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重なる異変

 気を抜いたつもりは一切ない。


 手加減しようなんて欠片も思っちゃいない。


 集中していた。


 警戒していた。


 感覚を研ぎ澄まし、張り詰めていた。



「見失った!? 」



 でも気づいた時には遅かった。


 目の前から消えた敵の姿を探すこと数瞬。



「【虐殺術】――『剥轢ヰ』」



『奴』の声は空の上から降ってきた。



「ぐぎぃい……ぐぅううう……! 」



 速い! そして重い! さっきよりもずっと! 



「【虐殺術】! 」


「『 乱打』! 」



 たしかに何か嫌な予感はしていた。だけど確信は今やっとすることが出来た。


 コイツ……明らかに強くなってやがる!



「相打ちか……」


「みたいだな……」



 分からない。新しく経験値ポイントを掴まないままどうやって自分を強化することが出来たのか。どうやって消耗しきった体力をひねり出したのか。


 なんらかの【スキル】の効力か。


 それとも【魔法】によるものなのか。


 正直なところ検討もつかない。



「じゃあコレなら……? 」


「やってみろ! 」



 相変わらず厄介な【偽装】はそのまんま。だからコイツのステータス上で俺の目に見える変化は一切ない。



「【虐殺術】――」


「【棍棒術】――」



 だけどグリップ越しに伝わる力が――。


 目でやっと追い切れるほどの速さが――。


 眼前で繰り広げられる技術の粋が――。


 打ち据えた時の反発力が――。


 肌で感じ取れる魔力が――。


 ――目にした情報の全てを否定する。


 俺の全身全霊が、戦闘勘が、これまでに積み重ねた経験が、この男が以前とはもはや全くの別人であると主張している。



「――『兇刃羅刹』!」


「――『フルスイング』! 」



 そして最後の攻防が始まった。



「ぐっ……! 」


「っ……! 」



 互いの力と速さはほぼ互角。瞬間的に出しうる最高出力をぶつけあった俺たちは反作用で後方へ勢い良く吹き飛ばされた。



「……やるな」



 今の一瞬の鍔迫り合いはなかなかに効いた。手のひらが途轍もなく痺れ、衝撃を受け切った右腕がブルブルと小刻みに震えている。


 どうやら、これからは近距離での真っ向勝負で主導権を握ることは難しいらしい。



「『獄炎』! 」



 だったらこの距離感を活かして【魔法(えんきょり)】で崩す……そう判断したのが俺の他にもう一人。



「『輪廻断絶』! 」



 全方位から敵を飲み込もうと迫る炎の渦とそれを切り裂く紫光を放つ斬撃。


 2つの魔力はぶつかり合い、喰らい合い、掻き消えるように霧散した。


 まるで今の攻防が無意味だったと知らしめるように。



「……ダメか」



 意味のない呟きを、せり上がってきた胃液と共に吐き捨てる。


 そして荒れる息づかいを整えながら距離の離れた正面で、同じように苦しんでいる男の姿を見た。


 そうだ。


 認識を改めろ。


 いくら突然強くなったからって……とても動けそうになかった状態から復活したからといって……あの男は底なしの生命力を持つドラゴンでも、息切れという概念が無い亡霊系統モンスターでもない。


 アイツは俺と同じ体力に限りがある1人の人間(ホルダー)なんだ。


 敵が人間であるからこそ何かしら打てる手はあるはず……。



「ぐがッ! がはぁッ! 」


「――!? 」



 ちょうど、その時だった。


 遥か遠くにいた『男』が口から”大量の血液”を吐き出したのは。

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