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調律

 ――あの荒廃した異世界――その『最果て』で。


 ――"とある女騎士"に『剣』という武器がどれほど重いのかを教えてもらったことがある。



『重ッ! リューカっていつも、こんなの軽々振り回してたの!? 』



 ――当時の俺が愛剣を両手に持った感想を述べると、彼女はその大袈裟な反応が『冗談の類』だと思ったのかくすくすと愉快そうな笑みを見せる。    



『今の剣太郎なら余裕で持ち上げられると思いますよ? 』


『いやいやいや! 確かに持ち上げられはするけど……これで戦うとなると話は別だ。とてもあんな風に使いこなせる気がしないよ……』



 それでも尚、女騎士の古今無双の戦いぶりを知っている俺が"とうてい真似できない"と首を横に振ると、真面目な彼女は今度は一転して真剣な顔で熱弁を振るった。



『剣太郎の言う通りですね。最初は誰でも、この重さに戸惑っちゃうと思います。でも、その辺は慣れでどうにかなります。ダンジョンの中でも、外でも、ずっと振り続けていれば……いつか武器を自分の身体と同じように扱えるようになるんです』



 まるで我が子を慈しむ母親のような雰囲気とでも言えばいいんだろうか? 


 膝の上に置いた剣を優しく撫でるその清廉潔白な振る舞いは、確かに"そういうものだ"と納得してしまう説得力があった。


 それに『武器を自分の身体と同じように』という響きはどこか聞き馴染みがあって、懐かしい。


 いったい、いつ、どこで聞いたんだっけ?


 こっちが過去の記憶を探ってうんうん唸っている最中、女騎士はなんの気無しにこんなこと(・・・・・)をポツリと呟いていた。



『まあ、慣れるのに一番早い方法は……ステータスの補正を切った状態、つまり素の力(・・・)で訓練することですね』


『ん? 』


『この重い剣を[力]の補正を切って素振りをするんです』


『…………嘘だろ? 』


『……? 嘘じゃないです』


『流石にたまにだよね? 月1とか? 』


『毎朝の……日課です……』



 こんな爆弾発言を連続して投下しておいて、何食わぬキョトンとした顔で首を傾げる少女の姿を見た瞬間、俺は悟った。


『武術』というジャンルに関してはこの女の子と俺は一生わかり合えないのかもしれない、と。





 そして今なら思い出せる。


"武器を自分の身体と同じように"、"身体の延長として扱えるように"と俺に言ったのが誰だったのかを。


 爺ちゃん、婆ちゃん。


 そうだよな?


 二人は将来の俺のためになると信じて戦い方って奴を身体に残る記憶として教えてくれていたんだ。


 でも俺はすっかりそんなこと忘れてて、思い出せなくなっていて、だから……。



「え……? 」



 だから、驚いた。


【スキル】と【魔法】を封じられた現在。


 身体の自由すら効かない状態で。


 まるで自分の身体の一部のようにバットを振ることがいきなり出来るようになっていたから。



「「ァ゙ァ゙ァア゙??????? 」」



 絶え間ない連続攻撃に突如、割り込まれて激しく動揺する『オメテオトル・クストス』をよそに。



「うおおおおおおお! 」



 俺は一気に攻勢に転じた。



「ァ゙? 」


「ァ?? 」



 決して動きは速くはない。だけどバットの操作性はむしろ、【棍棒術】を使えた時よりも確実に上がっている。  


 今なら理解できる。


 グリップをどれほどの力で持ち、どの角度に、どのタイミングでインパクトすれば良いのか。


 これまで俺がどれほど非効率な動きをして、どれほど無駄に力を消費していたのか。

 

 恐ろしく皮膚に馴染むグリップを一度握れば……文字通り"手に取るように"分かる。



「アァ!? 」


「アァ!! 」


「ふっ……はぁ! 」



 この一本の金属バットを絶えず振り続けた結果。


 重ね続けた経験値がこうして”形”となって結実した今。


 もはや彼我のスピード差は問題外だ。


 向かってくる敵の進行方向にバットを置くだけでいい。


 そうすれば、そうするだけで――



「「アァアアァア嗚亜呼ア饜䵷氬颺丫ぁ饜ァ饜痾あ翹饜氬虀亜襾」」



 ――敵は自ずと俺の前から消え去るのだから。

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