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脅迫

 冷えた空気が充満した地下鉄のトンネルの中で、この駅のプラットホーム上はより一層冷え切っている。


 もちろん、そんな緊張感を生み出したのは全員の視線を釘付けにするこの男(・・・)



「失礼、自己紹介が遅れたね。初めまして日本の方々。私は“君たちとの『冷静で理性的な会話』を望む者”。恐らくはお互いに誤解していることもあるだろう。ぜひ腹を割って話をしようじゃないか」



“自己紹介”や“腹を割って”という言葉とは裏腹に透明人間(・・・・)の態度は終始、慇懃無礼だった。自らの素性を隠匿しきったモノだった。口元には愛想笑いとは程遠い薄ら笑いを浮かべ、目を三日月のように細めてこちらを値踏みしていた。



「話しをするっていうのは? “何を“ですか? 」



 俺たちを代表して、最初に口を開いたのは舞さんだった。恐ろしく疲れているだろうに、毅然とした表情を崩さずに彼女は真正面から真剣に、【鑑定】を使っても年齢すら判別つかない『得体の知れない男』にぶつかっていった。



「おお! 君はもしや【雷撃の魔女】! 『お噂』はかねがね聞いているよ! 」


「そんなことはどうでも良いです。アナタは何がしたいんですか? 」



 しかし男は他人を“おちょくる”ような態度を崩さない。傍らにいる子供の肩に手を置きながら、細めた瞼の隙間から絶え間なく警戒の視線を送りつつも、主導権を握っているのはあくまで自分であることを主張し続けていた。



「【日本最高火力】と称される君に直接、問いかけられては答える他ないな。仕方がない。私はね。提案をしたいんだ」


「提案? 」


「ここはお互いの矛を収め解散し、今日あったことを全て忘れ、水に流す。――たしか君たちの中で『損耗』は一名だけ(・・・・)だっただろ? これはそちらにとってもそう悪くない話だと思うよ」



 透明人間がその戯言(・・)を吐いた瞬間、俺以外の全員から噴火したような[魔力]が湧き上がる。


 間違いない。溢れだしたその感情は『怒り』だった。



「すいません。よく聞こえませんでした。もう一度言ってくれますか? 」


「良いとも、良いとも。何度だって話そう。私は――――」


「『岩窟圧壊(ガンクツアッカイ)』! 」


「『鎌鼬(カマイタチ)』! 」


「『双天跋折羅(ヴァジュラ)』! 」



 一斉攻撃だった。


 一切の容赦は無かった。


 ”岩雪崩”が、”風の刃”が、”二対の稲妻”が、的確に顔面や胴体を狙い、確実に命を取りにいった奇襲だった。


 その勢いと破壊力にホームが崩れて傾き、粉塵を舞い上げるには十分の威力を持っていた。



「……」



 一方で俺は一度だけ静観した。ブち切れそうになる心を抑え、観察した。脈絡もなく突如叩きつけられた攻撃に対して『透明人間』がどんな対応をするのか、[魔力]の動きを追い、耳を澄まし、見極めようとしていた。


[魔力]の変化は見られない。何かをした様子もない。理性的に、この修羅場を判断すれば男は少なくとも無事では無いはずだ。


 でも俺の勘は“違う”と言っていた。



「やれやれ……とんだご挨拶だな。こんなことをしていったい何の意味がある? 」



 そう考える理由は自分でも分かっている。男は俺たちの前にたった1人で(・・・・・・)現れたからだ。その余裕は、その油断には根拠と勝算があると予想できるからだ。


 現に男は掃射された【魔法】と【スキル】の数々を指一本動かさずに黙殺し、完封して見せた。



「ったく……。この“最悪の事態”が起こってしまったのは『捜索』に時間がかかり過ぎたせいだな。3日の予定が部下を総動員して1週間とは――本当に嘆かわしい。人員の総入れ替え(・・・・・)も視野に入れねばならないか……」



 相変わらず男の手の内は分からない。ブツブツと呟く独り言の意図すら理解不能だ。


 だけど俺はハッキリと覚えている。俺の【火炎魔術】『獄炎』だけは、さっきのように無視できなかったことを!


 あまり調子に乗んなよ。今から俺が化けの皮を剥いでやる!



「【棍棒――――」



 足に力を込め、バットを肩に担ぎ、まさに飛び出そうとした矢先。



「おっと、そこまでだ。城本君。装備した武器を下に置きたまえ」



 突如として透明人間は『待った』をかけた。



「……なんだと? 」


「君にだけは大人しくしてもらおう。もう一度――」





――『君の”祖父”と”妹”に会いたいのならね』



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