膠着の末
キッカケはたぶんスキル【魔力掌握】がステータス欄に刻まれたことなんだと思う。俺の中で新しく“[魔力]を外へ弾くという感覚“がいつの間にか芽生えるようになっていた。
イメージは磁石の反発し合う力。自由自在に操れるようになった自分の[魔力]で近づいてくる他人の[魔力]を押し返すような感じ。特別な操作やコツは特に必要ない。【魔法】を使う時、気持ち少しだけ敵に”押し込んでぶつける”だけで良い。
ソレが調子の良い時はわざわざ意識せずとも【魔法】を使う片手間に簡単に出来るようになる。『消失』を使わずとも、『パワーウォール』に頼らずとも、俺を害そうとする[魔力]――【スキル】【魔法】『技』――その全てを完全に無力化することだって可能だ。
例えば今――“『両者の攻撃』が効かないことが判明し膠着状態になった”――この瞬間みたいに。
「……」
「……」
とうとう観念したのか。再び姿を現した子供に対して、まず最初に俺がとった行動は……『無言の観察』だった。
なんてったって不用意に攻めても”謎の力”で防がれるだけなのはもう分かっている。今、この小休止で優先するべきなのは情報だ。こっちの手の内はかなり晒したっていうのに、相手の手札は殆ど分からずじまいって現状はどうにか打破したい。
【索敵】と【鑑定】を絶えず使用して拾えるデータは拾いつつ、海を焼き払った『炎』を身体に纏い続けて『物理的』にも『魔術的』にも完璧に防御すること。それが今の俺が出来る最善策だった。
それにしても、この子供……マジで何も教えてくれないな。これだけ戦っても何のヒントもくれやしない。顔と表情すらフードで隠されている。あの防御方法もひっくるめて何から何まで徹底的に謎だ。
何をそんなに隠したがっている?
狙いはなんだ?
俺の命か?
それとも赤岩の言う通り爺ちゃんの方か?
これだけやってきて今更仲良くしたいって線は無いだろう。
でもじゃあ、なんでモンスターをけしかけてこないんだ?
【魔王の鍵】の力は使わないのか?
今は使えないのか?
それとも使いたくないのか?
「……」
「……」
黙っていたら思考は自然とめぐる。前方への警戒と同時並行で脳は『可能性の模索』を勝手に始めだしていた。
難敵を推測と考察で撃破して来た経験が自動的に働いたのか、『答え』が必ず自分の中にあると信じていた俺はだんだんと意識を外から内へ向けていく。
だからだろう。
「!? 」
俺は激しく動揺することになった。
わざわざ向こうから【偽装】を解除して来るなんて夢にも思わなかったから。
それも――
「まさか……まさかだ……」
――”【偽装効果】のかかったフード”を脱ぐという想像すらしなかった方法で。
「『本番の前』に、ここまで見せることになるなんて……」
そして。
手で覆い隠す間もなく。
自分の意思とは関係なく。
青く染まった視界の中で。
俺は目にした。目撃してしまった。
「この代償は高くつくからな……? シロモトケンタロウ……! 」
分厚い布の奥底に眠っていた――”秘密”を。




