二本目の【鍵】
城本剣太郎が重傷を癒すための長い長い眠りから目覚める前。
【東京大戦】が終結してからちょうど5日ほどの時間が経過したころ。
某国、某所の薄暗い地下室にて。
政府の高官らしき数名の男たちが早口で言葉を交わしている。
「誰か納得のいく説明をしろ。これはいったいどういうことだ? 」
「……ッ! 大変失礼いたしました! 」
和やかさとは無縁の殺伐とした空気を漂わせながら。
「私は言った筈だ。『3日しか待てない。3日で連れ戻して来い』と」
「はい」
特にヒリついているのは、この場で最も権力を持っているであろう、『私』を自称する男。表情に分かりやすく感情を露わにはしていないが、口にする語尾はブルブルと打ち震え、その両目は赤く充血している。
間違いなく彼は激昂していた。対面する3名の部下らしき男達が恐怖で、足元を見つめる顔をわずかにも上げれないほどに。
「この3日という具体的な数値は回収が“十分に実行可能”であると判断した最低日数だ。私が言いたいことはわかるな? 」
「はい、分かります」
「そうか……では教えてもらおう。なぜだ? なぜ君たちがこれほど長く動いて居ながら子供一人の消息がまだつかめていない? いったいいつになったら怠け者の君たちは仕事をしてくれるのかな? 」
「はい。我々は常に努力しております。ですが――」
「伝わらなかったか? 言い訳はなにも聞きたくない。私が求めているのは結果だけだ。可及的速やかに結果を出せ。さもなければ――――分かっているな? 」
「「「……」」」
「行け」
「「「はっ! 」」」
こうしてその場には上司らしき男一人だけが残る。
彼は深い、深いため息をついた後、背後にあった椅子にどっかりと座り込んだ。
「……まだだ。まだあの『子供』の存在を公に知らしめるのは時期尚早だ。まだ彼の『秘密』に気づかれてはならない。まだ……その時ではない。まだ……早い……まだだ……まだ……」
誰に向けるわけでもない、意味を成さない、うわごとを延々と呟きながら。
その天才と呼ばれた『子供』は上から与えられたたった一つだけの『令』にひたすら忠実だった。
“これから向かうとある島国とそこにいる国民全てを『恐怖のどん底』に突き落とせ”という粗雑な要求を素直に聞き入れるだけでなく、自分なりに意味を解釈し、計画を立てて実行し、たった一人で愚直にその準備をし続けていた。
故に『子供』は作戦に参加していたのにも関わらず出遅れた。
故に『子供』は“たった一人のホルダー”を追い詰めることだけが目的の【大戦】の動向には興味を示さなかった。
なぜなら『子供』の狙いは“名前をどこかで聞いたことも無い少年一人の命”ではなく、国家転覆そのものだったから。それが与えられた彼の目的だったから。
そして『子供』が国を渡ってから丁度、10日が経過したころ。
「……出来た」
彼の計画のための準備は全て完了する。
「やったー! やったよー! アハハハハハハハハハハ! 」
笑い声を壁に反響させ、『子供』らしい無邪気な喜びの感情を爆発させる彼はフードを外し、汗と土で汚れた顔をぬぐう。
その未発達の小さな手のひらの中に――
――“意匠の凝った古い大きな金属製の【鍵】“を握りしめて。




