孤独の戦い
何日かに一度の睡眠をするたびに『夢』の中で耳にする。
『『『どうして私は(僕は)(俺は)死んじゃったの? 』』』
男声の、女声の、子供の、大人の、老人の――問いかけを。ダンジョンに起因する理不尽な死を被った彼ら、彼女らの嘆きを。救えなかった命の叫びを。
『『『どうして間に合わなかったの? 』』』
死者は決して語らない。実際に面と向かって言われた訳じゃない。これは全て俺の心が勝手に作り出した幻聴だ。
『『『どうして助けてくれなかったの? 』』』
でも俺はその声を無視できない。だって、あの被害者たちを助けられる可能性があったのは俺以外にいないんだから。世界の端を光の速度で移動し、何十時間・何百時間も連続で戦い続けられる人間なんて俺は自分の他に1人だって知らない。
もしも判断がもう少し上手ければ――。
もしも【魔王】の討伐をあと1分早められたのなら――。
もしも【スキル】を使用する順番を間違えなければ――。
――新たに救えた命があったのかもしれない。
そう考えるといつも怖くなる。身体の芯が冷えていく。胸が苦しくなる。頭がおかしくなりそうになる。
「トドメだ……『乱打』! 」
だから俺は戦う。
【魔王軍】の連中にこれ以上好きにさせない様にするために。これ以上狂わないために。これ以上後悔しないために。
「ありがとうございます! 本当に助かりました! 」
「命の恩人です……! 」
「あ、あの……わたし……あなたの――」
「――全員、助かってよかったです! 先に失礼します! 」
でも何でなんだろう?
身体は間違いなくつかれていない筈なのに。まだまだ体力も魔力も有り余っているはずなのに。どうしてこんなに消耗しているんだろう? こんなにむなしいんだろう?
「ああ……」
……そうか。
結局、俺はこのままずっと一人で――――。
「だ、誰か……たすけ……」
その時かすかに――声が聞こえた。
「……ッ! 」
次のダンジョンへ向かう道中、消え入るような“助け”を呼ぶ悲痛な叫びが聞こえた。
「『瞬間移動』……! 」
一瞬で頭を切り替え、声のする方へと急行する。空間跳躍を行った先には瓦礫の下敷きになった女性に一体のモンスターが覆いかぶさろうとしていた。
「【火炎――」
音すらも置き去りにした、引き延ばされた時間感覚の中。
俺が【魔法】を唱えようとした――。
モンスターが牙を突き立てようとした――。
直前。
「【刀剣術】――『次元裂断』ッ!! 」
とても懐かしい大音声が崩壊した街に轟いた。




