺を気絶させたのもモンスターではなく『少年C』の方だ」


「……な! 危なすぎますよ先輩! 『少年C』の推定レベルは50は下らないって話なんですよ!? 」



 赤岩に詰めかかる千田。それは偏に心配してのことだろう。しかしそんな後輩の危惧に赤岩は怪訝な顔を返した。



「なーに言ってんだ千田。俺の代わりなんて日本にいくらでもいる。それに死んだ後も国家平安のために俺もお前もこうやって体中にいろいろ(・・・・)入れてきたんだろ? 」



 千田をなだめるように彼の胸元を軽く叩く赤岩。そこに内蔵されたとある仕掛け(・・・・・・)を思い出して千田は落ち着きを取り戻した。



「それで……先輩? 何か分かったんですか? 」


「ああ。プロファイリング班によると『少年C』が単独で行動していて、後は大和町を含めた4つの市町村付近にいることと『公衆電話からの通報の荒い音声』ぐらいしか手がかりが無かったよな? 」



 赤岩の言葉にうなずく千田。赤岩はニヤリと笑った。



「『少年C』は高校生……それも大和第一高校の生徒。もしかしたら野球部(・・・)かもしれん……。当たれば捜索班(ウチ)最大の大手柄だぞ……! 」



 二人の男が話をしている間、駆け付けていた他の者は倉庫跡地を調査している。その内一人がとある『遺留品』を見つけていた。


 半ばほどで折れ曲がった一本の"金属バット"を。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 心情がわかりやすい。 [一言] これからどうなっていくのかが気になる。
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