台倭神社跡地にて
『台倭神社の秋祭り』――現実時間ではせいぜい数か月ぐらいだけど、ダンジョンや異世界にいた時間を含めたらもう一年以上経っているだろか?
たしか最初は行くつもり何てさらさら無かったところを海斗に誘われて行くことになったんだっけ?
思い返してみると、あの祭りの夜は俺にとっての大きなターニングポイントだったのかもしれない。木ノ本と初めて会ったのも、【迷宮課】と【魔王】の存在を知ったのも、梨沙と仲直りできたのも、全部が全部この日だった。
「本当に……懐かしいな……」
口の中で小さく呟きながら点在する“残骸の山”を縫って歩く。
ひび割れて半分になった鳥居。火で焼かれつくした桜並木。砕け散った石畳には何かの大きな足跡が刻まれている。
街中の光景に負けず劣らず悲惨な状況だ。俺が黒騎士と戦っていた時にはまだ改修工事が終わってなかったことを考えても、ここでどんな地獄が広がっていたのかは容易に想像することができた。
まあ少し考えてみれば当たり前だ。台倭区周辺は日本で唯一、三度全ての【迷宮侵攻】を経験しているんだから。
そうやって進んでいくうちに俺は参道の終点、神社の本殿にまでたどり着く。
「思ったよりも原型ちゃんと保ってんだな? 」
まず口から飛び出たのは正直な感想だった。
跡形も残らず壊されつくしていた境内と比べると、賽銭箱に覆いかぶさるように木造の屋根が前に傾いているだけのこの古い木造建築だけは不自然に綺麗なままだ。“『何者かの手』が明らかに加わっている”と言い換えてもいい。
「ちょっと……妙だな……」
行動を起こす前にまずは自身の状態を確認する。今、俺は【魔力掌握】により外へ出る[魔力]を大幅に抑えこんでいる。気配と息も押し殺し、独り言は『念動力の壁』で一切漏らさないようにして、音は一つも立てていない。
さて、これからどうするかな? 【索敵】と【鑑定】を同時使用して一気に突っ込んでもいいし、こっちの存在がバレていないのなら、このまま潜入するのもアリだ。
耳は絶えず澄ませてはいるが相変わらず建物からは何も聞こえてこない。残存した僅かな[魔力]すら感じない。
「よし」
意を決した俺はそっと本殿の裏手へと回った。超至近距離での『瞬間移動』をもってして背中から一気に飛び込んでやろうとしたからだ。
だけど本殿の中に意識を向けた、次の瞬間。
「……!? 」
途轍もない“悪寒”が襲い掛かって来た。
「なんだ……今の……? 」
震えと共に湧き上がった疑問を吐き出す。
俺は即座に【鑑定】と【索敵】を使用して内部を調べ上げた。その結果、やはり中には誰も居ない事が分かった。
「じゃぁ、なんなんだ? 」
あらゆる防御を構えつつ内部を隠す引き戸に手をかけた。
そして一度深呼吸をした直後。
「正体を見せやがれっ! 」
叫ぶ勢いのままに”封じられた門”を開け放った。
「――これは……まさか……」
開いた戸の向こう側。俺の視界に飛び込んで来たモノ。
それは――




