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人魔一体

 目にも止まらぬ“刹那の変貌”は俺達に口を挟む隙を与えない。



「さあ皆様に……ご覧いただこう。これが私の選んだ――『答え』だ」


「うぅ……うううううううう……」



 男の言葉を皮切りに産声を上げたのは――。



「あ“あ”あぁあ“あぁぁ”あ“あ”あぁぁあああぁぁあ“あ“あ!!! 」



 “一匹の怪物”だった。



『『検体番号19−a (年齢:9歳)Lv.??? 


 【状態】:魔人化


力:999999

敏捷:999999

器用:999999

持久力:999999

 耐久:999999

魔力:3000000 〔2999999/3000000〕』』



 背中から生えた翼長2メートルを下らないコウモリの翼。青白い肌を塗りつぶした、血のようにどす黒い赤色。毒蛇の様な黄色の光彩。小さな唇から不揃いに漏れだす牙。もともと額から生えていた片方の角はより発達しうねっている。


 そこには、もはや病弱そうな人間の子供だった面影はどこにもない。純粋な殺意のこもった眼を俺たちに向ける姿はまさにモンスターそのものだった。



「『破滅の日(Xデー)』の予言(・・)を受けて、世界各国は軍事力の向上に躍起になった。具体的に取られた方法は様々。対モンスターを見越した新兵器の開発。ホルダーの軍事利用。ホルダーの絶対数の増加と実力の底上げを目的とした国策の打ち出し。そして――『非人道的な生体実験』だ」



 どうしてだろうか。手首を拘束されたまま立ちあがり滔滔と説明し始める、この男の発言を俺は無視できなかった。無理やりにでも止めることが出来なかった。そればかりか、さきほどから指一本すら動かせない。



「城本剣太郎君。君も目撃しただろう? あのおぞましい“人造の天使”を。――――あれも各地で行われているXデーに向けた準備の一環。人間が人間を超えるための手法の一つ。死体の山の上に立った栄光。血塗られた研究成果。ある種の人類の到達点という訳だ」



 頭の中に入って来る言葉の全てを理解できているわけじゃない。ただ一瞬たりとも目が離せない。耳を塞ぐことが出来ない。



「わが国で選んだ方法は『人間とモンスターの一体化(・・・)』だった。人間にモンスターの一部を移植することで、数値で現れる表面上の能力を遥かに上回る“絶対的な力”を手に入れることが可能になるんだ。ここにいる『19―a(ジュウキュウ・エー)』は唯一の成功例でね。作戦が終了したのに『日本から帰ってこない』と聞いた時は大分、肝を冷やしたよ。この成功をつかみ取るのに現実時間で1ヶ月、迷宮の中で20年以上(・・・・・)の時を費やしたのだから。精神年齢はまだ1歳にも満たないはずなのに、もう一人で行動して、これだけの真似をするんだから……遅まきながら実感したよ。『私はとんでもない怪物を生み出してしまったんだ』ってね」



 この外道の言うことを黙って聞いていたって嫌悪感しか無いはずなのに……なぜか、コイツが発する次の言葉を待っている俺がいた。



「なあ城本剣太郎。君もそうなんだろう? 」



 けたたましく鳴り響く電子音が次第に大きくなっていく。


 混沌とした[魔力]が『子供だった何か』を中心に放出されていく。


 ただでさえ暗かった駅のプラットホームは一部の明かりも無い闇で満たされていく。



普通の人間(・・・・・・)には不可能なスピードで成長し続け、たった一人で世界を終らせられる力を持ちながら尚も強さを求め、私と共に『闇黒の未来』を憂いていた彼の血を引いた孫である君も――」



――――『同じ(・・)なんだろう? 』




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