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堕天使

 粉塵舞い散る中、隣でせき込むサムライに肩を貸して助け起こす。



「マサヒラ――ケガは!? 」


「剣太朗のお陰で無傷だ。それで……アイツは? 」



 晴れた煙の向こう側、俺達の視線が突き刺さる先には、漆黒の翼を背中から生やした『女』がいた。



「あららー……初撃は避けられちゃったかー……」



 長い黒髪をなびかせ、黒衣を纏う2メートルを優に超える身長。病的なほどに白い肌と真っ赤な瞳孔はコイツが人外であることを現している。笑みを浮かべる顔はまさに“天使”と見まがうほどに整っている。


 だけど俺は騙されない。こいつがどれだけ“邪悪”な存在なのかを知っている。



『Lv.151  堕天使イド


不死化付与アンデット・ディモーション】【死者の軍団(アンデット・コープス)】【黒魔術(クロマジュツ)】【堕天使の翼】


  力: 462020

 敏捷: 939021

 器用: 494001

持久力:  99201

 耐久: 800221

 魔力: 924320 』



「まあいっか……。『まともに戦っても勝てる相手じゃ無いってこと』はもともと分かってたし……それじゃあ、みなさーん(・・・・・)。出てきてくださーい! 」


「たすけて……」


「たすけて……」


「たすけて……たすけて……」


「てめぇ……」


「コイツ……」


「紹介しまーす。私のかわいいかわいいゾンビちゃんたちです。ダンジョンの中で死にかけていたのを中心に、せっせと集めてみましたー」



 モンスターの手振りに従って瓦礫から這い出て来たのは総勢・数十名を超える人の群れ。全員が白目を剥き、ボロボロの衣装をまとい、生気を失った土気色の肌をしている。口からは同じ『タスケテ』の一言、老若男女問わず同じ女の声を発していた。


 俺たちがその悪趣味な光景に顔をしかめていると、堕天使は聞いてもいないのに女の声を発している理由(わけ)を説明し始めた。



「これ? なんか人間の男の声って汚く聞こえない? こっちの方が可愛いでしょ? 」


「……クソが」


「……ゲスが」


「二人も仲間に入らない? 死ぬまで飽きずに遊んであげるけど? 」



 わかりやす過ぎる挑発だ。いつもなら間髪入れずに乗ってやるところだが、今回はそうもいかない。



「なぁ剣太郎……」


「マサヒラの察しの通り、まだ辛うじて……生きてます(・・・・・)



死者の軍団(アンデットコープス)】は死者を操り、軍勢を作成するスキル。つまり多くの死体が必要になってくるのが本来の実態のはずだ。でも堕天使は二つ目のスキル【不死化付与アンデット・ディモーション】によって生きている人間に【死者】の状態を付与することでその問題を無理やり解決した。



「これってもしかして……? 」


「はい。アイツを()ってしまえば今度こそあの人たちは死んでしまいます」


「気絶させるのもダメかぁ? 」


「はい。[魔力]の流れが途切れた瞬間、二度と生き返れなくなるみたいです」



 そして生者を使うことによって新たに得られる恩恵が一つ。



「『人質』なんてずいぶんと卑怯な真似してくるじゃねーか」


「何言ってんの? こんな簡単な手で勝てるならやらない手は無いでしょ? 」



 マサヒラの唸り声にもどこ吹く風。堕天使は力強く羽ばたくと俺たちの頭上を取った。



「さぁ。始めましょうか。虐殺を」



 恐らくこの状況を創り出すために今回の大量発生を引き起こした女は余裕の表情を浮かべて眼下の死者に指示する。蠢く死体は俺達ににじり寄り今にも襲い掛かろうとしていた。


 顔を見合わせた俺たちが“一時撤退”を選択しようとしたその矢先。


 突然、聞こえた。




「――【天国門】(ヘブンズゲート)



 もう一つの懐かしい声が。


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