壊れたトンネル
残心の息を吐きだしながら、トンネルの壁面に意識を向ける。
予想通り、狙い通り。
そこには一切のひび割れが存在しない。
もちろん、これも【魔力掌握】のメリットの一つ。[魔力]を介在する何かには最強クラスの干渉力を誇るのに、魔力に関係のない現実世界の物品には一切の影響力を持たないんだ。
この効果により俺は影の軍勢をトンネルには指一本足りとも触れることなく処理することが可能になった。
本当にありがとう。オーバーロード。俺の中に発現してきてくれて。
「舞さん。こっちの対処は終わったよ」
『城本くん! 連絡待ってたよっ。無事なの……? 』
「無事、無事。無傷。ピンピンしてるよ」
『よかったぁ。本当に……それで……どう? 現場を見て何か気づいたことあった? 』
「そうだね~。この状況を作った誰かさんが居るってことまでは確実なんだけど……決定的な証拠となるとまだまだかな~? 」
『……ねぇ城本くん』
「うん? 何? 」
『そこに人は誰も居なかった? 』
「人? いや……? 気づかなかっただけかもしれないけど。見なかったな。その気配も、感じ取れなかった」
『そっか……』
「……舞さん? 」
『ううん。ゴメンね。急に。何でもないの。――城本くんはどうする? 一度、補給ポイントによってく? 』
「あー……うーん……そうだな。魔力回復薬を一本使い切っちゃったから。念のため貰いに行くと思う」
『りょーかい。先に待ってるよー』
通信が切れ、再び脳内が静かになっていくのを確認しながら、俺は通話中の舞さんの様子を思い出していた。
なんだろう?
何かを隠してる?
いや『隠す』『隠さない』以前に……何か……とても悲しそうだった。
「……『青い点』」
そこで思い出すのは、この広大な地下空間の中でピンポイントで"手がかりがある場所"を'見つけ出したくだり。
さっきは急いでいたため何も言わずにスルーしていたけど、いったいどうやってこの場所を見つけ出したんだろう?
考えを巡らせた瞬間、脳裏に浮かんできたのは赤岩信二の内心、何を考えているのか分からない笑顔だった。
間違いない。関わってるのはあの人だ。
「今は黙って従うよ。だけどコレが終わったあとには聞きたいことはもっと山のようにあるんだからな……? 」
頭の中に浮かぶ男の笑みに、釘を刺すように小声でどくづいてから、俺は再び歩みを始める。
こんなところで足を止めている場合じゃない。
地下での戦いはまだ始まったばかりなんだから。
――今、思えば。
――この時の俺は気づくべきだった。思い出すべきだった。
――数多ある散りばめられたヒントから自ずと気づけるはずだった。
――トンネル保護に拘っていた俺なら思い出せるはずだった。
――【東京大戦】で破壊し尽くされた首都圏には『トンネル』が数え切れないほど存在していたということを。
――東京近郊に無数にあった筈のトンネル全てが、あの戦いの最中だけ、たまたま『開』の文字が刻まれていなかった可能性なんて0に等しいことを。
――モンスターの数を増やすだけに留まらない、【魔力掌握】の持つ[魔力]への干渉力に匹敵する『ダンジョンを"消滅"させ、新たに"生み出す"』ほどの強制力をもった誰かがいることを…………この時の俺はまだ知らない。




