Re:スタート
【魔力掌握】の力がこもった目を絶えず光らせて『透明人間の尋問』の様子を注視する。ちょうど頭から【回復薬】をぶっかけられた下りで男の様子は明らかにおかしくなっていた。
「あははははははははははは! やはり面白いな、この国の人間は! この時代にこんな前時代的なことをして何になる!? 私の頭の中身なんて【スキル】を使えばいくらでも覗けるじゃないか! 」
白い煙を上げながら徐々に治っていく傷だらけだった顔を歪め哄笑する様は明らかにこっちのことを嘲っている。十中八九わかっているんだろう。俺たちに“思考の透視”が出来ないってことを。
「そうか。我々に協力する気になってくれたか。なら是非、解除して欲しい。その【偽装】を」
「本当に申し訳ない。それはいわゆる“無理な相談”というものだ」
この男にもはや力で抵抗する術はない。無理やり逃げ出そうとしたら最後、コイツの意識と身体の自由を再び奪う準備が俺には出来ている。
だけどこの男は――透明人間は抵抗していた。名前と年齢すら明かさず、脳みそに直接【偽装】を施し、のらりくらりと答えをはぐらかし、一向に口を割ろうとはしなかった。
男と【迷宮庁】の職員の間で繰り返される同じようなやり取りを、そうやって傍から眺めていると隣に誰かが立った気配がした。
視線を向けるとそこには本部とここを超速で往復してきた舞さんの姿がある。
「どんな感じ? 順調? 」
「か~なり苦戦してる。やっぱりあのレベルの【偽装】は厄介だよ」
「……だよねー。城本君ならアレでもどうにか出来るんだっけ? 」
「うん。無理やり解除すること自体は出来るよ。でも魔力掌握を内臓に直接かけられる負担がデカすぎて多分アイツの脳みそごと焼き切っちゃうんだ……。死体からは何の情報も引き出せないでしょ? 」
「な、なるほど……」
若干、引き気味な反応は少し気になるけど……今そんなことはどうでも良い。
「それで舞さん。"赤岩さん"はなんて? 」
「私達はしばらくここで”このまま待機”。『緊急時には現場の判断に一任する』――だって」
「やっぱりそうか……」
「城本君の予想通りだったの? 」
「なんかまだ匂うんだよな。まだこの事件が終わってないような予感が――」
「――――城本剣太郎。その思考は至って正しい」
余りにも唐突に脈絡もなく声をかけられたので一瞬、誰が俺に話しかけたのか分からなかった。
だけどそれが『誰なのか』気付いた時には全身の毛穴はブチ開き、自然と発する声は低くなっていく。
「なんだと? 」
「なるほど、なるほど。君の強さの一因は、その危機感にあるという訳か」
聞き返す俺に対し、拘束された男はくつくつとくぐもった笑みを浮かべていた。
何故か。
どうしてか。
「訳知り顔で勝手に盛り上がってんじゃねーよ。いったいお前は何が言いたいんだよ? 」
「んん? 何が言いたいかって? それじゃあ、君にも教えてあげよう。君の祖父と私の目的――私たちが何をしようとしていたのかを」
とてつもなく嬉しそうだった。
「ッ!? 」
「強制再起動:――『19ーa』」




