直接対決
決して少なくはない経験値と攻略報酬を手に入れた俺は現実への帰還を無事果たし、【念動魔術】で姿勢を制御しつつ、ゆっくりとホームの端に降り立つ。
迷宮内時間にして十数時間、現実では十数秒程度たったか? 想定の何倍もの時間がかかってしまった。この束の間で状況が変わってしまったかもしれない。頭の片隅でそんな想定はしつつも、ちゃんとした心の準備は出来ていなかった。
だから。
「は……? 」
俺は絶句した。
伸ばせば指先が触れるほど近くに出現していた、見覚えがあり過ぎる半透明の『黒い幕』が目に入ってしまって。
「……ウソだろ」
黒い幕を見た瞬間、感情が否定しようにも、理性が『本当』だと言っていた。
その漆黒が【魔境】の内側の壁であるということを。否応なく、どうしようもなく、その現実を受け入れざるを得なかった。
やられたか?
まんまと俺は捕まってしまったのか?
【魔境】の中にしては随分と静かだけど……。
「『迷宮鑑定』! 」
【廃棄神殿】を出た今、もう【スキル】の使用を躊躇う理由はどこにも無い。【魔境】の隅々まで調べ尽くそうと魔力の波動を広く飛ばす。鼠一匹どころか、黒アリ一匹すら逃さないつもりで。
「ん? 」
だけど……そもそもの前提が間違っていた。今、俺がいる場所が普通の【魔境】であると考えてしまっていた。
そう。
ここは普通じゃない。俺が知っている【魔境】じゃない。
ただ光が無く、薄暗い、何の変哲もない地下鉄の駅を囲っただけのモンスターの1体も出てこない場所は【魔境】と呼ばれるのに相応しくない。
“半径わずか50mの【魔境】”で普通の攻略が求められるはずがない。何か仕掛けがあるに決まっている。
それに……――。
「――……どこだ!? 」
さっきから必死に探してるのに、痕跡すら見つからないんだ。この【魔境】を作成した【魔王】本人の居場所が。おかしい。俺のすぐ近く……この直径100mの円のどこかに必ずいる筈だっていうのに。
早く出てこい。相手になってやる。
「【索敵】」
視線を巡らせ、耳を澄ませ、[魔力]を巡らせ【スキル】使用する。
想像通り反応は何もない。やはり、向こうからは出てこない。どこかに息をひそめて隠れている。地下鉄のトンネルで遭遇したモンスター達と同じだ。
相変わらず、随分と”かくれんぼ”が上手いようだな?
それとも見つけられるもんなら、見つけてみろってことか?
いいだろう。あくまで隠れ続けるつもりなら……。
「【火炎魔術】――」
……文字通り、炙り出してやるよ。
「――『獄炎』! 」
意気込みと共に体内で膨らみ切った『熱』を体外へ。みなぎる[魔力]を火に変えて、『黒い壁』の中を炎の海で埋め尽くす。
駅の構造ごと一瞬でドロドロに溶かせる温度の火炎だ。
さすがに無視は不可能なはず。
生き物が耐えうる温度じゃないはず。
その筈なのに。
「お前は……」
「……――他妈的」
これまでずっと隠れ続けていた人物は燃え盛る灼熱の中心に突然、姿を現した。
火の熱さなんて忘れてしまったような悠然とした様子で。
まるで『全ての攻撃』が効いていないかのように。




