リズム
本日、二話投稿
「ふっ! 」
「儀ギ儗巍曁ギ」
何事をするのにもテンポ感と言うのは大事だ。
作業や仕事、問題を効率よく解消し、こなしていくには案外そもそものスピード感やリズムの良さが何よりも一番重要だったりする。
「はぁ! 」
「愚ギャァ饜」
それは、いわゆる調子がいい――“ノッテいる”という状態。
スランプの対義語で、何をするにしても上手くいく時間を意味する。
思い出せばピッチャーをしていた時も極稀ににこんな時があった。
体がよく動き過ぎて……球が奔り過ぎて……投球間隔がいつもの何倍も速くなり……狙い通りに簡単にアウトを取れまくる……そんな瞬間が。
数か月に一度、一年に何度か。
リズムよく投げられるから、チームメートもやりやすくなり、ほぼ確実に試合に勝つことが出来る――そんな日は確実に存在した。
「オラァ! 」
「「「ギャアアア饜丫唖辮ッ! 」」」
そして現在。
地下鉄内に現れた【上級ダンジョン】を連続して攻略している最中で。
「トドメだ――」
「「「――――」」」
「『大車輪』」
「「「靉!!!??? 」」」
俺はこの感覚を思い出していた。
「もう、終わりか――次だ」
今、俺は――“ノッテいる”。
「次だ」
積み重なっていく【上級ダンジョン】の情報が頭の中にこれまでにないほどスッと入って来る。
攻略条件を把握するのに0.1秒もかかることはない。
概要の理解にかかる時間は例外なく一瞬だ。
「次」
相手のレベルや強さはもう関係がない。100周辺だろうと。200に限りなく近かろうと毒があろうと、数が多かろうと――決着は常に一瞬だ。
固い外皮をバットで砕き、柔らかい肉を打撃で抉り、戦うまでもない相手は動いた際の風圧で露払いをする。
そこに[魔力]の消費は一切無い。
『技』も、もうわざわざ持ち出すまでもない。
「次」
今の調子の良さを例えるとしたら”【スキル】を使わずとも『弱点』が見えているようなもの。”
これまでに積み重ねてきた膨大な戦闘経験から、刹那の観察力から、その場その場での最適な行動が自ずと選択することが出来ていた。
「次」
そこには最早、『どんな制限』があるかなんて関係ない。
【魔法】の使用を禁じられようと。
【スキル】の使用回数に制限を設けられようと。
たとえダンジョンの中で武器が持てなくなったとしても。
「次」
俺がやることは変わらない。
場所によって変わるルールに従って、真正面から叩き潰すだけ。
『虫』と言う難敵を超えてしまった今、もう怖いモノは何もない。
「次」
さあ、進め。
「次」
一瞬でも止まるな。
ただ前に進み続けろ。
「次」
ひたすら先へ。
光が指し示す方向へ。
邪魔なものは全てなぎ倒せ。
「次」
眼の前から【上級ダンジョン】が消えてなくなるその時まで。
「次」
俺はもう止まらない。
――必然。
――もちろん。
――当然の如く。
そんな剣太郎の一部始終を“少年”はしっかりと目撃している。
剣太郎がどのような手段でモンスターを打ち倒し。
剣太郎がどのように上級ダンジョンに盛り込まれた恐るべきギミックを乗り超え。
どれほどの速さでそれら全ての障害を乗り越えていったのかを。
「……」
少年はただひたすらに無言だった。
その一挙手一投足から目を一瞬でも離すことは無かったが、一言も感想を口にしなかった。
「…………」
しばしそのまま映し出された光景を凝視していた少年。
しかし我慢ができなくなったのか。
思わず口から飛び出してきてしまったのか。
ゆっくりと口を開き、その瞬間に抱いた思いを自国の言葉でポツリと小さく呟いた。
『你这个怪物(このバケモノめ)』――と。




