手紙の謎
赤岩の語るストーリーを受けて最初に反応を見せたのは意外にも黙って話を聞いていた琴葉だった。
「ち、ちょっと待って下さい……。あの……その……ケンタロウ先輩のお爺さんが公安部、迷宮課の前身である『リューゲ』って組織の……末端構成員だったって……え? なにそれ? 嘘ですよねー? そんな……、"スパイ映画みたいな"……"都市伝説みたいな"……そんな冗談みたいな話が……ぜんぶ、ほ、ほんとだって言うんですか……!? 」
「早乙女くん。前、君には説明しなかったかい? それとも、とっくの昔にボクの記憶なんて隅から隅まで読まれてると思ってたよ」
「琴葉ちゃん? 舞お姉さんと一緒に、今は大人しくしておこ? 」
「ごめんな。琴葉。いきなり。なにも言ってなかったからそりゃ驚くよな」
「えー全部マジなの……? これ……もしかしてほんとなんですか……!? 」
雷に貫かれたような衝撃を受け、打ち震えるこの場で唯一の女子中学生をよそに赤岩はその"冗談みたいな話"を共通認識を俺と共有し続ける。
「早乙女くんのためにも念を押しておくと、『リューゲ』は確かに存在した。戦後からしばらくたった昭和中期の急速な発展をとげつつあった日本を裏で支える要素の一つだった……。その明確な目的や、詳しい理念については現在である今日までには何故か残ってはいなかったけれど……そのドイツ語の名を冠した一大組織が存在したことだけは確かなんだ……」
「なんでそう言い切れるんですか? 」
「ボクの父親も君のお爺さんと同じ"末端構成員"だったからさ」
「……! 」
俺はその時、二重の意味で驚いた。
目を細め、過去を慈しむように語るその時の赤岩の表情は本当本当に珍しく、自分の感情を、感傷を顕にしているように見えたから。
「父は語ってくれたよ。あの場所にあの人が当時『どんな思い』で集まっていたのか。『どれほどの熱意』であそこで働いていたのか。みんな必死だったんだ。必死でどん底から這い上がろうとしていたんだ。そして父はそこで自身と同じ思いを持って働いていた城本勇という人物に出会うんだ」
「爺ちゃんに……? 」
その直後、全身が総毛立つ。
「彼はただの末端構成員じゃ無かった。日本各地で”とある物品”を収集し管理する役割を担っていたんだ」
「とある……物品……? 」
首を傾げオウム返しをすると俺に向かって、赤岩はまっすぐ指をさす。
俺と言うよりも俺の心臓を。
胸の中心を。
首からかけられた、胸の上に位置した”とある物品”を。
「”鍵”だよ」
爺ちゃんと爺ちゃんが残した『手紙』が持つ最後の謎はこの瞬間――解かれようとしていたのだった。




