エクストラステージ
某国。某所の地下室で。
「お待たせしました! 『部長』! 」
「出迎えご苦労! ちょうどコチラの用事も終わった所だ」
二人の男が出会い、立ち話を始めた。
「『部長』。一つ聞いても良いですか? 」
「いいだろう。何だ? 」
「本当に放置しても良いんですか? 」
「……放置? 何のことだ? 」
「世界各国からこの場所に集まった彼らのことですよ。『部長」は見ました? あの“異常な議事録”を。とても一国のかじ取りを任せられた権力者たちの会話とは思えない……。たぶん、精神に作用する【スキル】の効力が強すぎたんだ。彼ら……完全に正気を失っちゃっていますよ」
「……なんだ。そんなことか。君が気に病む必要は無い。“血はより濃くなった”。『組織』の目的が無事に達成された今、『百人会議』にこれ以上の利用価値は無い。放っておけ……」
「【蜘蛛】と同じ……捨て駒って訳ですか……? 」
「ああ。それにだ。このタイミングで国家を運営する側の人間から正常な判断力を奪うというのも、見方を考えれば悪くはない。我々、『組織』が望む“未来”は平穏ではなく混沌の中でこそ実現するのだから」
「ですが『部長』。彼らの暴走――『新兵器』によって、ファーストブラッドにここで死なれるのは『組織』の意図とも外れて――」
「――――君。今、なんと言った? 」
掠れる呼吸。
赤くにじんだ視界。
今にも意識が途切れそうになっている中で。
俺は奇妙な『音』を耳にした。
空の上から。
何かが近づいてくるような。何かが降ってくるような。そんな音。
あれは……モンスター? それともホルダー?
いいやどちらでも無い。
人工物だ。アレは。
黒光りしている金属製の何かだ。
でも何でだろう?
何であの金属の塊から魔力の波動を感じるんだろう?
「し、失礼いたしました! 出過ぎたことを申し――」
「いやいや。勘違いしないでくれ。私が言いたいのはそういうことじゃぁない。聞いているのは発言の内容だ。君はいま『ファーストブラッドが死ぬ』……と言ったのか? 」
「え? あ……ハイ……そうです……」
「……くくく……はははははははははははは! そうかそうか! 彼がここで死ぬか! 」
「ぶ、部長……? 」
「……【魔境】を一撃で攻略した新兵器。たしか“『魔力爆発』を人為的に引き起こせる爆弾”だったか? 」
「は、はい。元々あった地形ごと【魔境】を一発で吹き飛ばしたそうです」
「面白い。それじゃあ君。彼とあの爆弾……果たしてどちらが勝つと思う? 」
「………………恐らく『新兵器』の方かと」
「ほほう? 」
「彼は【覇王】との戦いで文字通り死ぬほど消耗しています。傷も癒えていないですし、運用できる魔力もごく僅か。そんな状態では流石の≪最初の討伐者≫も一たまりもありません」
「だから死ぬと……そう、考えたのか」
「部長はそうではないと……? 」
……さっきから途轍もなく胸騒ぎがする。
良くない感覚だ。
吐き気がする。気持ち悪い。
こっちはこのまま眠りたいっていうのに。
もう身体なんて一ミリたりとも動かしたくないってのに。
面倒だ。なんで俺の邪魔をするんだ。
「ああ……そうだった……」
確かこういう時に使えそうな『力』を手に入れたんだっけ?
「おっと! そろそろぶつかるらしいぞ。モニターがある一番近い部屋は? 」
「は、はい! こちらです! 」
「……よしよし。……監視衛星からの映像にしては……中々にいい画質と画角だ。横たわる彼の姿がはっきり見える」
「……はい」
「そう心配そうな顔をするな。余計なことを考えると見逃してしまうぞ? 」
「え? 」
「よく目に焼き付けることだ。『決着』は恐らく……………一瞬だ」
全身が重い。
どうして自分がまだ瞼を持ち上げられているのかも分からない。
腕を伸ばすのってこんなに力がいるんだっけ?
[魔力]の操作方法は?
もう、よく思い出せない。
あまりにも眠すぎる。
まあ……いいや。
「【魔力掌握】」
とりあえず……。
「『消失』」
……お前は消えろ。
「「「は? 」」」
「消えた……!? 」
「そんなバカな……!? 」
「誤報ではないのか!? 」
「爆発はした……だが、それを奴は……かき消した……? 」
「おい! もう一発食らわせてやれ! 」
「そうだ! 効果があるまで何発でもぶち込んでやれ! 」
「……」
「なんだ!? 」
「どうした!? 急に黙って! 」
「……今ので『全部』なんだ」
「…………え? 」
「運用できる爆弾は全てぶつけた。全てが無事に爆発した。間違いない」
「じゃあ……」
「つまり……? 」
「手詰まりだ。我々にはもう……『彼』を害する方法が何も無い」
「あははは! 素晴らしい光景だったな! 見たかね!? アレが今の彼だ! 」
「……」
「『新兵器』が一瞬で消し炭だ! まさに究極! あれこそ王を超えし力! 」
「……『部長』……彼は……アレは……いったいなんなんですか? 」
「んん? まだ分からないか? 城本剣太郎は……【覇王】を食らうことで……【勇者】と同じ場所へ至ったんだ。つまり我々にとっての――――」
――――『神』ってことだ。




