無邪気な愉悦
とある地下空間の最奥。
暗闇と静寂が支配する混じり気のない漆黒の世界で。
一人の少年が闇の中にいくつも浮かび上がる光を凝視している。
「オマエが……シロモトケンタロウか」
まるで初めてその顔を見たように。
まるで初めてその強さを目の当たりしたように。
まるで初めてその存在を認識したかのように。
【金属バット】を【東京大戦】が勃発するはるか昔から知っていたはずの少年は、数多に張り巡らせた監視映像を見て、その名をしみじみと改めて呟く。
その姿は期せずして、とある"失敗した作戦"の総指揮をとった『参謀』と呼ばれた男に酷似していた。
「つまり……シロモトケンタロウ。オマエが【覇王】を倒して……世界最強になったホルダーなんだな……? 」
しかしその少年には参謀――”『組織』の【蜘蛛】”が持たない、決定的に違う部分がある。
「……ならここで"殺さない"といけないな」
敵対存在に向ける明確で純粋な殺意である。
「『迷宮強度』――"8"から"50"へ……『上限解放』――"段階20"から"段階50"へ……『モンスターレベル』を――"78"から"99"へ……『迷宮制限』――"オフ"から"ランダム"へ……! 」
さらに少年は蜘蛛とは違い明確な『力』を持っていた。たった一人のホルダーを執り殺すには十分すぎるほどの【スキル】を。
「「「――――――――――――!! 」」」
「はぁー……」
そして少年は一仕事を終えて一つ息をつく。
強引な改造を受けた【上級ダンジョン】が手負いの生き物の様な唸り声をあげるのを耳にしながら。
「さあ、お手並み拝見だ。シロモトケンタロウ。オマエはこの連続する上級ダンジョンを果たして”何秒”で攻略するんだ? 」
その光に照らされた無味乾燥とした表情に、子供らしい僅かばかりの無邪気な愉悦の感情を滲ませて。




