純粋悪
コイツの顔色を見た瞬間。
コイツの魔力のざわめきを感じ取った刹那。
強く……確信した。
「止まったみたいだな? 成長が」
「やられたよ。驚いたよ。ファーストブラッド……まさかこのカラクリに気づかれてしまうなんて……」
虐殺が止まったということが。
コイツの凶行を期せずして止めるられたということが。
ステータスをわざわざ確認せずとも、【索敵】を使わずとも、俺には察知することが出来た。
コイツのポーカーフェイスから滲み出る感情――衝撃、悲哀、後悔などから容易に想像することが出来た。
「形勢はこれで逆転……――いや逆転しなかったと言うべきかな? どうやらボクはレベルが低いままで君に挑まなければならないらしい」
「なんだよ? 随分と余裕そうだな? もっと焦った方が良いんじゃないか? 」
だけど男はその心情とは裏腹に、まるで他人事のように現状を評価した。
逆転できなかったのは紛れもなく自分自身のことなのに。
「……余裕そう? まさか! 君との戦いに余裕な部分なんてある訳がない! ボクの心中はずっと不安でいっぱいさ! 」
「……?」
……なんだ?
……なんなんだ?
「だけど……不安が大きければ大きいほど……ワクワクも大きいんだよねぇー」
「え……? 」
わからない……。
俺には理解できない……。
「あれ? 君は共感してくれると思ったんだけどな……
? ボクと同じ『経験値をえるためなら手段を選ばない人間』である他ならぬ城本剣太郎君なら」
「……は? 」
コイツはさっきから何を言ってるんだ……?
冗談を言っているようには見えないコイツの意図はいったいどこにあるんだ……?
「うーん? だってそうだろ? 君がそれほどのレベルに到達したのはボクと同じような過程を踏んだからじゃないか。経験値となりうる存在を殺して、殺して、殺して、殺しまくったからこそ君はレベル200を超えられたんだろう? 」
「違う……! 俺が倒したのは――」
「人間ではなくモンスターだって? うん、確かにその通りだ。でもやったことは結局、同じだよね? 経験値のために何かを犠牲にし続けたからこそ今の君の強さがあるんだろ? 」
「……お前は人間もモンスターも同じだって言いたいのか? 」
「いやいやいや! そんな暴論を主張するつもりは毛頭ないよ。ただ君と共感し、共有したかっただけさ。これまでに辿ってきた道の険しさや苦労を。そして……確認したかった。ボクらは互いが求める存在になり得たということをね」
「……互いが……? 」
「レベルを極めつくしてしまった君のことだ。長らく経験値を得る機会なんて無かったよね。1ポイントすら獲得するのに一苦労だ。ボクにはわかるよ。続いていた成長が停滞することがどれほど苦痛なのか。どれほどかき乱されるのか」
「……」
「ボク等のレベル差は10未満。ステータスも極めて近しい。お互いのエサとしてボク等は十分に育ちきった。想像してみてよ? 自分がもう片方を殺すことが出来た時を。今までに見たこともないほどに莫大な量の経験値を獲得するまさにその瞬間を
「……」
「興奮してきただろ? ワクワクしてきただろ? もうすぐ俺たちのどちらかが【勇者】へ続く偉大な一歩を踏み出すことが出来るんだぜ!? なんて素敵で、素晴らしい響きなんだろう! 」
「…………お前は……狂ってる」
「フフッ。どちらかと言うと狂ってるのはボクじゃなくて……世界の方さ」




